2024年11月23日( 土 )

前田建設、前田道路の敵対的TOBに成功~子会社の道路は、なぜ、親会社の建設に徹底抗戦したのか(後)

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 クラウンジュエル、ホワイトナイト――。敵対的買収の防衛策である。親会社の前田建設工業が仕掛けた敵対的TOB(株式公開買い付け)に子会社の前田道路は対抗策を次々打ち出して徹底抗戦。親子会社による“仁義なき戦い”で、異例かつ異常なM&A(合併・買収)であった。

特別配当で現金を減らすクラウンジュエル作戦

 前田建が前田道のTOBに踏み切ったことで、前田道は腹を括り、前田建が保有する自社株を買い取って資本関係を解消する方向にカジを切った。資本提携解消の理由について「事業のシナジーが見込めないほか、経営の独立性を確保するため」と説明した。前田道の反対表明で、前田建のTOBは敵対的なものとなった。

 前田道は買収防衛策を矢つぎ早に打ち出した。2月20日、4月に開催する臨時株主総会で総額535億円の特別配当の実施について提案すると発表した。配当は1株あたりだと650円。今期配当(100円)とは異なる。今期配当と特別配当を合わせた配当総額は620億円。これは前田道の昨年12月の手元流動性852億円の73%にあたる。

 狙いはTOBの阻止にある。前田建は1月20日に発表したTOBの条件のなかで、前田道が純資産の10%に相当する額を配当として支払う議案を株主総会に提案することを決定した場合、TOBを撤回する可能性があるとの考えを示していた。前田道の12月31日時点の純資産は2,093億円。特別配当の規模は26%に相当する。

 今回の対策は、「クラウンジュエル」と呼ばれるものだ。買収対象者をクラウン(王冠)、その企業が持つ価値ある資産(現金)をジュエル(宝石)と例え、買収対象者から宝石を切り離すことで買収意欲を削ぐ方法だ。

 クラウンジュエルは、焦土作戦の一形態である。これは買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。

 2005年のライブドア対フジサンケイグループのニッポン放送株の争奪戦では、ライブドアがニッポン放送株の過半数を取得する前に、フジテレビジョン株などをフジサンケイグループ内外の企業に譲渡することが検討された。

ホワイトナイトを招く対抗策も実らなかった

 前田道の今枝良三社長は、メディアとのインタビューで、TOBへの対抗策として、「友好的である第三者であるホワイトナイト(白馬の騎士)も選択肢の1つだ」と述べている。

 前田道は2月27日、JXTGホールディングス傘下で道路舗装大手のNIPPOと資本・業務提携の協議を始めると発表した。NIPPOにホワイトナイトを頼み、前田建を撃退することを狙った。

 だが、前田道の対抗策は実らなかった。前田建による敵対的TOBは成立し、前田道は連結子会社に組み込まれた。前田建は、前田道に取締役を送り込む。

 当面の問題は、4月14日に開催される臨時株主総会で諮られる特別配当金。前田建は当然反対するだろう。NIPPOとの資本・提携の交渉も白紙を求めるのは間違いない。

 そのたびにトラブルが起きる。何よりも、敵対感情むき出しの幹部、社員、協力会社との関係を築くことができるか。

同族経営を堅持する前田建

 かつてゼネコンは驚くほど同族経営が多かった。ゼネコン危機が表面化する1997年以前、創業家が経営中枢にいたゼネコンは大手・準大手16社のうち11社もあった。

 90年代後半のゼネコン危機によって、法的整理に追い込まれた佐藤工業と青木建設、債務免除など私的整理となった熊谷組、フジタ、東急建設、飛島建設、長谷工コーポレーションの計7社では、経営責任を取って創業家出身の経営者が辞任したが、前田建はゼネコン危機を乗り切って同族経営を堅持した。

 北陸発祥のゼネコンは地縁・血縁で結ばれている。母体は佐藤工業だ。

 佐藤工業は1862(文久2)年に初代佐藤助九郎が富山藩主の命を受けて常願寺川の堤防工事に取り組むため、富山県柳瀬村に佐藤組を創業したのがルーツである。

 1883(明治16)年、飛嶋文次郎が福井に佐藤工業の下請として飛島組(現・飛島建設)を創業。ここから枝分かれしていく。

 1919(大正8)年、初代前田又兵衛が福井県小和清水で飛島組「前田事務所」を創業。現在の前田建設工業だ。初代又兵衛は、飛島組の取締役だ。

 1938(昭和13)年、飛島組の取締役だった熊谷三太郎が飛島組から分離独立して熊谷組を設立した。熊谷組の4代目社長の太一郎と、2代目前田又兵衛の娘が結婚し、熊谷家と前田家は縁戚で結ばれた。

 前田建は、北陸発祥のゼネコンで、唯一、同族経営の旗印を掲げている。創業家の御曹司、前田操治社長は、前田道との関係を修復できるか。経営者としての正念場だ。

(了)
【森村 和男】

(前)

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