「後出しジャンケン」のニトリが勝利~DCMとの島忠争奪戦の顛末(4)
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(株)ニトリホールディングス(以下、ニトリ)とDCMホールディングス(株)(以下、DCM)による(株)島忠の争奪戦では、島忠がDCMと一度結んだ経営統合の合意を撤回し、より好条件を提示したニトリに乗り換えた。 北海道発祥の2社による異例な買収劇となった。DCMによる友好的なTOB(株式公開買い付け)が進んでいたなか、「後出しジャンケン」のニトリに軍配が上がった。
ニトリの「東上作戦」の総仕上げは首都圏戦争の勝利
北海道発祥のニトリの「東上作戦」の総仕上げは「首都圏戦争」での勝利であるため、首都圏の家具やホームセンターの取得に動いた。
ニトリの創業者の似鳥昭雄会長は2016年ごろ、大塚家具の大塚久美子社長と会食して、大塚家具の買収をそれとなく打診した。久美子社長が、創業者の父親である勝久会長との権力闘争に勝利して鼻息が荒かったときであり、久美子社長は乗ってこなかった。ニトリにとっては「熟柿作戦」であったが、大塚家具は19年末に(株)ヤマダ電機(現・(株)ヤマダホールディングス)に支援を求めた。
ニトリは次に、LIXILグループ傘下のホームセンター、(株)LIXILビバの買収に動いたが、LIXILビバが「大きすぎて飲み込まれる」と乗り気でなく、すぐに白紙に戻った。LIXILビバは、今年6月に新潟県地盤の同業アークランドサカモト(株)のTOBを受け入れ、「小が大を喰う」買収劇が起きた。
ニトリは、17年ごろにも島忠に提携協議をもちかけた経緯がある。低価格の家具に強みをもち、日用品も幅広く展開するニトリにとって、ホームセンターと高級家具を融合した島忠は「うらやましいと思い、尊敬していた」(似鳥会長)相手だ。
似鳥会長はニトリとの商品開発ノウハウなどを共有すれば、「『おねだん以上の島忠』を実現できる」と、買収に並々ならぬ意欲を見せており、今回その念願が叶った。
北海道発祥の企業が強い「北海道現象」
1990年代後半、「北海道現象」という言葉がメディアを賑わした。
97年11月、明治時代から地元経済を支えてきた北海道拓殖銀行が破綻。「拓銀さんが潰れることは絶対にない」、と考えていた多くの北海道民には衝撃的な出来事であった。
そうした暗いムードのなかで、業績を堅調に伸ばしている複数の会社があった。いずれも小売・流通企業だ。当時、メリルリンチ証券(株)のトップアナリストであった鈴木孝之氏は「北海道のようにもともと消費環境が厳しい地域では、不況になるとコスト競争力がモノをいう。ここで勝ち抜いた道内の小売業は、全国に出て行っても勝てる可能性が高い」と分析。これを「北海道現象」と名付け、流通業界や株式市場で話題になった。
あれから20年余。新型コロナウイルスの感染拡大にともない、小売は市場縮小と再編の時代に直面している。この「暴風雨」が吹き荒れるなかで、存在感を増しているのが北海道発のチェーン企業だ。鈴木氏の予想は的中し、「北海道現象」が再来した。
コスト競争力を武器に、家具のニトリやドラッグストアの(株)ツルハホールディングス(HD)、ホームセンターのDCM、調剤薬局の(株)アインホールディングス(HD)は全国区にのし上がってきた。
20年前は道内のみであった「北海道現象」が、今や全国レベルでも「1人勝ち」の状況にある。ニトリは巣ごもり需要の追い風を受け、20年3~8月期で過去最高益となった。ツルハHDは5月にJR九州ドラッグイレブン(株)を子会社化したことで206店舗をグループの傘下に入れ、9月15日時点で、国内2366店舗と最大手だ。
北海道発のDCMホーマックが中核のDCMは10月上旬、島忠をTOB(株式公開買い付け)で完全子会社化すると発表。それに対抗して、ニトリが島忠の完全子会社化に参戦した。北海道発祥の企業同士が、首都圏を舞台に買収劇を繰り広げた。
北海道発祥の企業が強い理由は、北海道内の企業のメインバンクであった拓銀が倒産したため、銀行に頼らずに、徹底したコスト競争力を武器に自力で活路を拓いてきたためだ。
これらの企業は道外に進出し、強豪がいない東北地区などの同業者を買収して力を蓄え、「東上作戦」の総仕上げとして首都圏攻略に打って出た。DCMとニトリによる島忠争奪戦は、北海道発祥企業が全国ブランドの大手小売業を尻目に業界再編の主役に躍り出た画期的な出来事である。
(了)
【森村 和男】
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