Z世代を意識しながらコロナ禍での変化に対応を図る(前)
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現在の新型コロナウイルス感染拡大によりもっとも過酷な状況に置かれているといっても過言ではないのは「飲食店」「ホテル・旅館」業界。これらに属する会社がどのような時代認識をもち、経営努力をしているのか、原鶴温泉に位置する(株)泰泉閣の代表取締役・林恭一郎氏と海外含め飲食店を多店舗展開するアトモスダイニング(株)の代表取締役社長・山口洋氏に話をうかがった。2社の戦う姿は同じ時代を生きる私たちを鼓舞してくれるのではないだろうか。
(株)泰泉閣 代表取締役 林 恭一郎 氏
福岡市から約1時間の朝倉市。そこには福岡のなかでも有数の温泉地、原鶴温泉が広がる。「W美肌の湯」と呼ばれる美肌効果をもつ2種類の温泉や、筑後川を臨む抜群の立地で人気を博す原鶴温泉。なかでも泰泉閣は創業から71年の歴史をもつ老舗の名門旅館で、原鶴温泉を見守ってきた。1949年の創業以来、高度経済成長期の観光ブームとともに事業を拡大してきた。また92年の全国植木祭りの開催時に天皇皇后(現・上皇上皇后)両陛下がご宿泊されたことも有名である。
2020年は「試練の年」
今回の新型コロナウイルスの蔓延は全世界の経済活動に深刻な影響をおよぼしており、温泉地を含む観光業界はとくに致命的な打撃を受けている。
「2月頭に横浜のダイヤモンドプリンセス号から感染者が出たときはまだ他人ごとで、我々にとっては現実味のないものでした。しかし、中旬を過ぎて報道が過熱化してきたこともあり、予約のキャンセルが増えてきました。そして3月1日の安倍前首相による全国の小中高公立校の休校要請。そこからさらにバタバタと予約キャンセルが急速に増えてしまいました。通常、3月下旬から4月上旬は春休みがありますし、予約も入るのですが、今回はとてもご案内できるような状況ではありませんでした」。
4月7日の緊急事態宣言に福岡が入ったことにより、4月20日からの営業自粛を決意。結果的に6月末まで、72日間の休業状態となってしまった。金融機関の迅速な対応や国からの雇用調整助成金を活用することで自粛期間を乗り切ることができた。
「コロナがどのように感染していくか、ネットでは情報が錯綜していました。ただ1つ、『飛沫感染をする』ということだけはたしかな特徴として取り上げられていましたので、真っ先にフロントにアクリル板の設置や玄関ロビー前のアルコール消毒剤設置を行いました。また福岡県の感染対策助成金を使って非接触型の無人検温器を設置することができました。これらにより、スムーズに運営することができるようになりました」。
営業を再開したのは7月1日。この時から始まったのが「ふくおかの魅力再発見」という福岡県による観光キャンペーン。これとの相乗効果により、かなりの予約数が入った。林氏は当時のことを「正直これは想定外で非常に嬉しい悲鳴だった」とにこやかに話してくれた。
コロナ以外の試練も
時を待たずして、再び試練はやってくる。7月6日の夜から8日まで続いた豪雨により、床上浸水の被害を受けてしまった。しかし、過去の被災から得た教訓を生かし、館内で優先順位をつけ、当時多かった個人客の食事処をまず確保したうえで、全館の水はけと消毒を行った。このように、経験から得た迅速な対応により、豪雨からわずか10日で営業を再開することができた。
「被災以来、地元・福岡のテレビ局の取材はほとんど受けました。体力的にも厳しい面はありましたが、自分を鼓舞しながら頑張りました。コロナの時と違ってやるべきことが見えていたから頑張ることができたのかもしれません」。
コロナで変わる需要
客足が戻ってきてはいるものの、そこには以前とは違う特徴が見られる。それは「ひとグループの人数」。
「前年同月(11月)は団体客が多かったのですが、今回は個人のお客さまが増えました。三世代できてくれていた10人グループが4,5人になるなど、小さな家族単位で来館されることが多かったです」。
毎年夏休みには塾の勉強合宿の予約が入っていたが、コロナ禍を鑑み、中止となった。その分もすぐにネット予約に向けて開放するなど、徐々に今までの調子を取り戻していった。
「この状況はしばらく続くと思うので、団体客ではなく、少人数の方にシフトしていかなければならないと思います。バイキング形式だった食事をコース形式にするなど、7月1日の営業から変えていっています」。
またリモートワークの普及による働き方の変化についても考えをめぐらせているようだった。「この4月から6月を経験して、皆さん『東京じゃないとできない仕事なのか?』と考えることが増えたと思います。そういった企業が地方に拠点を移してくれることで新たな経済活動が生まれてくれたら、当然我々にも間接的にプラスの影響が出てくるのではないかと期待しています」。
変化に対応できる力を
「団体から個人へとお客さまが変わることで、お客さまの趣味嗜好がより千差万別になっていきます。また所得の格差も広がっているため、滞在のしかたが変わります。旅館にもお金をかけて贅沢に過ごす方もいれば、そこにはお金をかけず、観光にお金を使おうとする方もいます。このような違いに対してアンテナを張ったうえで、旅館づくりをしていかなければならないなと思いました」。
需要の変化に気づく、マーケティング能力がより一層求められるようになったと気づかされた。最近では名物のジャングル風呂が「エモい」と話題になったことに驚いたそうだ。違う感覚をもったZ世代が何を考え、どんなことに興味をもつのかについて反応できるようにならなければならないと林氏は語る。
(つづく)
【S】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:林 恭一郎
所在地:福岡県朝倉市杷木志波20
設 立:1960年12月
資本金:1,600万円
売上高:(20/2)6億7,000万円
<プロフィール>
林 恭一郎(はやし・きょういちろう)
1975年長崎市生まれ、太宰府市育ち。筑紫丘高校・立教大学卒。2002年より泰泉閣に勤め、09年代表取締役に就任。老舗旅館の3代目として、原鶴温泉街の活性化に尽力している。趣味は映画鑑賞、スポーツ観戦。関連記事
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