2024年12月23日( 月 )

【大手企業を糾弾する/大和エネルギー】脊振山系の風力発電所建設計画からみえること(前)「輝く小さな町」糸島市の豊かな自然を守ることこそ、私たちの責任

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 「脊振山系に大規模な風力発電所の建設計画」という一見すると心地よいタイトルを掲げて、大和エネルギー(株)(大阪市阿倍野区)が自然の力を活かす再生可能エネルギー事業の推進を計画している。

 結論から述べると、山の上の方には巨大な人工物を建てるべきではない。土砂災害の危険性がますます高まり、水が汚染されて甚大な影響をおよぼすからだ。

 「(仮称)DREAM Wind 佐賀唐津風力発電事業」の概要を一読すると、佐賀県唐津市と福岡県糸島市の県境付近の脊振山系に、3枚の回転翼とそれを支える最大高さ159mのタワーからなる風力発電機8〜10基が建設されるという。なお、土地区画として見ると糸島市は外れている。「風という自然を最大限活用して二酸化炭素を排出せず大気汚染をともなわないクリーンエネルギーをつくる事業。地球温暖化防止にも貢献する風力発電事業推進の何が悪いのか」とする見解もある。本当にそうであろうか。

 大和エネルギーの風力発電事業計画について、糸島市の龍国寺・副住職の甘蔗健仁氏は、以下のようにコメントした。

 この事業は、標高700mの山の尾根近くに巨大な風車を建設することに大きな問題があります。かつて日本人にとって”山”は、山岳信仰や崇拝の対象でした。とくに、山の上方には「田の神」や「山の神」が住むとされ、また修験道として大切に守られてきた場所でした。また、それは山の上方が水源として、豊かな恵みをもたらすことを意味しています。山の尾根近くの木を大量に伐採し、山を削れば、土砂災害の危険性は高まります。

 そうでなくても近年の異常気象で、糸島では樹齢1000年を越えるカシが倒れました。昨年の台風でも幹周3mのケヤキが倒れ、全国でニュースになりました。風力発電の建設では、風車の設置に加えて送電線や巨大な資材を運ぶための道路工事もともなうため、山が荒れると聞きます。

 加えて、風車を建てるために4〜20m程の穴を掘ることにより水脈が変わり、大雨の際にはこれまでとは違った場所から水が噴き出してくるでしょう。山の上方には、巨大な人工物を建てるべきではないのです。

 この巨大な風車を建てるために使われる建設資材による水の汚染も心配です。山の上を汚染すれば、農家の方々だけでなく漁業を生業とする方にも影響をおよぼすと想像できます。そうなると取り返しがつかないことになるでしょう。井戸水は、降った雨が20年、30年かけて私たちのもとへ届くそうです。企業は環境アセスメントを行うと言っていますが、以上のような状態で環境アセスメントを行っても、その結果を信頼することはできません。

   昨年「輝く小さな街」2021年ランキングで、糸島市は観光地ではなく「生活の質が優れているまち」として世界3位に選ばれた。評価のポイントは糸島市が福岡都心から近距離でありながら、穏やかな自然が残っていること。糸島市HPを参照すると、「またこの自然こそ守るべき宝です」とも書かれている。風力発電所建設は、これらの評価に反する行為である。糸島市はこのことをどのように考えているか。

 続けて甘蔗氏は、以下のように語る。

 この風力発電事業について初めて知ったのは、昨年8月に見た知人のFacebookでした。そのころは具体的な内容をまったく知らされなかったので、どのような風車が立つのか、どこに建つのかについては、知人の情報だけが頼りでした。

 その後、年が明けた1月に「唐津∧糸島の山の未来を考える会」が、大和エネルギーに事業計画の説明会を依頼して、具体的な計画の話をようやく聞くことができました。この計画が住民の知らないうちに進められていることに対して、強い不信感をもっています。再生可能エネルギー、脱炭素社会を目指すのならば、なぜもっと公明正大に市民に周知しないのか、と感じます。その後の説明会においても、この事業計画を懸念する住民から、たくさんの質問がなされました。これらの質問に対して、もっと丁寧な回答が必要だと思います。

 なぜなら、この風力発電施設でつくられた電気は、糸島市ではなく福岡市に送電されるので、糸島市には何もメリットはありません。建設予定地は大和エネルギーが主張する通り、唐津市七山側ですが、完成すると糸島市側からはっきりと見えます。これまで見てきた風景は一変します。ここには、先祖代々暮らしてきた営みがあり、全国各地からこの糸島を選んで移住してこられた方もたくさんいらっしゃいます。「区画外」として済む話ではありません。山はつながっています。この豊かな暮らしを守っていくことがご先祖さまに対しても、未来の子どもたちに対しても、今を生きる人間の責任ではないでしょうか。

   以上のことからもわかるように、同社の事業計画は推進するべきではないのである。

(つづく)

【河原 清明】

(後)

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