2024年11月23日( 土 )

コロナ禍の店舗経営で気づく変化 需要と人間関係におけるトランジションとは?(後)

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(株)一平ホールディングス
代表取締役社長 村岡 浩司 氏

 「九州パンケーキ」を手がける(株)一平ホールディングス代表取締役社長・村岡浩司氏は宮崎県出身の生粋の九州人。九州を愛し、九州とともに生きる村岡氏は著書『九州バカ 世界とつながる地元創生起業論』(2018年4月)を上梓するなど、九州への強いこだわりを見せる。なぜ「宮崎」ではなく「九州」を掲げるのか。九州の今をどのように見ているのか。村岡社長に話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 取締役 緒方 克美)

コロナ禍は時代の変化を露呈させた(つづき)

 ──コロナ禍の店舗経営を通じて、気づいたことはありますか。

 村岡 当社ではコロナ禍によって3店舗が撤退しましたが、それらはすべて商業施設と繁華街に位置しているものでした。これまでは人が集まるところに、ヒットしたビジネスを「再現する」ことでビジネスが成り立っていたと思います。同様のことを多くの企業が行うので、駅ビルなど都会の一部エリアが奪い合いになり、賃料が高くなる。そこで成功すればほかのエリアに出店するチャンスが与えられる、といった流れがあったと思います。

 しかし、いま私たちが注目しているのは、これまで集客が難しいとされてきた郊外店です。時代の流れは「便利だ」ということから、「豊かさの再定義」に向かいつつあると感じます。FCやチェーン店のような「どこの店舗に行っても同じものを享受できる」というのは、資金力・人材育成力において実力があるからこそ成立するすばらしいビジネスモデルですが、情緒的価値と機能的価値の掛け合わせで成立するブランディングという面では、前者の比重が軽くなってしまいます。一方で、一見再現性の低いアナログなサービスでも、しっかりと“ここにしかない価値”をつくり出すことができれば、遠くても行きたいと思う。珍しいものに触れたら写真を撮り、インスタグラムに上げる。情緒的価値はデジタルと極めて相性が良いと思います。

第三回復興デザイン会議で「復興設計賞」を受賞した
観光複合施設「HASSENBA」再建プロジェクト

人と人とのつながり方も変わっていく

 ──世代の移り変わりとともに、世の中の変化も感じられますか。

 村岡 若者は今日を起点とする関係づくりに長けていると思います。今までは「誰かの紹介があるから」「昔から看板を上げていて、みんなが知っているから」といった「信用」を基に取引や契約を行っていたと思います。しかし、今はクラウドファンディングのように、実績はないけれど、「その事業に対する思い入れが強いことを感じたから、その人を応援してあげたい」という信頼社会へと移り変わっていると思います。実際に私もある工務店の方とSNSでつながり、そこからDMでやり取りしたり、実際にお会いして30分程度話したりして、すぐに改修工事の発注をかけました。過去の仕事ぶりはSNSで見られますし、実際に会ってみたら実直な人柄で、小規模の仕事であれば一度任せてみたいと思いました。このような「今日」を起点として始まるコミュニティをつくるのがすごく上手なのが若者だと思います。

 一方で、地元の商工会や会議所などの経済団体で頭角を現せない、フォロワー的な立ち位置の人も多くいます。でも、「合わなきゃやめればいいでしょう」「頑張るところは別にあるでしょう」といった、その場所以外の選択肢ができ始めたのは、時代が多様性を許容する良い方向に向かい始めている兆しではないかと思います。だからといって、日本社会の構造自体がこのようになったとはいえません。いまだに息苦しい社会で、大変なことは多いですが、ダイバーシティの考え方は少しずつ根付き始めているのではないでしょうか。

 ──確かに若者は「人は人、自分は自分」という考え方をしている印象があります。

 村岡 ただ、ダイバーシティを間違えて捉えてしまうと、孤独につながってしまいます。1人ひとりがバラバラで、「自分って何だろう」というアイデンティティーに悩んでしまう。今の日本社会に必要なのは、ダイバーシティとインクルージョンのバランスではないでしょうか。だから私は、九州という1つの島に住む者同士で助け合うことを提唱しています。

 今の日本社会では隣にどのような人が住んでいるか知らないという人も多く、ご近所づき合いや協調性といったものがなくなっていると思いますが、九州の人にはまだ「隣の人のために」という考え方が残っていると思います。九州各県にある県境という名の壁を壊すことが課題だと思います。

本社は小学校跡地の複合施設「MUKASAーHUB」として地域へ開放している
本社は小学校跡地の複合施設
「MUKASAーHUB」として地域へ開放している

    ──今後、どのような社会になっていくべきだとお考えですか。

 村岡 自由に発言できる社会になる必要があると思います。地元のことを一部の年代の人たちだけが考えるのではなく、世代横断的に議論すべきです。私自身も10代や20代の人たちと話す機会がありますが、やはり面白いなと感じます。フラットな立場でお互いに意見交換し合える社会が構築されてほしいです。

 ローカルビジネスをまちの活性化に重ねる私たちの仲間は、それぞれの分野でビジネスという手段を使ってこの世の中を面白くしたいと考えています。それぞれの人たちが得意ジャンルでさまざまな事業を展開していくうえで、最終目標として「九州を盛り上げること」を共有できたら、地域はもっと盛り上がっていくと感じます。

 コロナ禍という未曽有の事態は、「世代を超えて全員が同じ感覚を共有した」という世界的なイベントを巻き起こしました。全員が同じ局面に立ったことで、同じ危機意識、同じ目標をもって動いていました。若者世代の全員がオンラインスキルを身につけたというのも特徴です。これによって、世界はもっと近い存在になっていくはずです。

 社会全体のシステムの変化についていくことが難しいという意味では、大変な時代でもあります。これからの時代をどのように切り開くか、そして会社の成長と地域の発展をどのようにリンクさせていくかについて、これからも悩みながら邁進していこうと思います。

(了)

【文・構成:杉町 彩紗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:村岡 浩司
所在地:宮崎市高岡町小山田字麓973-2
設 立:2019年3月
資本金:1,500万円
URL:https://ippei-holdings.com


<プロフィール>
村岡 浩司
(むらおか こうじ)
(株)一平ホールディングス 代表取締役社長 村岡 浩司 氏1970年生まれ、宮崎市出身。“世界があこがれる九州をつくる”を経営理念に掲げ、九州産の農業素材だけを集めて作られた「九州パンケーキミックス」をはじめとする「KYUSHU ISLAND®/九州アイランド」プロダクトシリーズや「九州パンケーキカフェ」を国内外に展開。九州・沖縄で連携、ものづくり産業を支援する共創・共同体マーケティング「九州アイランドプロジェクト」の運営リーダー。ハチドリ電力九州顧問、テラスマイル(株)社外取締役、くまもと農家ハンター顧問、アトツギU34メンター、ONE KYUSHUサミット代表発起人などコミュニティー活動にも取り組んでいる。

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