販促会場は街のお店 目指すは「光ある福岡の社会構造改革」(前)
-
(株)マーケティングアプリケーションズ
代表取締役 萩野 郁夫 氏消費財メーカーや広告代理店が利用する市場調査。これに特化したプラットフォームサービスのリーディングカンパニー、(株)マーケティングアプリケーションズは東京で開業しながら福岡に本社機能を移し、別事業としてアプリ「otonari」をリリースした。「九州の社会構造を変えたい」と話す同社代表・萩野郁夫氏。このアプリがどのように社会に影響を与えていくのか、そして九州の可能性を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 取締役 緒方 克美)「弱い立場」のメーカーに新しい宣伝方法を
──「otonari」は、街中の飲食店や美容室などさまざまな店舗でメーカーのサンプル品を無料でもらえるアプリです。開発の経緯をお聞かせください。
萩野郁夫氏(以下、萩野) 本業である市場調査のクラウドサービスのシステム構築で、食品メーカーなどの関係者とお話させていただいた際、業界特有の悩みを耳にしたことがきっかけです。
商品を製造するメーカーは良い物をつくることが仕事であり、それに努めることでユーザーを増やしていきます。しかし、商品をユーザーに知らせるのはテレビや雑誌といったメディア、実際の販売はスーパーやコンビニなどの小売店と、製造以外の部分はすべて周囲の企業にやってもらう必要があり、立場としては弱い存在です。このように、テレビCMなどに頼るしかなかったメーカーの新たな広告手段になるのが「otonari」です。
広告といえばテレビCMが王道ですが、近年はスマホを見ている人が多く、そもそもテレビが家になかったり、家にあってもデバイス化していたりと、視聴者数が減少しています。しかし、制作会社や芸能人など、テレビ業界に携わる人があまりにも多く、これまで圧倒的な力をもってきたわけですから、いくら費用対効果が薄くてもこの業界を捨てることができないのです。
また、小売店においても、陳列棚に置いてもらうことができなければ、いくら良質な商品だったとしても消費者の手に届くことはありません。棚から落ちればそれで終わり。「棚の争い」に勝つために、テレビCMの放送規模・費用、起用している芸能人のネームバリューで小売店にアピールすることになり、ここでもテレビの強大さを感じます。効果がないのにテレビに頼らざるを得ないメーカーを助けtonari」です。
──商品を配るとコストが大きくなるというイメージがありますが、それだけのメリットがあるのでしょうか。
萩野 おいしそうな映像が流れるテレビCMよりも直接的にユーザーへリーチすることが可能になります。たとえば、世間にはさまざまなメーカーがつくったビールが流通していますが、ビールを買う時に「この銘柄以外は許さない」という強いこだわりをもっている人は少ないと思います。ビールが買えたらそれでいい。つまり、「ビールであれば何でもいい」という人の方が多数派で、つまるところ「選んでいない」のです。習慣や後付け的な理由、反射的な行動で考えずに商品を手に取っています。だからこそ、「飲んだことがある」という経験が消費者に対し、最も強烈なインパクトを与えます。それだけ消費者行動というのは単純なのです。
消費者に経験させることで売上を伸ばしている最たる例が、エナジードリンクの『モンスター』です。同製品はテレビCMを一切打たず、街中で若者向けに直接配布するという宣伝手法だけで人気を集めています。この手法の目的は、「商品を飲んだことがある」という経験者を増やすこと。同じジャンルの商品で悩んだら経験のある商品を手に取りやすい、という消費者行動が売上を伸ばしています。まさに「体験型プロモーション」です。
──同じ「配布」という手法でも、『モンスター』の街頭配布と違って「otonari」は店舗に置くかたちです。
萩野 店舗に置くことで、サンプル品を受け取るユーザーや宣伝をしたいメーカーだけでなく、サンプル品を設置するお店にもメリットが生まれます。大手メーカーの菓子や日用品のサンプル品を完全無償でお客さまに配布することができて、アプリ上に表示された地図では「どのようなお店で、どのようなサンプル品を配っているのか」を知ることができるため、「otonari」が来店のきっかけになるのです。1度サンプル品をお渡しさせていただいた方を「おとなりさん」として登録、以降、おとなりさんにはメッセージを一括で送信できるという販促ツールとしての側面をもっています。さらに、1つの配布につき20~50円程度(0円の場合も)の報酬をお支払いしますので、新しい収入源とすることができます。飲食店などの店舗も、SNSなどを使ってさまざまな宣伝をしていますが、ここでも新しい広告塔になることができます。
もう1つ、お店にきてくれたお客さまとの間にプラスアルファの会話が生まれます。「otonari」は、お客さまを「おとなりさん」として、失っていたコミュニケーションを再び取っていこうという狙いをもっており、実際にそれが叶えられてきています。通常、お店でのやりとりといえば、値段分の商品を受け取り、店員に料金を支払う。これ以上の付加価値がまったく生まれません。しかし、「otonari」のシステムを導入している店舗では、「このアプリを入れてくれたらお菓子を渡せるんです」と、普段の買い物にはない会話ができるので、サンプル品を渡す店舗に経済的なメリットがもたらされるだけでなく、プラスの会話とサンプル品で精神的なメリットがお客さまに生まれます。まさに三方よしの宣伝手法なのです。
「フリーミアム(フリー(無料)とプレミアム(割増料金)を合わせた造語。基本的なサービスを無料で提供し、便利ツールなどの上位サービスを課金対象にする)」というビジネスモデルや、NetflixやAmazon Primeといった有料の動画コンテンツサービスに付随する無料の体験期間など、“無料”はあってしかるべき存在なのです。車のディーラーのところに行けば試乗、洋服屋では試着をさせてくれますが、食品は配らないことには試すことができません。それを可能にする「otonari」は、広告の新たなインフラになることができると確信しています。
(つづく)
【文・構成:杉町 彩紗】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:萩野 郁夫
所在地:福岡市中央区大名2-2-48
設 立:2006年9月
資本金:1億円
URL:https://mkt-apps.com
<プロフィール>
萩野 郁夫(はぎの いくお)
徳島県出身。九州大学大学院芸術工学研究科を修了後、大手セキュリティー会社に勤務。退社後、ITベンチャー企業に就職し、市場調査クラウドサービスの基となる事業の立ち上げに携わった。2006年(株)マーケティングアプリケーションズ(旧・ボーダーズ)を設立。関連記事
2024年11月20日 12:302024年11月11日 13:002024年11月1日 10:172024年11月22日 15:302024年11月21日 13:002024年11月14日 10:252024年11月18日 18:02
最近の人気記事
おすすめ記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す