2024年12月23日( 月 )

販促会場は街のお店 目指すは「光ある福岡の社会構造改革」(後)

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(株)マーケティングアプリケーションズ
代表取締役 萩野 郁夫 氏

 消費財メーカーや広告代理店が利用する市場調査。これに特化したプラットフォームサービスのリーディングカンパニー、(株)マーケティングアプリケーションズは東京で開業しながら福岡に本社機能を移し、別事業としてアプリ「otonari」をリリースした。「九州の社会構造を変えたい」と話す同社代表・萩野郁夫氏。このアプリがどのように社会に影響を与えていくのか、そして九州の可能性を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 取締役 緒方 克美)

「よそ者」だから出せるアイデアと行動力

otonari    ──貴社は21年2月に本社機能を東京から福岡へ移転し、萩野社長も東京と福岡で半々の生活を送られています。

 萩野 私は徳島県出身のいわゆる「よそ者」ですが、道州制の導入による九州の自立を支持しており、コロナ対策や対外的な交易など、九州独自のルールを生み出して実行していくことがよいと思います。日本全体が少子高齢社会となるなか、出生率や自給率が非常に高く、水や資源に溢れているこの地域には光しかないのです。

 しかし、九州の人で抜本的な変革への野望をもって行動している方は少なく、おとなしいと感じます。魅力の詰まった土地ですから、もっと九州の可能性に希望を抱いていいと思います。ただ、大企業が力をもっていて、突飛な発言・行動ができないのは仕方のないことです。私も、自分の地元で何か大きく行動しようと思ったら、身内に変な目が向けられないかと気になってしまいますから。その点ではよそ者のほうがやりやすいかもしれないですね。多少敬遠されても大丈夫なので、さまざまな提案やその実行ができます。ただ、その土地を変えたいと思うなら、情熱だけでは不十分です。新しいアイデアを生み、プランを立て、それを実行していくことができなければならないと思っています。

 ──福岡出身で地元愛の強い人が福岡や九州のために立ち上がることが多いなかで、萩野社長は稀有な存在です。萩野社長が感じる福岡の可能性とは、どのようなものでしょうか。

 萩野 福岡市は限定的な地域に人が集まっていて、なおかつ人口が増加し、資源にも恵まれた土地ですから、何か新しいことを始めたり、そのための実証実験を行ったりする場所として適していると思います。

 近年話題に上がるベーシックインカムも、福岡市というエリアのなかであれば導入可能ではないでしょうか。日本が世界に誇る文化や芸術の継承を担う若いクリエイターやアーティストは、世間に認められるまでは生活を維持するのが難しいという状況に陥ります。そうしたダイヤの原石たちの生活を守るため、1カ月1万円といった小額でも、ベーシックインカムの導入が必要だと考えます。

(株)マーケティングアプリケーションズ 代表取締役 萩野 郁夫 氏
(株)マーケティングアプリケーションズ
代表取締役 萩野 郁夫 氏

    個人によって収める所得税の金額は変化しますが、十分に稼ぐことができない人にとって、所得税の存在はマイナススタートのきっかけになってしまいます。私が提案したいのはいわゆる「負の所得税」と呼ばれるものですが、一定収入のない人には政府から給付金を与える。そしてある程度稼げるようになったら、また税を納める…。税制を変えるだけで難しいことではないのですが、その税制が煩雑なので導入が難しいのが現状です。国家規模では難しいですが、まずは地方から変化していく。不可能ではないことだと思います。

 ベーシックインカムについてはさまざまな切り口による見方があり、たびたび論争になってはいますが、日本という社会はその実験が可能な場所ではないでしょうか。キャッシュレス化が世界的なトレンドになっている一方で現金利用が続いていたり、CDや紙の本が売れ続けたりと、文化が隅々まで伝播し持続する性質をもっている日本はやはり独特で、その性質を無理に変えずに「我々はガラパゴスのなかにいるのだ」と割り切っていいと思います。

 ──新しいアプリやサービスのリリースの場所は東京や大阪というイメージがありますが、福岡を選んだのはそういった変化の可能性を十分に含んだ土地だからでしょうか。

 萩野 通常、グローバリゼーションという世界的な傾向は「広範囲におよぶサービスの提供」ですが、今はその時代ではありません。「一定の範囲を決め、その範囲はすべて取る」という垂直的な戦略を推し進めていくことが社会構造の変化をもたらすと考えています。

 九州にはパッションあふれる小規模事業者が多いです。今はそれぞれがバラバラに動いていますが、彼らを束ねてまとまることができたら、これまで見たことのない大きな力を発揮することができそうです。

(了)

【文・構成:杉町 彩紗】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:萩野 郁夫
所在地:福岡市中央区大名2-2-48
設 立:2006年9月
資本金:1億円
URL:https://mkt-apps.com


<プロフィール>
萩野 郁夫
(はぎの いくお)
徳島県出身。九州大学大学院芸術工学研究科を修了後、大手セキュリティー会社に勤務。退社後、ITベンチャー企業に就職し、市場調査クラウドサービスの基となる事業の立ち上げに携わった。2006年(株)マーケティングアプリケーションズ(旧・ボーダーズ)を設立。

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