洋上風力、三菱商事の落札でコスト激減(後)
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三菱商事(株)と中部電力子会社の(株)シーテックのコンソーシアムが昨年12月、経済産業省と国土交通省の再エネ海域利用法による秋田県と千葉県の3海域の着床式洋上風力発電プロジェクトを落札した。これらの固定価格買取制度(FIT)による買取価格の最安値は11.99円/kWhとなり、コストが課題とされてきた洋上風力発電で「価格破壊」が起こった。
コストダウンの理由は?(つづき)
(2)建設時のリスクを明確化
欧州では、2021年末までに累計2,833万kWにおよぶ洋上風力発電の建設実績があり、今では入札価格はkWhあたり10円未満だ。「欧州で発電コストが低いのは、日本より風況が良く、洋上風力の建設に必要な船や港などのインフラ、製造設備が整い、建設やメンテナンス人材が多く、法規制の整備もほぼ完了して事業リスクが低いためです。洋上風力産業が大規模化して集約されているため、規模の経済で量産効果が出ています」(上田氏)。
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実践的な脱炭素論~日本の再エネ普及の現状と展望(前)とくに欧州では、事前にリスクを解決したうえで効率的に開発を進められるため(いわゆる「セントラル方式」)、低価格を実現できている。日本では、洋上風力発電のインフラや制度がまだ完全には出来上がっていないため、たとえば漁業交渉や送電系統整備のように、どのようなリスク要因があるかが不透明である。こうした課題が事前に解決されていれば、リスクが減り、コストを削減できる。たとえば三菱商事は、セントラル方式による入札を実施しているオランダで洋上風力の開発実績をもつ総合エネルギー事業会社Enecoを2020年に子会社化しており、欧州の知見や人材を生かして事業性を評価している。また、三菱商事の案件を建設する鹿島建設(株)は、オランダの建設大手Van Oordによる欧州での経験を基に見積りを行い、リスクを明確化している。
このように欧州では、日本ではまだ採用されていないセントラル方式で入札とプロジェクトが運営されていることも、コストが低い理由となっている。日本では各入札企業が個別に行っている海底の地盤調査や系統連系の検討、環境アセスメント、地元対策などを国が集約して行うことで企業に無駄なコストがかからず、事業の予見性が高くなっている。日本政府もセントラル方式の導入を検討しており、入札に関する議論と候補3海域での事前調査が始まりつつあるので、将来はより効率的に洋上開発が行える可能性がある。
洋上風力発電の開発費用は1サイトあたり数千億円におよぶ。そのため、たとえば系統連系が難しかったり、建設が遅れたり、漁業組合など地元に強力な反対派がいたりすると、運転開始時期が後ろにずれて融資に対する金利が増えるため、正確なリスク評価は不可欠だ。また海外の風車メーカーから仕入れる場合には為替の影響を受けるため、注文してから約10年後に納品するなど将来のことをどれだけ正確に見通せるかが、入札時のコストに大きく響きやすい。風車は技術革新・大型化が速いため、10年後に実際に使う機種が入札時点と同じままだとは考えにくい。
「風力発電の制度を工夫して、たとえば注文してから1~2年後に納品できるなど短期間で意思決定してすぐに建てられる仕組みにできれば、日本の洋上風力発電のコストはさらに下がると考えています」(上田氏)。
資金調達の融資条件も影響
入札価格のコストダウンは、資金調達における金利も影響した可能性がある。電力会社、ガス会社、商社などネームバリューがあり高格付けの企業は、資金調達で有利な融資条件を引き出しやすいためだ。
またオーステッドなど欧州企業では、比較的低い利益率で入札し、開発が終わった後にプロジェクト利権のうち半分程度を年金ファンドなどにより低い利益率で販売することもあるという。するとレバレッジが効いて自社の収益率が跳ね上がるため、利権の販売先をもつことができれば、低い利益率で応札しても収益を厚くできる。三菱商事は今回、Amazonなどの大手企業と提携しており、日本でもこのような方法が広まる可能性もあると考えられる。
(了)
【石井 ゆかり】
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