アトピー性皮膚炎患者に朗報 佐賀大、富山大のチームが痒み物質を特定
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佐賀大学と富山大学の共同研究チームが、若年層の患者が多いアトピー性皮膚炎の原因になるタンパク質を特定、既存化合物が治療薬に使えることを突き止めた。新薬の上市を念頭に、日本医療機器開発機構(東京都中央区)を通じて共同開発を希望する製薬会社を探している。
20歳以下は10人中1人が患者
アトピー性皮膚炎は、悪くなったり、良くなったりを繰り返す強い痒みをともなった湿疹が主症状の皮膚病。痒みが痒みを呼んで皮膚を引っ掻き回し、集中力の低下や睡眠不足といった日常生活の支障をきたす。
佐賀大学医学部の出原賢治教授(分子医化学)によると、日本では20歳以下の若者や子どもでは10人に1人が患者という。患者の多くは、血縁者にアレルギー体質の人がいるなど「アトピー素因」があるとされる。
モデルマウス作成で大きく前進
新薬開発は、出原教授が2012年、炎症が起こる際に産生される基質タンパク質の1つ「ペリオスチン」が、アトピー性皮膚炎の発症に深く関与するのを突き止めたのが端緒になった。ただ、この段階ではペリオスチンとアトピー性皮膚炎の特徴である強い痒みを引き起こす仕組みなどは不明だった。
大きく前進したのは2019年。富山大学医学部の北島勲教授(臨床分子病態検査学)らとの共同研究で顔だけに強い痒みを訴えるアトピー性皮膚炎のモデルマウス「FADSマウス」の作成に成功した。FADSマウスは、顔面以外に皮膚炎が発症せず長命で長期観察ができた。
この通常のFADSマウスとペリオスチンを意図的になくしたFADSマウスを観察したところ、ペリオスチンをなくしたFADSマウスは顔を引っ掻かず、ペリオスチンが痒みを生じさせる起痒物質と分かった。
痛みや痒みは脳を介する高次反応で、ペリオスチンによる痒みが脳に伝わる仕組みの解明も求められた。ここで、痒みの神経機能を解析する富山大学薬学部の歌大介准教授(応用薬理学)が参加。2つの異なった基礎医学分野と薬理分野の研究室がタイアップして「痒みの謎解き」は加速した。
抗血栓薬候補物質で痒みが改善
ペリオスチンは骨や歯をつくるのに役立ち、誰もがもっている。この物質が、どうやってアトピー性皮膚炎を引き起こしているのか-。解明された仕組みは、こうだった。
皮下の線維芽細胞でペリオスチンが過剰につくられ、皮膚の知覚神経上に存在する「インテグリン」というタンパク質と結合する。痒み刺激が知覚神経を伝って大脳に到達し、脳が痒みを認識して皮膚を引っ掻く行動になる。これを繰り返して皮膚のバリア機能が低下し異物が侵入し易くなって炎症が起こり、痒みや湿疹が慢性化する。
出原教授は、FADSマウスに抗血栓薬候補物質だった「CP4715」という既存の低分子化合物を投与した。その結果、ペリオスチンがインテグリンに結合するのを阻害する作用があり、FADSマウスの痒みが著しく改善した。
佐賀県が予算1,000万円で開発支援
アトピー性皮膚炎の治療薬は、第一選択薬のステロイド外用薬をはじめ抗アレルギー作用のある飲み薬、炎症反応を抑える注射薬(生物学的製剤)など患者が多い分、既存薬も少なくない。
CP4715は、明治製菓ファルマが抗血栓薬候補物質として創製。2006年に米国の創薬ベンチャー、メディシノバ社に導出した。共同研究グループは用途特許をすでに申請。現在、日本医療機器開発機構を介して開発を希望する製薬会社とのマッチングを進めようとしている。
呼応して佐賀県が2023年度当初予算案に開発支援費1,000万円を計上し後押しする。開発が中止された化合物を想定疾患と異なる疾患の治療薬に転用する方法は「ドラッグ・リポジショニング」と呼ばれる。開発コスト削減や開発期間短縮などのメリットがある半面、本来目的薬以外の開発にともなうリスクもある。
共同研究グループは、10年以内での新薬発売を目指しており、動物対象の前臨床試験で安全性を改めて確認した後、ヒト対象の臨床試験に入る。
【南里 秀之】
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