2024年07月16日( 火 )

「新高速乗合バス事業」への移行とユタカ交通の現状(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 本稿では、かつて「高速ツアーバス事業者」として高速バスを運行していたユタカ交通が、道路運送法の改正による「新高速乗合バス事業」へ移行したこと、その主力である「ユタカライナー」の現状とサービス上の課題について解説したい。

ツアーバス形態の問題点と「新高速乗合バス事業」への移行

 2013年7月末までは、高速バス事業には2つの形態があった。1つは、大手のバス事業者が、停留所を設置して運行する「乗合バス事業(路線バス事業)」である、もう1つは、旅行会社が企画して乗客を募集し、貸切バス事業者にバスの運行を委託する「高速ツアーバス事業」である。後者は、バス停もないため、路上などで乗客を乗降させること以外に運行計画がない、定まったルートすらない運行形態であった。それゆえ出入りする高速道路のインターチェンジだけでなく、休憩する場所も運転手さんの裁量で決まっていた。

 この高速ツアーバスは、2000年2月の貸切バス事業の規制緩和により、低廉な運賃を掲げる事業者の新規参入が進んだ。だが規制緩和が実施された当初から、安全管理の不備などが指摘されていた。正規の路線バス事業者はバス停・営業所の設置に加え、運行計画書を作成して国土交通省に提出するなど高コストの経営を強いられていた。また、高速バス事業の利益で不採算である生活路線の赤字を補完し、ユニバーサルサービス(路線網)を維持してきた。

 ツアーバスのサービス形態は「旅行商品」であるから、需要の多い区間や時間帯のみに参入することができる。このような形態を放任しておくと、既存の路線バス事業者は会社の経営を維持するため、不採算である生活路線を廃止する動きが進むことも問題視されていた。ツアーバスの問題が大々的に表面化したのは、2012年4月に発生した関越道での死傷者45名を出す事故によってだった。

 そこで「高速ツアーバス」という制度を廃止し、「高速乗り合いバス」に一本化することになった。2013年8月1日から「新高速乗合バス事業」が始まったが、この日からは従来はツアーバスを運営していた事業者には、停留所の設置が義務付けられ、最低でも6台以上の車両を自社で保有し、事前に運行計画を国土交通省に届出するだけでなく、夜間に400kmを超える走行を実施する場合は、2名の運転手で乗務することなどが義務付けられた。

ユタカ交通と高速バス「ユタカライナー」の概要

 (株)ユタカ交通は、1994年9月に創立した企業であり、大阪府池田市に本社を置き、貸切・乗合バス事業以外に、旅行業や自動車整備業などを営んでいる。
 最初は、貸切バス事業から運行を始めたが、2000年2月に道路交通法の改正による需給調整規制が撤廃されたことで、貸切バスから発展させた「ツアーバス」というかたちで、高速バス事業に進出した。

 関越自動車道、ツアーバス事業者が大事故を起こしたことが契機となり、ツアーバスという形態が2013年7月末で廃止されることが決まると、ユタカ交通は乗合バス事業者となって、高速バスの運行が継続された。

 ユタカ交通の主力は、高速バスの「ユタカライナー」である。ユタカ交通では、主に関西(京都駅、梅田・難波、三宮の各駅)~東京(東京駅、池袋駅、東京ディズニーランドなど)を結ぶ夜行路線、関西(京都駅、梅田・難波・三宮の各駅とUSJ、)と北九州市・福岡市および佐賀県(佐賀市・唐津市・伊万里市・武雄市)、長崎県内の主要都市(諫早市・長崎市・佐世保市)を結ぶ夜行路線が主力である。

 九州内では、博多~長崎間と博多~佐世保間、長崎~佐世保間を結ぶ昼行路線もあるが、コロナ禍ということもあり、現在は全路線が運休となっている。また空港バスも計画されていたが、コロナ禍のために運行はされていない。

東京~関西間の夜行高速バス

 東京~関西間の夜行高速バスであるが、1日当たり8往復運行されている。東京駅の発車し池袋・横浜を経由した後、京都駅に停車するまで旅客はバスから乗降できない。そして難波・USJを経由して三宮へ向かう。

 新高速バス事業に移行したことにともない、東京駅の八重洲口にあるバスターミナルを使用し、池袋はサンシャインバスターミナル、横浜はYCATを使用するなど、路線バスと同等になっている。京都駅の八条口の停留所は従来からの乗合バスが使用する停留所ではなく、少し離れた位置にある。三宮では神戸三宮高架商店街前を発着場としており、従来からの高速バスが発着するミント広場前の高速バスの乗り場を使用していない。

 東京~関西間の路線は、上に書いた停留所のすべてに停車する訳ではない。一部の便は、停車しないバス停もある。またトイレ無しで、2-2の横4列の座席配置の車両をメインに使用しているが、日によれば1-1-1の独立3列配置の座席を備えた車両が使用される。東京~関西間の路線は、輸送力を重視することで運賃の低廉化を図っているが、全座席にコンセントは備わっている。

 ツアーバスから路線バス事業者に転換したバス事業者は、2-2の横4列で、縦が11列の座席を設置した車両が使用されることが多い。ところがユタカ交通は、2-2の横4列の座席配置であったとしても、縦の10列の座席を配置した「アシノビシート」と呼ばれるシートピッチの広い車両が主力となっている。

関西 ~九州間の夜行高速バス

 関西から九州間の夜行高速バスには、以下の4つのパターンの運行がある。

(1) 京都駅・梅田・難波・三宮~小倉駅・博多駅・金立SA・武雄温泉・佐世保駅
(2) 京都駅・梅田・三宮 ~博多駅・金立SA・諫早IC・長崎駅
(3) 難波・USJ・三宮~小倉駅・博多駅・佐賀
(4) 梅田・難波~博多駅・長崎駅

写真1 大手バス事業者と比較しても遜色がないユタカ交通のバス
写真1
大手バス事業者と比較しても遜色がない
ユタカ交通のバス

    それぞれの路線で、1日に1往復運行されている。佐世保駅・武雄温泉発着便(写真1)には、トイレ付きで1-1-1の独立3列シートの車両が使用されている(写真2)。これは東京~関西間の路線と比較して、運行距離が長いことが影響している。このバスには、全座席にUSB型のコンセントが備わる。その他の路線には、2-2の横4列の座席配置で、縦が10列か11列に座席が配置され、トイレを備えない車両が使用される。

 京都~佐世保間であろうが、梅田(大阪)~長崎間であろうが、距離的には大差がないが、長崎路線のほうが、低廉な価格を望む声が強いため、横4列の座席配置の車両で運転される。

佐世保駅~京都駅の路線で使用するバス 1-1-1の独立3列の座席配置
写真2
佐世保駅~京都駅の路線で使用するバス
1-1-1の独立3列の座席配置

(つづく)

(後)

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