2024年07月16日( 火 )

「新高速乗合バス事業」への移行とユタカ交通の現状(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 本稿では、かつて「高速ツアーバス事業者」として高速バスを運行していたユタカ交通が、道路運送法の改正による「新高速乗合バス事業」へ移行したこと、その主力である「ユタカライナー」の現状とサービス上の課題について解説したい。

規制強化後のバス業界への影響

 「高速ツアーバス」は、新幹線や正規の高速バス事業者が運行する高速バスなどと比較すれば割安であったことから、20~30代の若者を中心に人気があった。ウイラー・エクスプレスは低廉な運賃に加え、ツアーバス時代から1-1の横2列のゆったりした座席や半個室になる座席、女性専用車などの導入以外に、待合室を充実させるなど、既存の路線バス事業者よりも創意工夫を行っていた。それゆえ高速バスの世界に、風穴を開けたことも事実であった。

 新高速乗合バス事業へ移行したことで、路線バスとなることから、国土交通省への運行計画届け出やバス停整備などが必要となり、コストが嵩むようになった。それゆえツアーバス時代のような低廉な価格の設定は難しくなっている。以前は、他の事業者よりも低廉な価格設定をすれば利用してもらえたが、今後は如何に付加価値を付け、他の事業者と差別したサービスが展開できるかが、事業者の選択基準になる。安全な運行は当然であり、それを維持したうえで、サービスの向上や、他社とのサービスなどの差別化が不可欠になった。

 規制緩和を実施して市場原理を導入し、運賃を含めたサービスを改善する環境整備は決して間違いではない。ただバス業界であっても、規制緩和を実施する必要性がある分野と交通調整が必要な分野がある。高速バス事業のような都市間輸送の分野は、規制緩和にも馴染むが、生活路線は規制緩和には馴染まず、交通調整をする分野である。ただ高速バス事業は、規制緩和に馴染むとはいえ、正規の路線バス事業者と旅行商品でもあったツアーバス事業者との競争では、公平で公正な競争になりえなかった。

 それゆえ筆者は、「ツアーバス」という形態を廃止して、「新高速乗合バス事業」へ移管させて、公平で公正な競争が生じる環境を整備したことを高く評価している。2013年8月1日から、新高速乗合バス事業への移管により乗合バス事業者へ移行した事業者もある。国土交通省の調査によると、2012年9月の時点では、全国で高速ツアーバス事業者が286の事業者があったが、2013年8月1日以降も運行の「許可」を得たのは、80の事業者にまで減少した。

 九州運輸局の調査では、2012年末時点で17の事業者が九州発着のツアーバスを運行していた。そのなかで、九州や大阪を拠点とする計10の事業者が、乗合バス事業者に移行したという。7つの事業者は乗合バスへ移行する際の負担増に耐えられず、または従来の運賃設定では運行の継続が難しく、7月末で高速バスの運行を取りやめた。また運行を継続した事業者も、運賃を2~5割の値上げを実施している。なかには、福岡~宮崎間の片道で最低運賃1,700円に設定していた事業者が、2013年8月1日からは3,500円という、従来と比較すれば倍以上に値上げした。

ユタカ交通の課題

 ユタカ交通は、乗合バス事業者として高速バスを運行しているが、ツアーバス事業者から移行した事業者であることは、運行などを見ていると分かる。梅田では、JR大阪駅の高速バスの乗り場から発車するのではなく、かつてツアーバスが大量に発車していた、茶屋町プラザモータープールという駐車場が乗り場である。ここはJR大阪駅から1km近く離れており、歩くと10分以上も要する場所にある。その分だけ、バス停の使用料などが安くなる。

 これは大阪梅田に限らず、京都駅八条口も大手バス事業者が発着するバス停ではなく、京都駅八条口観光バス乗降場に発着する(写真3)。博多に関しても、JR博多駅前の博多バスターミナルではなく、博多駅から離れたHEARTSバスステーション博多に発着するなど、主要駅の大手バス会社の乗り場などから離れた、不便で分かりづらい場所にバス停や乗り場がある。

写真3 京都駅八条口のバス乗り場
大手のバス乗り場から離れた
観光バスが発着する駐車場を活用


 また関西~九州間の路線であれば、三宮に早朝に到着した後、難波、梅田を経由して京都へ向かう。九州方面であれば、小倉駅に早朝に到着して博多や、ほかの九州の目的地へ向かうなど、少ないバスで多くのバス停をカバーする運行になるため、早朝から起こされてしまうなど、大手事業者のバスのように車内で寛ぎにくい。

 不便で分かりづらいバス停に発着したり、少ないバスや乗務員で運行するため、出発地側や降車地側で多くのバス停などを設けて対応するやり方では、利用者の希望する時間帯などに対応できない。幸いなことに、大阪~博多間に大手バス事業者が、高速バスを運行していないためユタカ交通が支持されているが、西鉄や近鉄、JRなどの大手事業者の高速バスが参入してくれば、利用者を奪われる可能性が高い。大阪~博多間では、利用者のニーズを満たすように、ダイヤを含め、サービスの質の向上が不可欠であるといえる。

(了)

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