2024年11月21日( 木 )

なぜ、フェリー業界は新造船の導入を進めるのか(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 フェリー船社は近年、船舶の更新を積極的に進めている。その背景には、老朽化した船舶を新造船に置き換えることで会社のイメージアップや旅客サービスの向上を図るということもあるが、それにもまして、慢性的なトラック運転手の不足がある。

 新造船は従来の船舶よりも大型化される傾向にあり、トラックなどの積載台数も増加する傾向にある。従来は高速道路を走行していたところ、フェリーに切り替えれば、シャシーや海上コンテナは無人航送が実施される。それらは到着地でトラクターヘッドに連結され、ドレージ輸送される。

 さらに最近の傾向として、フェリーなどの無人運航の試験が実施されていることがある。船舶輸送は、人件費やタグボートの使用、フェリーの場合は専用タ―ミナルを使用するなど、固定費が高い産業である。そこで、船員不足や船員の高齢化に対応し、運航の無人化を進めることで物流の担い手を維持・活性化させる試みが行われつつある。

無人運航に向けた取り組み(つづき)

新日本海フェリー イメージ    船舶の世界では、全長が200mを超えると大型船に分類される。大型船になれば、運航上の制約も生じるため、各船社は船長を199mに抑えて導入する傾向にある。「それいゆ」という大型船を用いた実験運航では、回頭や後進をともなう高度な自動離着岸の実施だけでなく、最速26ノット(約48km/h)という高速での自動運航を実施した。大型船による高度な自動離着岸だけでも凄いことだが、さらに26ノットの高速運航を自動で行ったことは、世界初の快挙だという。

 新日本海フェリーが所有する「それいゆ」は、建造段階から日本財団が推進する「MEGURI2040」というプロジェクトに参加した、無人運航を目標とするスマートフェリーの新造船である。自動航海システムの開発を三菱造船が統括し、自動操縦に必要な要件設定や実証実験の運航は新日本海フェリーが担当した。2021年7月に東京九州フェリーが開設した横須賀~新門司間で就航しているが、それ以来、無人運航に向けてデータを蓄積してきた。

 今回の主なテスト内容は、他の船舶や障害物を検出して接近・衝突を回避しながら運航する自動操船と、車の車庫入れに当たる、方向転換や後進をともなう自動離着岸の2つである。フェリーは、出港時や入港時などにタグボートで引っ張ってもらうことが多いが、これらを自動化できれば大幅なコスト削減が実現する。

 無人運航時は、自動操船システムが計画航路に沿って船を動かし、船舶自動識別装置やレーダー、物標画像解析システムの情報を解析して他船との衝突を回避する。船員による目視の代わりに、8台の赤外線カメラを使用した物標画像解析システムを使用することで、夜間でも高い検出能力が得られるという。

 小型観光船の無人運航であれば成功していたが、200mを超える大型フェリーを用いた実証実験の成功は、海運業界に大きなインパクトを与えた。

 記者会見を行った日本財団の海野光行常務理事が、「人口減少にともない、船員の高齢化や労務負担の増加が進んでいる。さらに、海難事故の約8割はヒューマンエラーである。無人運航船は、社会課題の解決策の1つになる」、とプロジェクトの意義を述べたように、フェリー業界よりも内航海運業界の船員の高齢化問題はいっそう深刻である。

 199GTクラスの小型コンテナ船も、物流業界においては重要な役割を担っており、内航海運業界の存続と持続可能な事業展開が望まれる。

 前出の海野常務は、「個社での開発だと時間を要し、国際競争に後れを取るため、オールジャパンでプロジェクトを実施すべきである。その成果を基に、国際海事機関などに働きかけ、国際的な法整備や無人運航船の事故時やサイバー攻撃時の対応など、それらの形成は日本が主導したい」としている。また、2025年に無人運航船の実用化、2040年には内航船舶の50%を、無人運航船とすることを目標に掲げている。

無人航送が実現後の海運業界の展望

 自動運転の自動車やドローンが注目されているが、海運でも無人運航船は大きな変化をもたらす。日本には約400の有人の離島が存在しており、採算性の問題だけでなく、昨今では船員不足により、離島航路などの生活航路の維持が課題になっている。

 無人運航船が実現すれば、船員不足をカバーできるだけでなく、人件費が大幅に低下することから、離島航路が維持しやすくなる。

 離島には手つかずの自然が残っているところも多く、インバウンドはもちろん、新規の観光客の誘致にも寄与するといえる。都市圏では、水上交通が発達すれば道路渋滞の緩和やウオーターフロントの賑わいの創出にも貢献することが予想される。

 日本財団は、海運・水上交通の効率化や多様化により、造船業や港湾関係のサービス業など無人運航船による経済効果は大きく、2040年には1兆円を突破すると試算している。

 一方、フェリーが自動的に離着岸を実施するとなれば、タグボートの使用が不要となる上、航海士の削減も可能となるため、「船員や港湾関係の労働者が職を失うのでは」との指摘もある。

 だが、自動化が進むとはいえ、遠隔監視が必要である。これには実際の操船経験が生かせるという見方もあり、大きな経済効果により新たな雇用が生まれていく可能性も高いかもしれない。

 自動車の無人運転やドローンの試験が実施されるように、フェリーを含めた海運業界でも無人運航の試験が実施されており、今後、船舶の大型化と無人運航への動きは加速すると思われる。

(了)

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