2024年12月22日( 日 )

マイクロソフトが核融合電力の購入契約を締結

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核融合発電の商用化

 マイクロソフトは10日(米現地時間)、核融合発電を開発している米国スタートアップ企業のヘリオン・エナジー(Helion Energy、以下、ヘリオン社)と、ヘリオン社が開発している核融合発電所の電力を購入する契約を結んだことを発表した。マイクロソフトは、2028年から電力の供給を受けることを計画しているという。

 これまで核融合発電は商用化されていなかったため、核融合発電を手がける企業が商業的に電力を販売する契約を結ぶのは初めてのことだ。

 ヘリオン社は28年までに核融合装置を稼働させ、1年の立ち上げ期間を経た後に50MW以上の発電を行うことを目標として掲げている。一般的に、50MWで米国の一般家庭約4万世帯に電力を供給できるという。ヘリオン社は、発電コストとして1kWhあたり0.01ドルを目指している。

核融合は注目の投資分野

 米国では核融合は注目の投資分野であり、民間の核融合関連企業に50億ドル以上が投資されていると言われている。シリコンバレーの投資家であり、人口知能(AI)を使ったチャットサービス「ChatGPT」を開発したOpenAIの創設者兼CEOのサム・アルトマン氏が、21年に3億7,500万ドルをヘリオン社に投資している。

 AIの普及が進むと、エネルギーの需要も増えることが見込まれる。同氏は、ヘリオン社に出資している理由の1つとして、核融合発電でエネルギーを得ることにより、少ないコストでAIを稼働させることも目指しているようだ。

核融合発電とは?

送電 イメージ    米エネルギー省は22年12月13日、核融合発電において投入量以上のエネルギーを得ることに成功したと公式に発表した。

 核融合発電とは、軽い原子核同士を衝突させて融合させ、重い原子核に変わったときに出るエネルギーを利用して発電する仕組みだ。一般的には、普通の水素より重い「重水素」と「トリチウム(三重水素)」の原子核が衝突して融合し、ヘリウム原子核と中性子が生まれるときに出るエネルギーで発電する。ただし、ヘリオン社は重水素とヘリウム3(D-3He)を融合させ、トリチウムが生まれたときに出るエネルギーで発電する計画だ。

 一方、原子力発電は、重い原子核が軽い原子核に分裂したときに生じるエネルギーを用いて発電する。原子力発電で用いられる「核分裂」は「核融合」の逆で、ウランのような重い原子が分裂したときにエネルギーが出る。このように、核融合発電と原子力発電は両方とも「核」を利用しているが、その発電の仕組みは大きく異なる。

 ヘリオン社は「パルス核融合装置」を開発しており、これまで6台の試作機をつくってきた。現在7代目のプロトタイプをつくっており、24年に発電能力の実証が行われる予定だ。ヘリオン社が用いる1つ目の燃料の重水素は水に含まれる。もう1つの燃料であるヘリウム3は、高効率密閉燃料サイクルを用いてプラズマ加速器で重水素を融合させることでつくるという。

 通常の核融合発電は、核融合によって得られたエネルギーで水を加熱してタービンを回して発電する。一方、ヘリオン社は蒸気タービンを用いずに、核融合により装置内の磁場を変化させることで電力を直接取り出す仕組みが特徴的だ。

 このように核融合は新しい技術である一方で、一般的に、放射能リスクや放射性廃棄物の問題もあるため、その安全性については十分な調査が必要だと考えられる。

【石井 ゆかり】

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