2024年12月22日( 日 )

コスモHD、特定株主排除という「秘策」で旧村上ファンド系に対抗(前)

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 「妖怪が株式市場を徘徊している。MOMという妖怪が」。共産党宣言の冒頭の「妖怪がヨーロッパを徘徊している。共産主義という妖怪が」のくだりをなぞらえればこうなる。MOMという妖怪は「マジョリティ-・オブ・マイノリティ-」と呼ばれ、「少数派の過半数」を意味する。採決にあたり、少数株主(マジョリティ-)の過半数で決める。MOMの実験場となったのが、石油精製大手コスモエネルギーホールディングス(以下、コスモ)の定時株主総会だった。

買収防衛策、旧村上系を含めると賛成は過半数に達せず

浜松町ビルディング イメージ    コスモは6月22日、都内で定時株主総会を開いた。議案の1つである「買収防衛策」の決議についてMOMを採用し、旧村上ファンド代表の村上世彰氏が強い影響力をもつ投資会社(株)シティインデックスイレブンス(以下、シティ)や、村上氏の長女で株主の村上絢氏らの参加を認めないと決めていた。

 コスモは6月23日、臨時報告書を提出し、株主総会での議決権の結果を明らかにした。第5議案の買収防衛策の賛成比率は59.54%だった。可決した買収防衛策は一般株主に新株予約権を無償で与え、シティの保有割合を下げるというもの。シティが事前に趣旨を説明せずに株式を買い増した場合、取締役会の判断で発動される。

 採決で除かれた旧村上ファンド系の議決権を加えると、賛成は過半数に届かなかった。シティなど旧村上ファンド系はコスモス株を20.01%保有している。
 『朝日新聞』(6月24日付朝刊)は、採決から除外されたシティ側が「反対」を投じていれば、数字上は否決されたことになると報じた。

 〈MOMによる採決の結果は、議決権数で賛成35万4006(59.54%)、反対24万604(40.46%)だった。除外されたシティ側の議決権数17万6805を単純に加えると、反対は41万7409(54.05%)となり、計算上は結果が覆ったことになる〉

 同紙によると、シティは23日、「買収防衛策の決議は実質的に否決であったと評価すべき」とのコメントを発表した。

 〈これに対して、コスモ担当者は、MOM決議そのものに反対していた投資家が国内外に多くいたと説明。仮にMOMではない通常の採決なら賛成が増えた可能性があるとして、「シティ側の議決権数を単純に足して結果を見られるのは極めて不正確だ」と話した〉そうだ。弁明は苦しい。

 参加した株主からは「会社の意に沿わない提案する株主を退けるのは、株主平等の原則から外れている」との声が挙がったのも無理はない。

 第2号議案の取締役選任議案では、山田茂社長への賛成率は67.05%。昨年の89.42%から22.37ポイント低下した。MOMを採り入れたことに対する批判票といえる。

ニチイ学館のMBOで「少数株主軽視」と批判を浴びる

 MOMの使われ方を振り返ってみよう。MOMは、M&A(企業の合併・買収)において会社の支配権の割合を示す用語の1つ。M&Aにおいては、MBO(経営陣による自社買収)などのとくに少数株主の利害が損なわれる恐れがある取引において、MOMの条件を満たすことを案件の成立条件とする。

 ニチイ学館のMBOでもMOMが話題になった(「介護大手ニチイ学館の創業家の相続税対策~自社買収(MBO)による株式非公開化」。

 ニチイ学館では19年9月、創業者で会長(当時)の寺田明彦氏が83歳で死去した。莫大の相続税を払うために、約200億円の株式を保有していた寺田一族はいったん株式を売却したうえで現金化し、残った資金を受け皿会社に出資。創業家は非上場化したニチイの大株主にとどまり、経営を続けるという計画だ。そう珍しくない相続税対策だ。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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