アビスパ福岡はパワハラへの甘さとファンへの甘えから決別し、チームの立て直しを

衝撃の「再犯」

 1月5日、新シーズンへの期待に沸くはずの始動日に、アビスパ福岡のファンに激震が走った。金明輝監督の電撃解任。昨年11月に続投を発表したばかりの指揮官が、キャンプイン直前にチームを去るという異例の事態だ。

 契約解消の理由は「コンプライアンス違反」。1月14日にクラブが公表した調査報告書によれば、多数のスタッフの前での精神的な追い込みや、周囲が危機感を抱くほどの激しい叱責など、3件の事案がパワハラとして認定された。過去にサガン鳥栖でも同様の問題を起こした指揮官の「再犯」と、それを防げなかったフロントの管理責任を、メディア各社が厳しく追及する事態となっている。

残された違和感

 14日のクラブの発表ですべてが明らかにされたと納得する気持ちになれないのは、被害の対象が「スタッフ」に限定されている点だ。サッカーチームにおいて、監督の言動が最もダイレクトに影響をおよぼすのは、ピッチ上で戦う選手たちのはずだ。公式発表では選手への直接的なパワハラ認定は避けられているが、はたして本当に「選手への波及」はなかったのだろうか。その点にまだ違和感を覚える。

明らかだった選手たちの消耗ぶり

 選手やスタッフを間近に見ているのは、クラブ内部の関係者ばかりではない。サポーターやメディア、スポンサーなど、多くの人々が選手・スタッフを見守っている。そのような関係者に話を聞いたところ、やはり、シーズン途中から選手たちの異変を感じ取っていたことが分かった。

 関係者の目に映っていたのは、選手たちの明らかな消耗だった。複数の関係者が共通して指摘するのは、試合後の選手たちの表情の乏しさだ。ある関係者は「目がうつろで、覇気がない様子だった」と振り返る。試合に勝っている時でさえテンションが低く、1年を通してほとんど笑顔を見せない選手もいたという。

 とくに8月末から5連敗を喫した時期には、選手たちは明らかに消耗を重ねていた。そんな折、試合後に選手が号泣し、異様なほど感情を露わにする事態も起きた。

 このような選手たちの異変を感じつつ、前出の関係者は「勝てない時期が長く、戦術理解の浸透などうまくいっていないのではないかと感じる部分はあった。しかし、一般公開されている公開練習ではとくに問題行動はなかったので、まさか裏で報告が上がったような事態が起きているとは思いもしなかった」と話す。

 シーズン中には現場の状況に危機感を抱いた選手たちが、自分たちで話し合い、チームの置かれた状況についてクラブ側に相談したという証言もある。ただし、それがハラスメントそのものを指していたのか、競技面やチーム運営全般に関するものだったのかは明らかではない。

コーチ、そして主力選手が相次ぎ離脱

 このようなチームの異変は、シーズン終了後に別のかたちの公式発表となってサポーターらに衝撃を与えた。コーチ2人と主力選手の相次ぐ離脱だ。

 クラブは11月21日に金監督の続投を公式発表していたが、1カ月後の12月27日、コーチ2人の退任を発表した。2人は25年の金監督就任に合わせて外部から招かれた、いわば「金監督のサッカーを実現するための腹心」だった。その2人が金監督の続投が決まったにもかかわらずチームを去るということについて、関係者やサポーターは首をかしげた。その9日後、金監督のコンプラ違反と解任が発表された。解任の理由はスタッフらへのコンプラ違反が認定されたものだが、もし離脱がコンプラ違反に起因するものであれば、スタッフ・コーチ陣が相当に追い詰められていたことがうかがえる。

 さらに衝撃は続く。2025年のファン投票企画「アビスパ総選挙」で上位7人に選ばれた選手、いわゆる“神セブン”のうち4人がチームを離れる事態となったのだ。今回離脱した選手はいずれも、ファンが選んだ“アビスパの顔”である選手であり、試合出場を重ね、チームの中心としてピッチに立ってきた選手ばかりだ。内1名は海外クラブへの移籍となったものの、人気選手の相次ぐ流出は応援してきたファンに大きな喪失感を残した。

 アビスパは近年、実力に比べて市場価値がまだ伸び切っていない選手を獲得して育てる「育成型クラブ」を目指しているが、選手がキャリアを託したいと感じられる体制づくりができているか、クラブ運営の在り方そのものが問われる状況だ。

 昨シーズンのチームは、シーズン前半の表面的な好調さとは裏腹に、内部では一丸となるべき監督・スタッフ・選手の3者がバラバラになり、重苦しく沈んだチームへと転げ落ちていたのである。

再発防止策の構造的欠陥

 そもそもアビスパは、過去にパワハラ問題でライセンス降級処分を受けた金監督を招聘(しょうへい)する際、スポンサーやファンに対し「徹底した再発防止」を誓っていた。しかし、その柱としていたのは、柳田伸明強化部長を金監督の「監視役」に据えるという体制だった。

 1月14日の発表で、強化部長から強化担当へ降格処分となった柳田氏が金監督の監視役であった。再発防止の主眼として、柳田強化部長が監督の言動を常にチェックし、指導する体制が取られていた。柳田氏は毎回ロッカールームに入り、金監督の言葉が厳しすぎる場合には、その場で注意を与えていた。金監督自身も柳田氏から常にチェックされているために「やりにくい」と漏らしており、監視されている自覚はあったとされる。

 一般の企業では、パワハラ対策は人事担当者が担うのがもっぱらだ。その意味で、サッカークラブでチーム編成を担当する強化部長が、パワハラ対策を担うことは同じことのように見える。だが、勝負の世界であるプロサッカークラブで、シーズン中は監督・選手らと一丸となって勝ちを目指さなければならない強化担当部長が、一方で冷徹な視線で監督のパワハラ監視の役割を担うことは、そもそも無理があったのではないか。

 金監督のパワハラはどのような性質のものであったか。関係者が指摘するのは、その「熱さ」だ。権力欲に基づくパワハラではなく、サッカーに熱心になるあまり、それが言動や行為につながるというものだ。私利私欲のためというより、勝利への執着が過剰な攻撃性へと変質するタイプのものだとすれば、そのような性質であればこそ、勝ちを目指すスポーツのなかでは見過ごされやすくなる。それがスポーツにおけるパワハラの根深い問題点だ。

 一方、パワハラ防止の役割を担った強化部長は、パワハラ防止の専門家ではない。監督とともに勝利を目指さなければならない強化部長が、はたして金監督の熱い指導とパワハラの境界を冷徹に見極めて線引きしたり、熱さに流れて指導が過剰になることを抑えたりできるものかどうか。とくに25年シーズンのアビスパの開幕当初の戦績は「劇的」だった。シーズンが始まった2月中は最下位まで転落するが、その後、なんと怒涛の6勝1分でクラブ創設史上初のリーグ1位に躍り出た。この時点で少なからずの関係者は、金監督起用が「成功だった」と一時的にも「錯覚」したはずだ。勝利という成果を上げることができれば、この期間、たとえ金監督の指揮に多少の熱さがあっても容認される空気があったとしても不思議ではない。

 しかし、4月下旬以降、勝つことができずに順位が落ち続けるなかで、勝利を求める監督の熱量が増えても、同じく勝利を求めなくてはならない強化部長にそれを抑えることができるだろうか。シーズン中の監督のパワハラ防止の役割は、強化部長が担う役割とは本質的に相いれないように思われる。アビスパ福岡のパワハラ防止策は、プロスポーツチームの構造上、最初から「機能不全」を内包していたのではないか。

 その他にも、報道されている通り、通報システムの機能不全など対策の不十分さは否めない。また、金監督が受けたJリーグの更生プログラムも、今回の件で信用を失ったといえる。金監督の様子を聞く限り、パワハラの本質を金監督もクラブ側も本当に理解していたかどうか疑問だ。たとえば、「死ね」などのNGワードや身体的な接触を避ければ問題ない程度の認識だった可能性はないだろうか。

構造的なパワハラへの甘さとファンへの甘えから脱却を

 今回の金監督のパワハラ問題の再発は、Jリーグの構造的な問題をはっきりと露呈した。24年に金監督の就任が発表されたとき、スポンサーからもサポーターからも反対の声は少なくなかった。しかし、シーズンが始まってしまえば、サポーターも一丸になって応援する。たとえ心のなかではモヤモヤを引きずっても、シーズン中は選手やチームの応援を優先する。それがサポーターというものだからだ。そのようなサポーターのチーム愛に対して、クラブは不十分な対策のまま25年のシーズンを金監督体制で踏み切った。そこにサポーターの献身に対する甘えがなかったかは、チームが厳しく自己反省すべき構造だろう。

 あるサポーターは今回の件についてはっきりという。「クラブ側は今回のことをしっかりと反省してほしい」と。しかし、そのように厳しく批判するサポーターが、来シーズンはチームと距離をとって応援しなくなるということは考えられない。これがプロスポーツを支える構造だ。アビスパ福岡は、このようなサポーターのチーム愛に甘えず、またスポーツチームが構造的に生み出すパワハラに厳しく臨む姿勢を確立するなかでチームを立て直さなくてはならない。アビスパ福岡には信頼を回復する責務がある。

【寺村朋輝】

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