ピンチをチャンスに変えた 飛躍の契機となった長崎での経験(後)
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ゼオライト(株)
情とビジネスの狭間で
「追い込まれたゼオライトさんに『猶予をください』とお願いされたこともありましたが、お断りさせてもらいました。私としては、工学博士号も取得している河村社長の『絶対大丈夫です』という言葉があったからこそ、契約の運びになったのですから、最後まで仕事をまっとうして欲しいという想いがありました」(松尾氏)。
しかし、あらゆる方法を試みるも、問題の解決には至らなかった。一時は費用の面も考慮し、アメリカ産の膜への代替案も提示されたという。
「膜の買い付けにアメリカに一緒に行くという話まで持ち上がりましたが、最終的に膜をどうこうするのではなく、温泉という特殊な水質への対応に軸を移すことになりました。装置内で水質を調整するさまざまな試みがなされるなかで、塩酸を使うことで大きな変化が見られたようでした。河村社長も『これ以上は知恵が出ません』ということで、最後の試験を行うことになりました」(松尾氏)。
大手の下請けではなく、エンドユーザーと直接取引を行う経営体制へシフトしていたゼオライトは、この頃になると『どこからも融資が下りない』という危機的状況だったという。そのため、最後の試験に際しても、同団地に設備投資として費用負担のお願いを申し出た。しかし、同氏はこれを断った。
「試験品にお金は出せません。当然です。しかし、成功したならば喜んで買い取らせてくださいと、河村社長にお伝えしました。そして、試験の結果は成功でした。とんでもなく良い効果が現れたのです。約束通り、ぜひ購入させてくださいと、装置を買い取らせていただきました」(松尾氏)。ビジネスマンとしての冷静な視点と、縁があって付き合い始めた相手への情。成果が出るまで、時に厳しく、時に優しくゼオライトに寄り添い続けた同氏は、「ゼオライト飛躍の要因はどこにあったと思いますか?」という筆者の質問に、簡潔にこう答えてくれた。
「河村社長は逃げなかった」(松尾氏)。
今でも、同団地では当時の装置が問題なく稼働している。共有された成功体験と生まれた絆
成功を喜び合った松尾氏と河村社長、そして、当時現場を担当していた現代表取締役社長の嶋村氏。3人にとって、長崎県北食品流通団地での経験・思い出は、特別なものとなった。だからこそ、7月25日に開催されたゼオライトの「社長就任披露式典祝賀会」では、松尾氏が乾杯の音頭を任された。苦難を乗り越えたゼオライトの逆浸透膜水処理プラントは現在、全国のホテル・病院でも重宝されている。
嶋村社長は、「あの頃は、対応できる人員も少なかったので、夜間作業も多かったです。しかし、最も苦労したのは、『ここまでやれば課題が解決される』といった指標を、なかなか見出せなかったことです。答えを見つけ出すまでに、高額の膜を何個も駄目にしました。けれど、今こうして振り返ってみると、あの経験があったからこそ、私たちは高い技術力を身に付けることができたのだと思います。私にとって、長崎県北食品流通団地での経験は、本当に多くの学びがあった現場でした」と当時を振り返る。
ゼオライトの16年7月期は、売上高28億7,310万円を見込む(うちメンテナンスによる売上高約17億3,000万円)。大躍進を支えたのは、ピンチを前に、挑む姿勢を崩さなかったトップの判断と、その判断を後押しした良き取引先との出会いだったと言えるのではないだろうか。
(了)
【代 源太朗】<COMPANY INFORMATION>
代 表:嶋村 謙志
所在地:福岡市博多区那珂5-1-11
設 立:1970年8月
資本金:9,000万円
業 種:逆浸透膜水処理プラント製造・管理
売上高:(16/7)28億7,310万円(見込み)法人名
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