108件の書き込みは「誤認」

　多くのファンに惜しまれながら、数々の名店が廃業を余儀なくされた福岡市の屋台公募。そのプロセスでは、選定委員による情報漏えい問題が発生したほか、不透明な公募場所の決定など数々の問題点が明らかになった。NetIB-NEWSでは、選定委員会の議事録で隠された部分がわからない不適切な情報公開や、担当課長の不誠実な対応から屋台営業者との間で発生したトラブルなどの詳細を報じてきた。

　理不尽とも思える実態を知った屋台営業者、屋台ファン、福岡市民からは多くの怒りや疑問の声が取材者にも寄せられたが、この問題を起こした高島市政には、反省の色など皆無。福岡市への情報公開で、一連の問題を取り上げたフジテレビのドキュメンタリー番組について、福岡市が「放送倫理上、非常に問題ある番組」「本市の屋台行政に対して著しい誤解を生じさせ、その信頼を失墜（させた）」などとして、放送倫理・番組向上機構（BPO）に審議・審理の申し立てを行っていたことが発覚したのである。しかも、その際、誤解が生じた証拠として、同番組に関するSNS（ツイッター上）の書き込み108件を添付。福岡市職員による“ネット監視”が行われている実態も明らかになった。

　福岡市がBPOに審議・審理の申立てを行った番組は、フジテレビが関東地区で7月23日に放送した「ザ・ノンフィクション～エリナの夜明け　屋台女将の700日～」。福岡市で屋台を経営する女性を3年間、密着取材したもの。屋台問題だけではなく、屋台を通じて成長した女将の人生、彼女をあたたかく見守ってきた常連客との人間ドラマが描かれている。昨年1月に放送された第1作（テレビ西日本は同年2月に放送）が好評につき、制作された続編であった。

　福岡市が8月4日付でBPOに提出した申立書によると、福岡市は、同番組の取材が、営業者側に偏向した内容と主張。また、屋台営業を行う道路などの占用許可を第三者に譲渡するなどした、いわゆる「名義貸し」の屋台について「違法な存在」とし、福岡市屋台基本条例（2013年9月施行）で、14年4月1日から17年3月末までを「生活再建期間」として、「転職などで生計の途を確保するよう繰り返し、説明、指導してきました」などと説明している。ただし、屋台営業者からは、屋台基本条例で定められた営業時間、設置、食品衛生などに関するルールを順守すれば公募審査に反映されるとの説明を市職員から受けたという主張もあり、食い違いがある。

フジテレビ系の地方局に圧力？

　福岡市が「誤認」とする書き込みの多くは、女将と市の屋台担当課長のやり取りを受けてのもの。NetIB-NEWSでも既報の通り、現在の営業場所が、屋台の公募場所から外されていたことについて、説明を求める女将に「（説明を）する必要はない」とした課長の対応に、激昂した女将が課長の襟首をつかむシーンが放映された。女将は、屋台公募の選定に関係なく、現在の場所での営業ができなくなることが、市によって“一方的に”決められていた理不尽について、納得のいく説明を求めていた。

　以下、福岡市がいう「誤認」のなかからいくつか抜粋する。

〇「エリナの夜明け」いい番組だった。てか、本当 行政の人たち許せない…あの人たちだけじゃないし、頑張ってる人もいるんだろうけど、誠意がなさすぎる！！あそこまでお客さん集めるのにみんなどれだけ苦労してるか知らなさすぎなんだよ。

〇福岡市の課長、税金で飯食ってる公の立場の人間が自分達のせいで職を奪われる危機にあって、それは生命の危機かも知れない人間に、「説明の必要がない」とか外道非道。まさに悪

〇暴力はいけないけどあの市役所の課長は最悪だわ…

　BPOへの申立てを担当したのは屋台担当のにぎわい振興課ではなく、市長室広報戦略室報道課。広報戦略室は、市のPRに政治生命をかける高島市長の直属部隊。申立てのGOサイン（決済）は、広報戦略室長が行っている。起案した報道課長によると、「“ある職員”がネットで同番組の存在を知り、問題があると指摘。ネット上の反応を確認した」という。また、フジテレビ系の地方局に対し、審議・審理の申立てを行ったことを伝えたとしている。「問題があるとして抗議している」といわれれば、放送に関し、二の足を踏まざるを得ない。放送しないよう圧力をかけたとも思える。

　BPOは、個別の案件についての問い合わせには応じないが、審議・審理入りした場合は、ホームページ上に必ず公表するという。申立てから2カ月が過ぎた今も本件は公表されていない。なお、不可解なことに、現時点で、この番組は、物語の舞台である福岡市では放送されていない。

【山下　康太】

※福岡市が「誤認」とする書き込みについては、以下のリンク（PDF）を参照されたし。
・参考資料「SNS（ツイッター）上での主な書き込み」