2024年12月26日( 木 )

今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(3)

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 さまざまな生命が生まれては滅亡し、また多くの文明が誕生しては終焉を迎えた。長い間ほとんど変化とはほぼ無縁だった小売業に、人類登場よろしくスーパーマーケットなどのチェーンストアが誕生したのはつい100年ほど前である。それからというもの小売業界は極めて大きな変化を始めた。こうして起こった地殻変動は今も轟々と続き、かつて一世を風靡したスーパーマーケットすら新しい商流に押し流されようとしている。

スーパーマーケットの誕生

 スコットランド系アメリカ人マイケル・カレンがニューヨーク(ロングアイランド)に人類初のスーパーマーケット「キング・カレン」(KING Kullen)を開業したのは1930年。当時はまだ小規模雑貨チェーンだったA&Pなどで経験を積んだカレンがスーパーマーケットの手法(現金・低価格・配達なし・大駐車場・大面積など)を考えた。彼はそのアイデアを当時働いていたクローガーの社長、バーナード・クローガーに提案したが、彼はその提案を無視した。そこでクローガーを退職して自らが店を開いたのがスーパーマーケット「キング・カレン」である。

 この辺りは、JC・ペニーで働き、のちに独立して加盟したバラエティーストアの本部に自分のアイデアを提案したものの受け入れられず、自らがウォルマートを創業したサム・ウォルトンの事例によく似ている。

 ウォルマートは今や世界最大の小売業だが、カレンのスーパーも創立後、大きな成功を手にした。彼の店の名は「キング・カレン」としていまでもその名を冠した45店舗がニューヨーク州に存在する。

 ちなみに我が国ではハワイのアラモアナでスーパーマーケットの手法を学び、56年、北九州市小倉で開業した丸和がスーパーマーケットの第1号といわれている。同社は日本初の24時間営業なども取り入れた先進的な経営で知られたがその後の競争の波に飲まれた。九州小売業の雄といわれた「丸和」も、法人としてはすでにその名が消えてしまっている。

手法の陳腐化は人の能力では補完できない

 小売業の場合、市場の変化は必ず売り場に現れる。今までよく売れていたものが売れなくなるというのがその始まりである。しかし、このことに気づいても売れなくなったものを外し、新しい商品に入れ替えるのは結構難しい。たいていの人気商品には一定期間、継続的に売れたという販売実績がある。それをゼロにしてそれに代わる商品に入れ替えるには勇気がいるからだ。たいていの仕入れ担当者が考えるのは過去に売れたものは今後もそれなりに売れるという実績に対しての漠然とした信頼と期待である。本当はライフサイクルが終わっているのに、販売不振の理由を価格や競合店、販売方法に求めてしまうのである。

 以前、旭化成が出した素材「ナイロンアンダリア」でつくった夏用婦人のバッグがある。これは爆発的に売れた。当然、バイヤーは翌シーズンには前年実績に併せて大量の仕入れを行った。ところがこれがさっぱり売れなかったのである。理由は簡単である。同じテイストのバッグを毎年買い求める女性はいないからである。たとえデザインを変え、目先を変えても、同じテイストである以上、同じものを継続して求めるお客はごく少数である。

 商品が売れなければ、当然、値下げが発生する。どんな商品でも同じだが、とくにファッション製品は価格の変化は商品価値の下落と同じ意味をもつ。

 バッグだけでなく、食品や日用品などのコモディティと呼ばれる生活必需品を除く商品には寿命があるということである。こんな事例は枚挙にいとまがない。一度値下げが始まるとそれは際限のないチキンレースになる。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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