2024年11月19日( 火 )

今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(4)

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 さまざまな生命が生まれては滅亡し、また多くの文明が誕生しては終焉を迎えた。長い間ほとんど変化とはほぼ無縁だった小売業に、人類登場よろしくスーパーマーケットなどのチェーンストアが誕生したのはつい100年ほど前である。それからというもの小売業界は極めて大きな変化を始めた。こうして起こった地殻変動は今も轟々と続き、かつて一世を風靡したスーパーマーケットすら新しい商流に押し流されようとしている。

自己改革と割り切る勇気

 たとえば、コンビニは売れ数を基に大部分の商品を思い切って入れ替えるという手法を採ってきた。限られた面積でお客のニーズを保ち続けるのはこの思い切った商品入れ替えは必須であるが、それを実行するにはそれなりの勇気がいる。

 来店する顧客には相反する2つの要求がある。1つは「いつも買っている品」を求める気持ちであり、もう1つは「なにか目新しい品」との出会いである。いつも買っていた商品が店からなくなるというのは顧客の「当て」を裏切ることになる。当然、お客はその商品の継続販売を要求する。これに応えれば3,000アイテム前後の商品の入れ替えはほぼ不可能になり、新たな試みの実行はできない。いわゆるマンネリの発生である。大手GMSはずいぶん前からこのマンネリ化に陥っている。しかも、それが今でも続いているのである。生き残ったごく少数のGMSも利益の柱は不動産地賃貸や金融、コンビニなど創業時の事業とはまったく違う分野である。GMSが顧客の支持を失い、モノを売ることで利益を出せなくなったのは、新たな試みという自己改革を怠った結果ということになる。

十人一色から十人十色へ

 「十人一色」。高度成長期以前の消費を表す言葉である。皆が同じように同じスタイルで満足した。その典型がミニスカートである。1967年、ツイッギーが来日するとミニスカートが日本中に溢れた。若い女性は太きも細きも皆ミニスカートに熱中した。最後には当時の首相夫人までミニスカートを召して首相外遊に同行したのだ。なお、それをきっかけにミニスカートは一気に下火になったように記憶している。

 ミニスカートのように同一商品が大量に売れるというのは販売側にとって高効率という何よりのメリットがある。大手GMSはすべてこの「単品大量販売」で経営の規模拡大をはたした。

 しかし、経済成長が続き、市場が豊かになると、ごく一部の例外を除いてこの図式が成り立たなくなる。

 「それなりの商品価値」を追求するという「脱価格」の店が現れ、やがてライフスタイルの変化に合わせたいろいろな専門店が現れた。いわゆる市場の変化である。

豊かさが生んだニーズの多様化

 これに加えて、豊かになった生活のニーズ「多様化」がある。我が国がまだ一様に貧しかったころ、生活用品にはほとんど選択肢がなかった。たとえば雨合羽はゴム製の黒一色であり、長靴も同じだった。たいていの商品がそうであり、品ぞろえのための広い売り場もいらなかった。しかし、高度成長が始まると市場はまたたく間に変化を始めた。消費者の間にTPOSという言葉が広がり、ニーズに合わせた多様な品ぞろえを求め始めた。かつて十分に市場のニーズを満たしたGMSがここでもつまずく。

 ごく狭い売り場でも限られたアイテムなら問題はない。しかし、品ぞろえの多様化が求められるようになると、お客の要求に沿った商品がそろえられなくなる。専門店はこのあたりの大手の弱さを見事に突いた。家電専門店、ホームセンター、カジュアル衣料品店などがそれである。

 圧倒的な品ぞろえに加えて、後発による人件費や投資コストの優位性で彼らは先行大手GMSの売り場を駆逐していく。

 そこで大手がとったのは食品強化という戦術である。日常性の高い食品を強化して集客を測り、その力で被食品を買ってもらおうという戦術である。しかし、強化というほど漠然とした都合のいい言葉はない。ちなみに食品強化は生鮮の充実、非生鮮の価格訴求ということで語られることが多い。しかし、生鮮の強化を言い換えると「人件費、設備費、ロスの増大」でもある。生鮮の経費を非生鮮の利益で賄うにはかなりの売上が必要である。加えて、生鮮の販売管理にはそれなりの技術を必要とする。簡単なスローガンで魅力的な食品売り場をつくることはできないのである。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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