ウォルマートはなぜ日本市場からの撤退に追い込まれたのか(前)
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小売業世界最大手の米ウォルマートが傘下の国内スーパー大手、西友を売却する方針だと7月13日に新聞各紙が一斉に報じた。黒船と恐れられた巨大外資は、上陸から20年もたたずに撤退することになる。ウォルマートはなぜ、日本で受け入れられなかったのか。
日本事業の累積赤字は56億8,000万円
ウォルマートは2002年3月、バブル期のファイナンス事業の失敗で解体に追い込まれたセゾングループのスーパーマーケット、西友と包括的業務・資本提携を結んだ。当時、ウォルマートは世界中に事業展開を進めており、世界第2位の経済大国で成熟した消費市場である日本に魅力を感じて進出を決めた。巨人ウォルマートの日本上陸は、“黒船到来”と大騒ぎになった。
2008年には西友を完全子会社化した。西友は「EDLP(エブリデー・ロープライス=毎日安売り)」と呼ばれるウォルマート流の戦略を取り入れて収支改善を目指してきたが、業績低迷が続いていた。
西友を含むウォルマートの日本事業は「ウォルマート・ジャパン・ホールディングス」が担っている。売上高は非開示だが、決算公告に貸借対照表の大項目だけが載っている。それによると、16年12月期は最終損益が2億4,900万円の赤字。17年12月期の純利益は0円で、利益剰余金は56億8,000万円の赤字だ。期間損益は、やっとトントンになったが、56億円超の累積赤字を抱えている。日本進出から16年経っても業績は水面下に沈んだままだ。
エブリデー・ロープライス商法の誤算
EDLP(エブリデ-・ロープライス=毎日が安売り)。米ウォルマートが採用した戦略だ。期間限定特売を行わず、毎日低価格で商品を販売する。「毎日すべての商品が安いから、いつでも来てください」という発想だ。
この政策を特徴とするウォルマートの日本上陸は、スーパー業界に衝撃を与えた。多くのスーパーはハイ&ロー価格政策を採っている。特売価格政策ともいう。「お買い得価格」で集客する戦略だ。日替わりや週替わりなどの企画により、来店動機を喚起する。目玉商品は赤字覚悟で安売りするが、つられて店舗にきた消費者が定番商品を買えば、利益を出せるという考えだ。
消費者のお目当ては、安売りされた商品だ。特売日には、レジの前に行列ができるほど混雑するが、それ以外には閑散となる。
日本人の消費感覚は、「安い」とはっきり理解できる商品に関心が注がれる。何日はA店、何日はB店が安売りの特売をやっているという折り込みチラシを見て足を運ぶ。価格とは「お買い得価格」のことだ。
それに比べると、西友のエブリデー・ロープライスは、格別安いわけではない。特売に慣れた消費者には平凡な価格に映る。
ウォルマートが成功した安売りモデルは、日本では結果を出せなかった。かつてのダイエーのような衝撃的な価格破壊をもたらさなかった。「驚安の殿堂」を謳うドン・キホーテなどディスカウント勢力が安売りのお株を奪った。
2000年代前半、欧米の大手小売が相次いで日本に参入した。世界第2位の仏スーパーのカルフールは2005年に、英スーパー最大手のテスコは2011年に日本市場から撤退した。そして、今回、ウォルマートが撤退する。これで「小売業世界ビック3」が日本市場から姿を消す。いずれも、本国で成功したビジネスモデルが、日本の消費者から受け入れられなかった。直輸入したことが、失敗の原因であることは共通している。(つづく)
【森村 和男】
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