ウォルマートの戦略変更とは何か?(前)
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日経新聞は世界小売最大手のウォルマートが日本の完全子会社である西友を売却すると報じた。
西友は1956年、旧西武グループが設立した西武ストアを母体にした小売業で、店舗数は全国に335店舗を展開している。経営不振から2002年にウォルマートと業務提携し、その後2008年には完全子会社となっている。その背景には何があるのか。子会社のアズダを売却
そのウォルマートは今春、イギリスの小売子会社「アズダ」を英国小売2位のセインズベリーに売却している。一見すると英国市場からの撤退だが、売却後の新会社の株42%を所持するというから単純な市場撤退ではない。売却先はセインズベリー――。この買収でセインズベリーはテスコを抜き英国最大の小売業になる。
ウォルマートは売却後も新会社の株式の45%をもつというからから、その思惑がどこにあるかは定かでないが、将来はセイズベリーそのものを傘下に組み入れようと考えているのかもしれない。この売却でウォルマートが手にする現金は約4,000憶円。それを違う分野に投資するのが今回の売却の主目的に違いない。
しかし、今回の西友のケースはおそらく、そんな戦略ではない。売却先が決まっていないうえに、相手先も同業者なのかファンドなのか、あるいは商社などの異業種なのかがはっきりしていないからだ。いや、はっきりしたとしても売却後の新会社にウォルマートが参加する可能性は極めて低い。その理由は我が国の小売流通を取り巻く環境だ。
ジャッジは正しかったのか?
西友を買収後、ウォルマートが徹底して取り組んだのが人件費の削減だ。生鮮が重要視される我が国のスーパーマーケットはアメリカでは考えられないほどの人件費がかかる。とくに魚の構成比の高さが人件費の高騰に拍車をかける。魚の構成比が極端に低いウォルマートでは考えられない高さなのだ。おそらく、彼らにはそれが理解できない。とくに売上、利益ともに生産効率が低い水産部門の人件費を疑問視する。青果部門も似たようなものである。しかし、この部門で人件費投入を減らすと、売り場の正常な維持が危なくなる。生鮮への評価が店の評価に直結する生鮮の弱体化は店の評価に悪影響をおよぼす。それが業績の改善が思うようにいかなかった大きな原因の1つでもある。
加えて、商品戦略にも問題がある。日本でのナショナルブランドの優位性である。誰もが知るように我が国のPB への評価は低い。価格の安さでは補えない品質と信頼度の問題だ。この部分での誤算も小さくなかったはずだ。物流にしても日本型のベンダー主体のそれでは目論む原価低減はできない。
さらに衣料雑貨やスポーツ用品の問題も小さくない。日本のGMSもこの分野のレベルは顧客満足には遠いのだが、ウォルマート・西友のレベルは品ぞろえやテイスト、品ぞろえともにさらに劣る。なぜそうなるかは“消費文化の違い”だ。アメリカの大衆と日本のそれではデマンドが違う。例を挙げればスポーツ用品や釣り具がそうである。日本人はまず道具から入る。ゴルフの初心者が10万円のセットを買うことは珍しくない。しかし、かの国ではまず安価なものを買うのが主流である。衣料品も似たような感覚だ。そう考えるとき、ウォルマート流の西友の売り場は日本的に見れば極めて大雑把である。その売り場が生む販売機会のロスや商品ロスも想像以上に大きいはずである。原価低減が思うように行かず、ロスの発生が大きいとなると長い目で見ても劇的な収益の改善は難しい。
さらに問題なのが少子高齢化による市場の縮小と人手不足だ。この2つは小売にとって致命的な将来を予感させる。さらに加えてノンストアー小売の台頭だ。その波は今や宅配はほぼ不可能といわれた生鮮食品にまでおよび始めている。年間50兆円を超す売上をもつ世界最大の小売業ウォルマートでもこの流れは無視できない。社会のニーズの流れを座視すると、時と場合によっては致命的な結果を招く。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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