2024年12月27日( 金 )

石油から水へ 今こそ『水力(ウォーター・パワー)』を味方につける(4)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

新しい技術の導入

 幸い、日本では現在、さまざまな新技術の導入が進んでおり、環境にも負荷をかけない試みが地道に行われている。その1つにPSIという技術がある。

 PSIは“ポリシリカ鉄”と呼ばれる塩化鉄と重合ケイ酸を混合した凝集剤のこと。専門家によると、これまで凝集が困難だった藻類や有機色度成分(水の濁り)に対して優れた凝集効果を発揮するほか、低水温・低濁度の原水に対しても確実な凝集を行うことができるとされている。

 主成分が鉄のため、いま使われているポリ塩化アルミニウム(PAC)に比し、アルミニウムが残留する心配がなく、水の味もまろやかでおいしくなるというわけだ。また、浄水処理過程では発生土が出るが、これを再び自然に戻し、農業用の土として利用できる可能性を秘めているのが頼もしい点である。

 各地の浄水場では取水した原水から濁りなどを除去してきれいな水を得た後に残る「発生土」の処理に苦労している。産業廃棄物として適正に処分することが決められているからだ。毎年、霞が関ビル3棟分もの厖大な量が発生している。言い換えれば、これほど大量の不要な土が毎年発生しており、これは人間が社会生活を営む限り、永遠に生み出されるものなのである。こうした発生土を再利用できることになれば環境的にもコスト的にも願ってもない朗報に違いない。現在、伊藤豊彰氏(18年3月まで東北大学大学院農学研究科、同年4月から新潟食料農業大学・教授)がPSI発生土の農業利用に先鞭をつけるべく日本初の調査研究を重ねている。

 PSIは日本国内だけでなく、中国など食糧不足と環境問題を抱える国々にとって、一石二鳥の「救いの女神」になり得る水技術であろう。同様に注目を集めているのが鉄鋼各社によって実用化が進められる「鉄鋼スラグ」を使った海中の藻場や森林再生事業である。鉄鋼の製造過程で発生する副産物であるスラグに含まれる鉄分を海藻の育成や土地改良に役立てようという試みで、各地で実証実験が進んでいる。

 日本でも、森林の伐採やダムの造成の影響で、腐葉土に含まれる鉄分が河川から海に流れ込まなくなってしまった。その結果、沿岸部では海藻が死滅する「磯焼け」が発生し、魚介類が減少している。これは「海洋国家」日本にとって、ゆゆしき事態である。鉄鋼スラグの活用はPSIの大型版ともいえるリサイクルビジネスの最たるものといえるだろう。リサイクルの発想で環境と食糧問題を同時に克服する、まさに日本らしい戦いである。PSI以外にも日本はバクチャーなど水浄化技術を多く持っている。

 地球上の生命は水を介してすべてが循環している。この水の流れを滞らないようにすることが、生命体である人間にとっても地球にとっても欠かせない。水そのものを大切にするのは当然であるが、加えて、水を生かす生き方をどこまで実践できるかどうかが、今、我々に問われている。

 水危機が叫ばれる今日、あまりにも身近な存在であった水を、もう一度じっくりと体内に取り入れ、「水力(ウォーター・パワー)」を味方につける工夫を重ねるときがきていることは間違いない。「水を制するものは、世界を制す」。これが21世紀の資源争奪戦の現実である。

 なお、こうした水問題を国際政治の観点から分析した拙著『中国最大の弱点、それは水だ!―水ビジネスに賭ける日本の戦略』(角川SSC新書)もご参考にしていただければ幸いである。

(了)

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