2024年12月28日( 土 )

【リラクゼーションのためのヘッドケアリング】筋膜をほぐして血流促進、リラックス状態に

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ヘッドケアラボL.C.I.C.I.JAPAN 代表 鈴木 陽子 氏

 ストレスは万病のもと―。ストレスケアのアプローチの1つとして最近にわかに注目を集めている施術がある。頭部を中心に全身を覆っている筋膜をほぐして血流を促し、副交感神経を優位にする「ヘッドケアリング」がそれだ。五感機能が集中し、ストレスケアにとって重要な部位である「頭部」をベースにケアするので、リフレッシュやリラックス効果が得られるという。これまでは、医療・介護施設などで患者や職員の不安を取り除き、QOLを向上させる目的で行うケースが多かったが、最近では、ヘッドケアリングのセルフケア講座を社員のストレスケアとして企業が利用する機会が増えている。

20年間にわたり看護学校でヘッドケアリングを指導

代表 鈴木陽子 氏

 ストレスの溜まりやすい頭部を優しくケアしながら、心と体全体のバランスをとるヘッドケアリングは、古代インドの伝統医学、アーユルヴェーダの理論に基づくチャンピサージ(ヘッドマッサージ)を源流とする自然療法。イギリスには、チャンピサージのセラピストを養成するL.C.I.C.I(London Center of indian Champissage International)がある。その英国資格を日本で付与しているのがヘッドケアラボ L.C.I.C.I. JAPAN(鈴木陽子代表)だ。

 L.C.I.C.I.JAPANではヘッドケアリングの技術や知識・理論について幅広く指導するとともに、頭部のケアを中心とした自然療法を教える機関として、「日本ヘッドケア研究所付属 自然療法アカデミー」を運営。インドの生命科学アーユルヴェーダを基にした自然療法の資格を取得できる学びの場を提供している。代表の鈴木氏は、病院や介護福祉施設で患者や医療従事者のストレスケアを行いながら、20年間にわたって看護学校でヘッドケアリングを教えてきた。

 「常にストレスに晒されることの多い看護師自身が、上手にストレスケアができた状態であれば、患者やご家族にも安心感を与え、コミュニケーションも取りやすくなるとの思いから、ヘッドケアリングを教えることにしました」(鈴木代表)。

 当初は、医療従事者のセルフケアに役立つようにと指導していたが、やがて医療や介護の現場で、患者とのコミュニケーションツールとして応用するようになったという。

ヘッドケアリングの看護教育への導入例(上尾中央看護専門学校(必修授業))
※資料提供:LCICI JAPAN

医療現場に広がるヘッドケアリング

 鈴木代表は、エビデンスを蓄積するために、大学と連携した臨床研究にも取り組んでいる。その1つに日本統合医療学会で発表した「ヘッドケアによる筋膜リリースの可能性の予備的検討」と題する研究がある。30分間のヘッドケアリングの前後での気分の変化や関節可動域などを定量的に比較し、疲労感やだるさ、首や腰の凝りなどが有意に改善したことを、データを示して報告している。

 ヘッドケアリングは血流改善による歯周病予防が期待できるとして、最近は歯科クリニックで施術するケースも増えている。これまでの研究では、歯肉の血流や唾液分泌量の増加、頭頸部顔面筋の緊張緩和による歯ぎしりや食いしばりの減少などが確認されていることもあり、歯周病や顎関節症などの歯科疾患の治療・症状緩和に有効と考える歯科医師も少なくない。

 埼玉県内で開業する「T&T歯科・矯正歯科クリニック」では矯正治療のなかにヘッドケアリングを取り入れている。L.C.I.C.I.JAPANでヘッドケアリストの資格を取った歯科医師の瀧澤知子氏は、「矯正治療のなかで行うことで治療の魅力が高まり、患者さんが継続するようになりました」と話す。

 治療に応用してからは、患者の歯科治療への緊張が取れ、顎関節症の緊張が和らぐ例がみられ、副作用や有害事象を認めた例はない。治療の前にヘッドケアリングを行うことで患者の顔に不安の色が見られなくなったという。

頭部以外の部位からもアプローチ

 ヘッドケアリングは、文字通り頭部をケアする施術だが、頭部以外からアプローチする方法もある。頭部は、五感が集中していてストレスを感じやすい部位なので、ヘッドケアは効果が出やすいが、その一方ではセンシティブな部位であることもあり、ケアを受ける人のなかには、頭を触られたくないと思う人もいる。

 「英国資格のチャンピサージで頭部をベースにしながら、日本でデータをとった内容や、日本文化や現場の実践の背景から、個々のニーズに合わせて、あえて頭部以外の部位へのアプローチを行うこともあります。また、香りや植物などの自然療法と組み合わせることもあります。より多様な角度から、対象となる方の心と体のバランスをとり、健康に一歩近けることが大事です」(鈴木代表)。

 筋肉を包んでいる筋膜は身体全体に張りめぐらされており、運動連鎖で頭のてっぺんから足裏までつながっている。このため、頭部をほぐして全身の筋肉の緊張を緩めることで、リラックスさせることができるが、頭部への接触を嫌う人には、まず腕や肩に手を添えるようにしている。

 「たとえば、腕をさする場合、腕先から肩にかけてさするのと、肩から腕先に向かってさするのとでは感じ方が違います。腕先からさするのは末梢血流を良くするためですが、伝統的な健康法の考え方では、ストレスを軽減させるには毛に沿った長いストロークを行います。不安があり眠れない時はどちらが心地良いか、など体感しながら学んでいきます」(鈴木代表)。

認知症の周辺症状が改善

 ヘッドケアリングは、認知症の周辺症状を改善し、精神の安定に効果があることが立証されている。認知症行動障害スケールⅡ(DBDS)で「同じことを何度も聞く」という患者に施術を行うと、ほぼ全員の患者が「ほとんどない」「ときどきある」に改善。不安などの感情機能も変化を認め、妄想や攻撃性、恐怖感などの周辺症状のスコアが低下している。

 また、短期間の施術では表情や行動には大きな変化は望めないものの、施術前後の血圧平均と脈拍測定値では有意差が見られ、リラックス効果が認められたという。さらに、半年間、自然排便ができなかった患者に施術を行うと、自分で排便ができるようになった例もある。

 「ケアを受けられた方の多くが“気持ちいい”と表情も穏やかになり、ウトウト居眠りをすることもあります。ケア終了時には“ありがとう”と感謝の言葉をいただいていますので、精神的な安定にもつながっているのではないでしょうか」(鈴木代表)。

 L.C.I.C.I. JAPANは、看護師や歯科衛生士、介護士などの医療・介護福祉従事者を「ヘッドケアリスト」に養成する教育機関でもある。教育カリキュラムには、介護や、口腔ケアにおけるケアも含まれており、スタッフ同士のコミュニケーションツール、患者の不安軽減など、対象や目的に合わせて十人十色のケアを行えるように、実践的な指導を行っている。

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「ヘッドケアリスト」を養成

 ヘッドケアリングを行う「ヘッドケアリスト」になるための勉強内容は、必修科目以外に各専門分野の選択科目がある。また、60歳以上が受講資格となる「エルダーヘッドケアリスト」は、退職後に社会とつながるツールとして学べ、一部の必修科目が免除となる。受講者は、医療・介護従事者のほかにも企業関係者や専業主婦などもいる。これまでに2,000名を超える卒業生を日本全国とニュージーランドに輩出している。今後は(一社)日本未病プラン協会と協力して、予防・未病分野にも活動の場を広げていく。

 今年9月からは、企業関係者も受講できるヘッドケアリスト育成講座や、医療従事者向けの特別講座を開講する予定だ。各講座に共通するのは、五感にアプローチをし、心と体のバランスをとり、クライアントの生活の質(QOL)を上げること。実技以外はオンラインで受講できるので、全国どこでも職場や自宅で勉強することが可能になる。選択科目では、医師・歯科医師・歯科衛生士・看護師・介護従事者・治療師・エステティシャンなどが非常勤講師として講師を務め、「各専門分野におけるヘッドケア」を用意している。ヘッドケアリスト養成講座を受講すると、英国資格のヘッドケア「チャンピサージ」の資格も同時に取得できる。

 鈴木代表が理事を務めるもう1つの団体に「(一社)国際ホリスティック・ヘッドケア協会」がある。ヘッドケアの施術でQOLを高め、予防医療に貢献することを目指し、2014年に設立した団体で、国内では唯一、職種ごとのモラルを守るヘッドケア資格の認定機関として、英国資格などを認定・発行している。この協会でもヘッドケアの安全性や有用性を確認するための医学的な研究に取り組み、研究成果を学会などで発表している。

 こうした実績が評価され、大手損保会社のAIG損害保険は、理美容・エステ総合賠償責任保険を、協会が認定するプログラムに対して「ホリスティックケア総合補償制度」として、協会員が加入しやすいようにした。

従業員のセルフケアセミナーを実施

 ヘッドケアリングは、心的障害に対する心のケアや、患者の不安を取り除くムント・テラピー、そして五感に訴える癒しの医療として、これまでは医療や介護の現場で注目されてきた。

 その背景には、インドのアーユルヴェーダの流れを汲んで体系化された伝統的なセラピーとして海外で利用されてきたという実績がある。加えて施術効果については、脳機能や頭部の静脈血流、さらに脳脊髄液の流れに影響する可能性があり、脳血流や脳圧の変化による病的状態にも有効であることが、ヒト試験によって実証されてきたことも、臨床応用につながる要因となっている。

 「施術の際はオイルを使わないので皮疹の危険性やオイルを洗い流す必要性もありません。安全で簡便な手法だといえます。また、施術者自身の時間的肉体的負担が少ないことも、医療や介護の現場に導入される要素の1つといえるでしょう」(鈴木代表)。

 国の働き方改革をきっかけに健康経営を目指す企業が増えつつあるので、今後は従業員向けのストレスケアとして企業の間にも利用が広がりそうだ。とくに内勤業務では、パソコン業務などが常態化しており、目や肩、首、頭の疲労が蓄積され、精神的にも影響(ストレス)が出やすい状況にある。これらを解消するため、L.C.I.C.I.JAPANでは、指導資格をもつヘッドケアリストが企業に出向いてセルフケアの仕方を指南したり、学校、教育機関にも利用の場を広げていきたいと考えている。

 「今年から企業への普及を目指し、従業員を対象としたストレスケアセミナーや業務効率の向上を目的にセルフで行うヘッドケアセミナーも行う計画です。また、実際にヘッドケアリングを受けてみたいと思われる企業さまには、専門のヘッドケアリストを派遣して職場で体験することができますので、気軽に声をかけていただきたいと思います」(鈴木代表)。

【取材・文・構成:吉村 敏】

<COMPANY INFORMATION>
ヘッドケアラボ L.C.I.C.I.JAPAN

所在地:東京都中央区銀座5-6-12みゆきビル
TEL:03-6337-9105
FAX:03-6737-1958
E-mail:info@lcici.com

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データ・マックスでは、(一社)日本未病総合研究所(未病総研)とのコラボ事業として、高齢者の健康づくり、生き甲斐づくりを応援する「元気な100歳チャレンジャー企画」の準備を進めています。健康づくりでは、未病総研のネットワークをいかし、マックス会員企業の顧客サービスをサポートするメニューを構築してまいります。

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