新型コロナ後の世界~「信頼の絆と弱者への労わりの心」を回復!(2)
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武蔵野大学客員教授・光輪寺住職 村石 恵照 氏
今人類は、「パーフェクトストーム」(複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること)の洗礼を受けており、この地球は前代未聞の嵐に飲み込まれようとしている。「新型コロナ」後の世界の風景は、今生きている私たちの誰もが見たこともない、経験したこともない、考えたこともないものになる。そこでは、今までのように、現実の問題を唯々紡いでいくだけでは、一向に心の平穏は得られないし、未来も見えて来ない。
村石恵照・武蔵野大学客員教授・東京仏教学院講師・光輪寺住職に話を聞いた。村石先生は20世紀文学の最高傑作『1984年』の著者ジョージ・オーウェルの研究者でもある。IMFは、新型コロナ後の世界について、2008年のリーマン・ショックを超え、1929年の世界大恐慌(オーウェルの生きた時代)に迫るとの予測を発表した。
宗教法人法には、宗教の定義が書かれていない
――今、宗教と世俗との境目が不透明になっています。
村石 韓国では、感染を拡大させた責任があるということで「新天地イエス教会」の教祖が土下座して謝罪しました。イラン、トルコなどにおける感染拡大の原因には「嘆きの壁」(エルサレムのユダヤ教の聖地)があるといわれています。には、イスラム教徒のラマダン(断食月)が4月24日前後から各国で始まり、感染拡大が懸念されました。
先ず、「宗教」とは何かを考えてみましょう。宗教という言葉は、本来は仏教文献の用語にありますが、現在使われている宗教という言葉は、明治時代に英語の“religion”を翻訳したものです。終戦後のマッカーサーの日本統治において「宗教管理」はとても重要な政策の1つでした。「宗教法人法」が昭和26年(1951年)に成立します。これは、第2次世界大戦まで、国家の政策と深くかかわっていた神道を政治から分離し、新憲法に定められた信教の自由 (20条) の原則に従ってすべての宗教、神社仏閣を法人化、つまり統制化しようという流れに沿ったものです。
ところが、宗教法人法は、宗教団体に関わる法律ですが、宗教の定義については何1つとして書いていません。従って、現時点でも、宗教の定義は、宗教学者の数と同じだけ存在すると言われています。
歴史の流れで、宗教にも大きな世俗化の波
村石 宗教団体の基本はものすごく簡単なものです。一定の本尊、教義を信奉するある宗教的資格を持つ責任者(住職、神主、神父、牧師など)がいて、教団施設があり、儀礼を行い、組織上、生産または営利活動に直接従事しない社会集団のことを言います。仏教でもキリスト教でもすべて同じです。新型コロナでは次のことが問題となりました。それは、信徒が従来のように、礼拝儀式などに集団で参加できなくなったことです。さらに、従来は時には命を捨ててまで信仰を優先してきましたが、ある意味、その戒律までも否定されてしまいました。
ささやかな体験ですが、私は1968年末から足かけ5カ月ほどインド、アフガニスタン、ネパールなどを放浪し、その後4年間、インドとマレーシアの在日本大使館に勤務しました。そのため、ヒンズー教徒やイスラム教徒と交流し、多少の理解があります。ヒンズー教徒もイスラム教徒も、基本的に儀礼を遵守する宗教であり、今回の新型コロナでは、儀礼の遵守を止めなければならない状況が生じました。とにかく「宗教のために死んでもいい」では済まされなくなってきたのです。新型コロナのため、宗教以外の領域でも、たとえば集会・結社・デモなどの自由も侵されています。
ご質問の宗教と世俗との関係ですが、これはとても大きなテーマで、かつ複雑な問題です。それぞれの宗教において対応は異なってくると思います。ただし、1つだけはっきりいえることがあります。それは、歴史の流れで、宗教にも大きな第2の世俗化の波が押し寄せてきたという事実です。
宗教の世俗化といいますが、言い換えると、宗教は教団という組織について見ると、実は本来的に世俗の生臭さをもっていたともいえます。新型コロナはそれを暴き出したのでしょう。日本人はよく簡単に「政教分離」という言葉を使いますが、本来は政教分離などできるものではありません。この点に対する考察が、意外なことに知識人といわれる人々の間でもなされていません。しかし、根本は先ほど触れたように宗教の定義に関わるものです。宗教問題を法律的に理詰めで考えようとすると、いつの間にか迷路に入り込んでしまうのではないでしょうか。
(つづく)
【金木 亮憲】
<プロフィール>
村石 恵照(むらいし・えしょう)
武蔵野大学客員教授・東京仏教学院講師・光輪寺住職。外国政府機関勤務、出版社経営、英文毎日コラムニストなどを経て武蔵野大学政治経済学部教授(2012年3月まで)。日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)副会長。研究領域は仏教学・日本文化論・イギリス思想(ジョージ・オーウェル)など。
論文・著作として”A Study of Shinran's Major Work; the Kyo-gyo-shin-sho”『東洋学研究』第20号、『旅の会話集(15)ハンガリー・チェコ・ポーランド語/英語 (地球の歩き方)』、『仏陀のエネルギー・ヨーロッパに生きる親鸞の心』(翻訳)、『オーウェル―20世紀を超えて』(共著)、「いのちをめぐる仏教知のパラダイム試論」『仏教最前線の課題』、『Gentle Charm of Japan』など多数。関連記事
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