元事件記者風情が初めて著書を出して思うこと(1)
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朝日新聞元編集委員 緒方健二 氏
初めまして、緒方健二と申します。いま66歳です。まごうことなき高齢者です。約40年間の事件記者生活の後、短大保育学科に入学し、保育士資格や幼稚園教諭免許などを取りました。2024年12月に初の著書『事件記者、保育士になる』(CCCメディアハウス)を上梓し、NetIB-Newsでもご紹介いただきました。旧知の同社代表取締役会長、児玉直さんからのご依頼で駄文を連ねます。
63歳で短大に入学
本には、63歳で入学した短大での悪戦苦闘を書きました。
還暦過ぎて保育や幼児教育の道を目指したことが珍奇で、面白がられたのでしょう。記者時代の大半を事件、警察、反社会的勢力の取材に費やしたせいで、目つきが悪く、態度が怪しく、どうひいき目に見てもまっとうな人には見えぬ半端者が子どもを慈しむ世界に挑むギャップが興味・関心の対象になったのかもしれません。全国各地の書店に拙著が置かれているのを見るにつけ、「何事も成し遂げていない、こんな中途半端な野郎の書いたモノが人さまの目に触れているとは」と恥じ入りながらも不思議な感慨を覚えます。
取るに足らない内容にもかかわらず、お読みいただいた方々から「いくつになっても新しいことに挑む姿に感動した」とか「若い人たちとの接し方がとても参考になった」などの過分なる感想が寄せられると、お世辞とは知りつつも少しだけ安心します。馬齢を重ねただけの半端者が分不相応にも本を出した経緯を振り返ると、たくさんのさまざまな人たちと触れ合ってきたゆえと思い至りました。荒波吹き荒れる実社会で、日々奮闘しておられる読者の皆さまもいろいろな人たちと出会い、喜び、嘆き、怒り、苦しみながらいまに至っていると拝察します。
世の中を眺めれば争いは絶えず、犯罪は頻発し、政治家は悪事を繰り返し、暮らし向きは一向によくならず、腹立たしいことばかりです。でも少しでもまっとうな世の中にしようと苦闘している人も少なくありません。
当方のごときどうしようもないやさぐれ者が、かろうじて塀の内側に落ちることなく生き延び、自著を世に出すに至ったか。しばらくの間、繰り言にお付き合いください。
ガキの時分からろくなもんじゃねえ
簡単に自己紹介します。
1958年に生まれました。父は地元新聞の記者、母は専業主婦でした。3つ違いの兄がいます。
某県内の小さな街をぐるぐると転勤する父の都合に振り回され、どこが古里かわかりません。小学校を変わるのがつらかったなあ。仲良くなった友達と別れ、中途半端な時期に新しい街に移って顔見知りゼロの学校に入るのは不安でした。生来の負けず嫌いなので、転校初日は「なめられてたまるか」と気を張り、興味津々の同級生をねめ回します。
「そうか、こいつがクラスを仕切っているのか」とあたりをつけ、接近し、ここでは言えないような言動でそいつを制圧します。
幼稚園時代に始めた剣道と野球でブイブイ言わせ、それに幸い足が速かったので転校から2週間ほどでなじむことができました。
ガキ大将を演じていたのです。内心では「どう見られているのだろう」「嫌われたらどうしよう」とびくびくしていました。だれも信じてくれませんが、不安が高じて夜、布団のなかで涙を流したこともあります。
無茶な遊びをしても叱ることなく、笑顔で見守ってくださった幼稚園の先生、警察署の道場で剣の道を叩きこんでくれた餅屋のじいさん、学校対抗リレー練習の合間に沖縄返還の歌を教えてくれた小学校教諭、文化祭で手づくりボートによる大川横断中に転覆しても「楽しんだのならそれでよし」と労ってくれた高校の世界史教諭…。「こんな大人になりてぇ」と思わせてくれる人に恵まれました。
台風の暴風雨のなか、合羽姿でバイクに跨り、外に飛び出す父を見ていました。カメラを肩から堤げ、ふらりと警察署に入っていく姿もよく覚えています。仕事柄、職場兼自宅には朝日、毎日、読売をはじめ新聞各紙が置いてありました。日本共産党の機関紙『赤旗』もあり、ろくに漢字も読めない小学生の当方は新聞のインクで指を汚しながら、活字を追っていました。
(つづく)
<プロフィール>
緒方健二(おがた・けんじ)
1958年生まれ。毎日新聞社を経て88年朝日新聞社入社。西部本社社会部で福岡県警捜査2課(贈収賄)・4課(暴力団)、東京本社社会部で警視庁捜査1課(地下鉄サリンなどオウム真理教事件)・公安、国税、警視庁キャップ(社会部次長)5年、社会部デスク、編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)、犯罪・組織暴力専門記者などを歴任して2021年退社。22年に短期大学に入学し、24年卒業、保育士資格などを取得した。NetIB編集部では『事件記者、保育士になる』を改めて5名さまにプレゼントする。応募の詳細は「事件取材の鬼が驚きの転身」を参照。
データ・マックスは近々、著者との交流の機会を設ける予定にしております。卓話など形式は未定ですが、改めてお知らせいたします。関連記事
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