陰謀論強調「産経」のやぶへび

政治経済学者 植草一秀

 123便墜落から40年の時間が経過する。墜落原因については強い疑問が残存している。政府の事故調査委員会は123便墜落が、123便内部の圧力隔壁損傷で垂直尾翼が失われたことによって生じたものだとした。しかし、事故調査報告書は墜落原因について「推定される」と表現している。

 国会答弁で政府の運輸安全委員会委員長は事故調査報告書の表現について、「墜落原因が断定できる場合」には「認められる」との表記、「墜落原因がほぼ間違いない場合」には「推定される」との表記、が用いられると答弁した。123便墜落原因については「推定される」の表記になっている。つまり、墜落原因は断定されていない。

 産経新聞が事故原因についての疑念を提示する考察を「陰謀論」と表現して打ち消しに躍起になっている。この不自然なスタンスが疑念を増幅させている。「陰謀論」と否定するなら客観証拠の開示を強く主張しないとおかしい。強い疑念を招く客観的な事実が多数存在しており、その点に言及しないことが産経新聞主張の信頼を著しく低下させている。

 とりわけ重要と思われる四つの論点を提示する。第一は墜落地点が墜落直後に確認されたと考えられるにもかかわらず、主要メディアが翌朝まで墜落地点不明という情報を流布したこと。これに連動して被害者の救出活動開始が翌朝までずれ込んだ。

 第二は123便のボイスレコーダー、フライトレコーダーが完全開示されていないこと。フライトレコーダーに真相を究明する最重要の証拠が存在すると考えられる。疑念を払拭するにはボイスレコーダー情報を完全開示することが極めて有効。産経新聞はなぜかボイスレコーダー完全開示を主張しない。

 第三は2013年9月に新たに決定的とも言える証拠が政府によって開示されたこと。〈異常外力の着力〉だ。123便に機体の外部から異常に強い力が加えられたことが明らかにされた。この〈異常外力の着力〉こそ123便墜落に関連する最重要事象と言える。政府事故調は123便の圧力隔壁が損傷し、これが原因になって垂直尾翼の大半が失われたとしている。しかし、123便に機体の外部から異常に強い力が加わったということになると、この説は揺らぐ。

 第四はその圧力隔壁が墜落直後に墜落現場で自衛隊によってバラバラに裁断されたこと。墜落直後の時点で一般的には墜落原因は明らかになっていない。したがって、散乱する機体そのものが原因を究明する最重要証拠になる。現場で機体の一部をバラバラに裁断することは「絶対にしてはならないこと」のはず。ところが、自衛隊は真っ先に圧力隔壁部分をバラバラに裁断した。のちに事故調が圧力隔壁原因説を提示したことと自衛隊による現場での圧力隔壁破壊行動との関係性に焦点が当てられるのは当然のこと。これらを含めて疑惑の論拠が多数存在する。

 最大の重要事実は政府が〈異常外力着力〉を公表したこと。最重要の証拠物である。私は、「追尾したファントム等が123便のエンジンをミサイルで撃破したとの仮説」「自衛隊員が隠密行動し、墜落現場に先回りして証拠隠滅のため火炎放射器で機体の残骸や被害者などを焼き払ったとの仮説」については、より慎重な取り扱いが必要だと考える。そこまでの行動が取られたとはにわかには考えにくい。この説を唱える根拠などが提示されているが、説を完全に立証するまでには至っていないと判断している。

 しかし、123便墜落原因は圧力隔壁損傷だとする政府事故調仮説には同意できない。何らかの飛翔体が123便に機体外部から衝突し、そのために垂直尾翼が失われて墜落に至ったと考えるべきだと判断する。これは〈陰謀論〉でない。確認される客観データ、資料に基づいて考えられる〈蓋然性の高い推論〉である。

 他方、「自衛隊機等がミサイルで123便のエンジンを爆破したとの仮説」「自衛隊が現場で12日夜から13日朝にかけて機体の残骸や被害者を火炎放射器で焼いたとの仮説」については、より精密で慎重な取り扱いが必要だと思う。極めて特殊な仮説であるため、仮説の取扱いは慎重にも慎重を要するものと考える。

 懸念されるのは、この二つの仮説だけが大きく取り上げられることによって、123便墜落の真相解明が闇に葬られること。123便墜落には重大な疑惑が存在する。圧力隔壁が損傷し、その影響で垂直尾翼が失われたとするなら、機体後部に穴が開いたということになり、機内では急減圧の大混乱が生じていなければおかしい。しかし、発見された写真データによると、爆発音が発生した後、酸素マスクが出た後の機内にはそのような混乱が見られない。救出された4名の乗客はいずれも機体最後部付近の座席に着席していた方で、耳に障害も発生していない。

 123便墜落の原因究明における最大の論点は〈異常外力の着力〉。2013年9月に運輸省航空事故調査委員会が「62-2-JA8119(航空事故調査報告書付録)(JA8119に関する試験研究資料)」https://bit.ly/3KAt8Krを公表。この資料に〈異常外力着力〉が明記された。123便の外から異常な外力が着力したとするもの。上記資料116頁に「異常外力の着力点」が図示された。

 101頁に「18時24分35.64秒ごろに前向きに、また、36.16秒ないし36.28秒ごろに下向きに、それぞれ異なる異常な外力が作用したことが確からしく考えられる。」と明記された。ここに記載された時刻が極めて重要である。18時24分35秒、36秒は、123便ボイスレコーダー音声書き起こし資料において、「ドーンというような音」が記載された時刻と完全に一致する。

 爆発音の1秒後に123便の高濱機長が「まずい」「なんか爆発したぞ」と声を発し、24分42秒に「スコーク77」を宣言した。「スコーク77」は航空機に緊急事態が発生した時に管制に発信する最高度の国際救難信号。18時24分35秒と36秒に123便に機体外部から巨大な力の着力があり、これと同時に「ドーン」という爆発音があった。機長は「なんか爆発したぞ」と声を上げ、直ちに「スコーク77」を宣言した。自衛隊機が123便エンジンをミサイルで爆撃したとの説、自衛隊が13日朝にかけて現地で墜落機体や被害者を火炎放射器で焼いたとの説、と、123便に異常外力が着力したこととは、まずは切り離して考察することが重要だ。

 上記の二つの仮説が混在すると、〈異常外力着力〉問題が陰に隠される危険がある。群馬県上野村の小学生が123便を2機のジェット機が追尾したとの目撃証言を示していることを踏まえると、自衛隊機2機が123便を追尾した可能性は高いと思われる。その場合には、高濱機長と自衛隊機が交信した可能性が高い。ボイスレコーダーを完全開示すれば、交信有無を含めて事実関係が明らかになる。

 自衛隊は8月12日に「まつゆき」が相模湾に展開していなかったとシンポジウムで述べたが、この日に日米合同演習が実施されたことは事実ではないか。また、「まつゆき」以外の護衛艦等が相模湾に展開していなかったことは証言されていない。「陰謀論」を掲げて真相解明に蓋をしようとする姿勢が、より強い疑惑を招いている。


<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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