2024年12月22日( 日 )

西友売却に見る小売のパラダイムシフト(後)

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 かねてから売却が噂されていた西友の売却が現実になった。米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が65%、すでに西友とネットスーパーを共同運営している楽天が20%の株式を引き受ける。ウォルマートにとって、10月のイギリスの子会社アズダの売却に続く矢継ぎ早の海外店舗の見直しだ。今後も一部の株式は保持し、商品供給などに関わるというものの、実質は日本からの撤退である。

アマゾンというエイリアン(つづき)

 さらに、その背中を押すのがコロナ下のライフスタイルの変化だ。これまで生鮮など生産効率の良くない商品を含む食品はその単価もネックとなって、ネット需要を喚起できずにいた。しかし、非接触消費のニーズ拡大がそこの構造的な変化をもたらしつつある。英国のオカドのようにネットスーパー専業の企業が登場しただけでなく、同じようなシステムを備えようというクローガなど既存大手小売業も少なくない。我が国でもイオンがクローガと同様オカドと提携し、AIやロボットを使った最新技術の提供を受け、2023年までには巨大なネットスーパー専用の拠点を千葉市に建設する。

 既存店舗と個人宅配業者を使った宅配も多くの小売店で当たり前になりつつある。参入者が多いとそこに技術革新とコストの低下が生まれる。そうなるとますます個人宅デリバリーが一般化するということだ。見方を変えればこれは立地の崩壊でもある。そんな中、リアルで生きていくには大型ディスカウンターや価格戦術と一線を画した特殊なスーパーマーケット、極めてローコストで運営できるスーパーマーケットということになる。

 アメリカにアルディと同じルーツをもち人気を誇るトレーダー・ジョーズというスーパーマーケットがある。従業員は親切で能力が高く、価格が安いPB商品中心の店を米国各地に展開しているが、宅配などには一向に関心を示さない。そんなトレーダー・ジョーズも、いま従業員のコロナ感染とそれによるクラスター発生の懸念で店舗運営の困難に直面している。考えてみればスーパーマーケットは密である。コロナのリスクと無縁ではない。コロナに限らず、宅配競争でオンライン購入が一般化するとその後の小売の景色が従来と違ったものになるのは当たり前なのかもしれない。トレーダー・ジョーズの苦境もそれを予感させる。

楽天とKKRの思惑はうまく行くか

 アズダも西友も同じようなスタイルで大手小売業の立て直しを図る構図になったが、問題はそれがうまくいくかどうかだ。小売の基本はまず立地である。ついで商品と価格、提供方法ということだろうが、このなかでも立地はとくに重要であり、立地の失敗はその他の条件改善では補うことができない。オンラインの特徴はこの立地にある。ネットを介する商圏はほぼ無限である。短時間で商品が劣化する生鮮食品以外、1つの拠点から、全国津々浦々に商品を届けることができる。しかも在庫はリアル店舗の比ではない。販売商品や単価で顧客の嗜好性やニーズの詳細もリアルタイムで入手できる。最初は出品者が提供する商品の販売専業だが、その販売データを手にすることで、自らが出品者になり、さらにメーカーにもなり得る。出品者にとってひさしを借りて母屋を取られるという構図である。トイザらスとアマゾンの経緯を見ればそれが良くわかる。

 西友の店舗は立地も店舗スタイルもある意味陳腐化している。それがウォルマートの力をもってしてもうまくいかなかった大きな理由である。巷でいわれる日本の問屋システムや競争相手に負けたというのはごく一部の理由に過ぎない。

 当然、これからの西友にはその改善への容易ならない道のりが待っている。今回の売却に合わせて、西友は福岡春日店など一部店舗では直営部分の商品を売りつくし、建替えも含めて売り場改装を始めている。今後は楽天という無店舗企業がリアル店舗の経営にも携わる。人手不足、賃金高騰に備えてAI投資による店舗の省人化など、リアル店舗の課題は少なくない。アマゾンと同様、楽天の手法も注目である。その結果がどうなるかは今後の楽しみでもある。

(了)

【神戸 彲】

(前)

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