2024年12月22日( 日 )

【経営者事業魂の明暗(2)】「第二期創業時代」へ突入、経営理念を貫く~ゼオライト(株)

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激動の1年の基盤固め

ゼオライト社屋
ゼオライト社屋

 創業52年を迎える日本有数の創水プラントメーカーであるゼオライト(株)にとって、この1年は激動の日々だった。「コロナ襲来」程度ではない。会社の根幹が揺らぐ「震度8」と言っても過言ではない激震に見舞われたのである。激震とは昨年11月3日、創業者の河村恭輔氏が永眠されたことを指している。

 嶋村謙志社長は「会社の羅針盤を喪失したようなものだった」とし、「しかし、頑強な企業基盤があったからこそ、おかげで激動のなかでも次世代への足がかりを固めることができた」と振り返る。

 創業者・河村恭輔氏について回想すると、(1)社員たちの生活を守るという強い使命感には感服させられた。今でも足元におよばない。また、社員の健康を守るために朝食の提供を6年間続けた。「社員を守る」という理念通り、「見返りを求めない無償の愛」を実践する経営者は稀有である、(2)研究一筋で、逆浸透膜(RO)を活用したビジネスモデルを確立した――ことが浮かんでくる。

 (1)については、社員たちが結束して業務に専念した。(2)のビジネスモデルが強固なおかげで、この1年もシェアを伸ばすことができた。

すべてが託された

嶋村 謙志 氏
嶋村 謙志 氏

 嶋村社長によると、さらに困難な事態が訪れたという。今年になって河村勝美会長から「もうたまにしか出社しない。自分たちのことは自分たちでやりなさい」と通告されたのである。会長の立場からすると、「出社すると口を出したくなる。私に遠慮して嶋村社長をはじめとした社員たちの気が散るから、全面的に任せることにした。彼らに完遂するパワーはある。任せるしかない」となる。経営に干渉しないという忍耐力を短期間で体得するとはたいしたものである。

 嶋村社長からすれば、「任されたといっても創業者夫婦の覚悟と蓄積にはとてもおよばない」と当初は不安だったが、「すべてを託された以上、やるしかない」と自身に言い聞かせて全力投球した。その結果、コロナ禍の21年7月期も最高の増益を確保。これにより経営陣も、社員たちも自信がついた。激動のなかでも増益をはたした経験は大きな力となる。そこで、すかさず次なる人材戦略を決定した。

 まず河村会長を除き、嶋村社長を筆頭とした取締役3名は20年以上の勤務歴があり、会社への忠誠心は抜群である。この生え抜きメンバーがいれば、今後10年間の会社運営に支障はないと判断している。ただし、その先の見通しを立てなければならない。そこで10年勤続者(30代が大半)のなかから執行役員を抜擢した。嶋村社長は「会社を永続させることが経営者として最も重要な責務。私の代以降の人事の布石を打った」と強調。「第二期創業人事方針」を確定したと評価できる。

 中小企業の間でM&Aが流行している。身内に事業継承者がいなければ手放すという選択を批判するつもりはないが、最後になって意地を失ってしまった結末を見ると寂しいと言わざるを得ない。「嶋村社長、君にすべてを託す」というセリフを吐くオーナー経営者も珍しい。「託された以上、挑戦あるのみ」と大役を平然と引き受ける嶋村社長も素晴らしい。中小企業の事業継承のモデルとなることを期待する。

この1年の激動期に学ぶ

 創業者の逝去という非常事態の勃発、コロナ蔓延で営業活動も制限されるハンディのなかにあって、どうして同社社員たちに迷いが生じなかったのか。それは経営理念が本物であり、それが実体化してきたからだ。

 まずは「人財創りに専念・注力」を掲げて本物の経営と人間愛を受け継ぎ、「良い水創り・人財(人)創り」として具体的にかたちを残すように励んできた。その結果、2000年から業績面で快進撃をはたしてきたのである。この成功体験を会得した社員全員が「創業者が逝去されようとも会社を発展させるぞ」という意識の下、一致団結したのだ。

 さらに商品面でもさまざまな開発を行ってきた。まず環境省が主導する「ウォータープロジェクト」に参加した。水循環、水資源の重要性の原点に立ち返り、排水リサイクル事業に着手。創水プラントを納めた従来の顧客へ排水浄化システムを勧めて、下水処理負担を減らすメリットを提供するビジネスを構築した。排水回収装置の能力を94%まで高めるメドもつけた。

 同社を支えるもう1つの事業の柱が、「わかみず」ブランドの宅配事業。コロナ禍によって巣ごもり需要が急増。浄水器の製造から配送まで徹底的に点検し、コストの削減に成功したのである。

 「お客さまへのサービス向上に関する討議・研究、プラントの性能アップへの挑戦と担当者たちが必死になってきたことは大きな前進である」と嶋村社長は説く。経営理念を掲げて社員全員の強固な結束力で戦うゼオライトの動向に今後も注目したい。


<COMPANY INFORMATION>
代表取締役会長:河村 勝美
代表取締役社長:嶋村 謙志
所在地:福岡市博多区那珂5-1-11
設 立:1970年8月
資本金:9,000万円
TEL:092-441-0793
URL:https://www.zeolite.co.jp

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