2024年11月23日( 土 )

山口FGの再建を考える 関係者、読者からの声(3)

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 NetIB-Newsには、山口FG関係者や読者から数多くの山口FG再建策が寄せられている。その内のいくつかを以下に紹介していく。

■法人部門は融資以外で稼ぐ

 リテール部門の分離後は、銀行の営業機能として法人部門が残る。吉村氏の構想では、法人部門も旧来の銀行のような融資に頼らない、違った方法を考えていたようだ。その1つが企業へのコンサルティングである。子会社のワイエムコンサルティングの人員を増強し、融資ではなくコンサルティングの対価として稼ぐビジネスモデルをつくり上げようとしていた。そのために特許や知的財産の専門家の中途採用も行っている。

 また、それ以外にも事業者向け損害保険の販売を山口FGの域外(福岡市や岡山県)で展開するとの構想も描いていた。シェアの低い福岡市や岡山県で他行と融資で争っても勝ち目は少ない。ある企業で3番手、4番手の融資に甘んじるくらいなら、他のビジネスで稼ぐべきではないかとの思いがあったようだ。そして、銀行は融資先に保険は販売できないという規制を逆手に取り、融資のある他行ではできない損害保険の販売を思い付き、この分野で知見のあるマーシュジャパンという外資系の保険企業との提携を行っている。これは、地方銀行としては唯一の事例である。たしかに、低金利下で融資を行うよりは合理的な考え方かもしれない。

 このような従来の銀行が行っていなかったような営業手法をいくつも組み合わせて他行との差別化を行い、他行の本拠地でのゲリラ作戦のような展開を考えていたという。山口FGでは、山口銀行時代から福岡県と広島県で「両翼作戦」と呼ぶ拡大戦略を取ってきた。法人部門における吉村氏の構想は斬新ではあるものの、従来の戦略に沿ったものであるともいえる。過疎部の銀行が都市部に攻め込む姿は壮大なドラマを見ているようでもある。

【組織風土を変えないことには変われない】

山口フィナンシャルグループ    吉村氏は人間としての倫理観には問題があったと考えるが、銀行経営者としての発想力はあったのかもしれない。しかし、吉村氏が描いた姿は実現することなく、「保険ひろば+」は消滅する。その運営母体だったYMLPも業績不振で迷走しているという話が伝わってくる。その他の事業も似たり寄ったりという状況である。そして、吉村氏は会長を解任され、取締役を辞任するに至るのである。

 吉村氏の構想について、ライバル行はどのように考えるのだろうか。福岡市内の銀行関係者に聞いてみた。

 「リテール部門での行員の転籍は難しいでしょうが、方向性としては間違っていないように思います。ここまで踏み込んだ改革を行った有力地銀はありませんし、実現していればモデルケースとなったでしょう。自行での住宅ローンの縮小は合理的な考えですし、総合金融ショップは保険ショップを買収した山口FGだからこそ実現できることだと思います。事業者向けの損害保険は当行グループでも取り組んでいますが、融資の少ない地域で展開するというのは興味深いところです。どうやって取引先を開拓するのかという課題はあるでしょうが、福岡市で展開されると脅威でしたね。」

 すばらしいアイデアだったように思われるが、なぜ頓挫することになったのだろうか。吉村氏はワンマンで絶対的な権力者ではなかったのか。ある山口FG関係者はこう語る。

 「実は、YMLPに銀行員を大量に移籍させる必要があることから、人事部門出身のKという人物を社長に据えたのです。この人物は問題を起こして左遷状態にあったため疑問視する声もあったのですが、吉村氏は人事対策が構想実現のカギになると考えたのでしょう。Kを支店の次長から部長級でYMLPの社長に抜擢しています。しかし、この人物の登用が失敗でした。新しい事業を行うYMLPに銀行員の年次・役職重視の文化を持ち込み、銀行の価値観だけで進めてしまったのです。パワハラもあって中途採用者や若手の離職が相次ぎ、構想実現どころではなくなってしまいました。すばらしいアイデアも古い銀行員の硬直的な考え方に潰されてしまったのです。」

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 このKという人物は責任を問われることもなく、北九州銀行の支店長を務めているというのだから不思議な会社である。別の山口FG関係者はこう語る。

 「山口県から九州大学に進学する人はかなりの数がいるのですが、地方銀行を志望する人でも山口FGに就職して地元に帰ってきてくれる人は稀です。みんな、ふくおかFGや西日本FHに就職してしまいます。地元出身者からも選択されていないのですよ。結局、九州大学と山口大学の人材の差が銀行の実力にも影響が出ているのです。」

 たしかに、山口FGからふくおかFGに何人もの転職者が出ていることは耳にするが、逆にふくおかFGから山口FGに転職をしたという話は聞いたことがない。出身大学ですべてが決まるわけではないだろうが、優秀な人材を採用できていないという点ではその通りかもしれない。この人物は続けてこう語る。

 「最近、唐突に山口FG退職者の再雇用制度が公表されました。吉村氏が『脱銀行』を唱え、旧来の銀行員の発想を打破しようともがいていたのとは対照的です。旧態依然の銀行文化に回帰するという宣言にも見えますね」 

(つづく)

【特別取材班】

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