ウクライナ戦争の陰で関心の高まる昆虫食
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、8月12日付の記事を紹介する。世界が注視するなか、ウクライナ情勢は厳しい事態が続いています。ロシアやウクライナという穀物生産大国の輸出が思うに任せないため、世界的な異常気象と相まって、食糧危機が間近な問題となってきました。
とはいえ、人類はより大きな危機に直面していることを知らねばなりません。それは世界の1万人以上の気候専門家と気象研究機関の97%が「2026年人類滅亡説」を提唱していることです。現状のままでは、地球環境の悪化に歯止めがかからず、「人類が滅亡する恐れがある」という警鐘にほかなりません。
では、その理由は何でしょうか?最大の原因は加速する一方の「地球温暖化」。何しろ、産業革命以前と比べ地球の平均温度は10度近くも上昇しているのですから。北極や南極の氷も溶け始め、海面水位も上昇するばかりです。
しかも、北極海の海底では異変が観測されています。何かといえば、メタンガスの噴出が発生し、海中で溶けず、大気中へ放出されているのです。その結果、北米からロシアにかけての森林や泥炭地での大規模火災が頻発するようになりました。
こうした異常な自然現象は、大なり小なり人間の経済活動や軍事行動によって引き起こされたものです。アメリカだけでも年間1.7兆ドルの軍事費を費やし、世界各地で軍事演習や戦争に関わっています。結果的に、二酸化炭素とメタンガスの大量排出につながっているのが現実です。
もちろん、放射能汚染の影響も無視できません。日本もその責任の一端を担っており、福島原発事故によって発生した大量の汚染水を最終的には希釈して海洋放出すると発表しました。これらは周辺国をはじめ、国際社会から批判の対象になっています。
世界各地で繰り返される紛争や戦争、そして環境破壊によって、食糧生産にも陰りが見えてきました。これこそ世界の環境学者らが懸念する食糧危機の始まりです。そんな食糧危機が迫りくるなか、国際的に関心が高まってきているのが食の技術革新である「フードテック」であり、その代名詞的存在が「培養肉」と「昆虫食」なのです。年間2兆円を超える開発資金が投入されています。
国連食糧農業機関(FAO)も昆虫食を推奨する報告書をまとめたほどです。それによれば、「2050年に世界人口は97億人に達すると予測されるなか、温暖化による異常気象が顕在化しており、温室効果ガスの発生を抑え、地球の負荷の少ない食料としての昆虫食が優れている」とのこと。
確かに、昆虫全般に当てはまるのですが、タンパク質を多く含む種類が多いのです。イナゴもコオロギも高タンパク質低脂肪が特徴となっています。それ以外にも、昆虫にはカルシウム、マグネシウム、リン、銅、亜鉛などミネラル分を豊富に含むものがいくつも存在しているのです。また、昆虫はタンパク質に加えて、身体に良いとされる不飽和脂肪酸を含むものが多く見られます。
FAOの報告書によれば、「昆虫食こそ今後の食料としては最適」とのこと。なぜなら、第1に、飼料変換効率が抜群であるからです。たとえば、牛肉を1kg増やそうと思えば、10kgの餌が必要になります。ところが、コオロギの場合は2㎏の餌で十分です。しかも、コオロギの可食部率は80%と高く、変換効率で比較すれば牛肉の12倍にもなります。実際、世界では500種以上の昆虫が常食されているとのこと。
第2に、メタンや二酸化炭素など温室効果ガスやアンモニアの排出量が少ないため、地球温暖化に対する抑制効果が期待できるわけです。メタンは牛など草食動物の腸内発酵によるゲップに多く含まれています。
第3に、環境汚染の低減や土地や水の節約にも役立つという利点もあります。なぜなら、人間の廃棄物で昆虫を育てることが可能であり、廃棄される生ごみを半減させることにもつながるからです。しかも、家畜と比べ、はるかに狭い土地と少量の水で飼育できる点も強みになります。
実は、地球は「虫の惑星」でもあります。極地を除けば、地球上にあまねく存在しているからです。日本だけでも10万種類を超える昆虫が確認されています。しかし、最近、その昆虫類にも絶滅の恐れが出てきました。というのも、熱帯雨林が毎日8万エーカーも消滅中のため、そこに生存してきた昆虫類の8割近くが絶滅の危機に瀕しているからです。
「人類の生き残りにとって切り札になる」と期待の高まってきた「昆虫食」ですが、決して楽観できそうにありません。なぜなら、気象学の専門家によれば、毎日200種類の植物、鳥、動物、魚、両生類、昆虫、爬虫類が絶滅中であり、すでに2万6,000種類は絶滅の危機に瀕している模様ですから。
そこで、「待ってました」とばかり登場してきたのが、救世主を自任するビル・ゲイツ氏。コロナ用のワクチンでも大儲けしていますが、食糧危機にかこつけて「代替肉(プラントベースミート)」の普及に本腰を入れています。「ゲイツ氏に続け」とばかり、今や世界では70を超える企業が人工肉の生産に着手しているのです。
要は、肉も魚も野菜もすべて人工的につくるという壮大な「人類救済計画」が緒に就いたわけです。はたして、どのような結末となるのでしょうか?人工肉の人体への影響はいまだ「未知の世界」です。これだけ生物圏の崩壊が続けば、「人類だけが生き残れることはあり得ない」という悲観的な結論に至るのも当然で、起死回生の一打となればよいのですが…。
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アメリカのペロシ下院議長は台湾訪問で何を狙ったのか日本でも新たなビジネスが続々と登場しています。たとえば、東京のTAKEOでは弘前大学と共同で「トノサマバッタせんべい」を開発。原材料のトノサマバッタはイネ科の草だけで育ち、味も一般的な昆虫食のコオロギと比べ雑味が少なくおいしいとのこと。また、熊本のDAIZでは大豆を使った植物肉の開発に成功し、「ミラクルミート」として製造販売中で、将来的にはツナ、卵、ミルクづくりにも挑戦するとのこと。
要は、ウクライナ危機の裏側で人工食材づくりの「フードテック」レースが始まっているのです。この分野ではアメリカと中国がしのぎを削っています。遅れて参戦した日本ですが、農水省では2020年に「フードテック官民協議会」を立ち上げ、500社を対象に支援体制を組んでおり、大いに期待したいところです。
次号「第307回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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