2024年07月16日( 火 )

2030年の世界:アルビン・トフラーの遺言(後)

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、9月2日付の記事を紹介する。

 1970年代に一世を風靡した『未来の衝撃』は大ベストセラーとなり、全世界で3,000万部も売れたという。そのなかで提唱されていた「社会的未来主義」には筆者自身も大いに感銘を受けた。2022年の今、改めて読み返しても、その発想の斬新さや先見性の素晴らしさには驚かされる。

 彼との対話で最も印象に残っている言葉がある。曰く「今から振り返ると、いくら当時ベストと言われていた頭脳を集めても所詮“寄せ集め”に過ぎなかった。他人の頭脳に頼るのではなく、自分が確信する独創性をもっと突き詰めて発展させていくべきだったという気がしてならない」と心情を吐露してくれたのだった。

 とくに政治の世界ではこのタイムラグの問題が大きな問題といえよう。欧米でも日本でも政治家はコンピューターでいう「バッチ・システム」という旧式の情報力に頼るという時代感覚で動いている。

 他方、政治に影響を与えようとしているロビー団体は旧統一教会に限らず、一日24時間、一年365日リアルタイムでたゆまなく働きかけを行っている。つまり、「オンライン・システム」で働いているわけだ。その結果、実行に移された政策が現状にそぐわないという状況が起こってくる。こうした状況はアメリカだけではなく、日本でも世界でも見られる共通の現象であろう。

 個人でも組織でも先を読むだけでは足らず、「先の先を読む」必要が常にあるわけだ。要は、情報といっても、「未来に生きる情報」と「過去を確認する情報」とを区別しなくてはならない。そんな時代の流れのなかで、情報の意味をチェックしなければ、21世紀の情報戦士にはなれない。そのことを改めて再確認させてくれるのが『未来の衝撃』である。

    2011年の「3・11」東日本大震災を受け、原子力の安全神話が崩壊したにも関わらず、脱原発に踏み出せないまま、新たな原発建造にかじを切った日本のエネルギー政策。メタンハイドレートのようなクリーンなエネルギー源が日本沿岸に大量に眠っているにもかかわらず、既存の原発や輸入天然ガスから脱却できない。

 朝鮮半島の非核化や南北朝鮮の融和・統一に向けての外交的努力をせず、高額なアメリカ製のミサイル防衛システムを買い増し、アメリカの要求する「アジア版NATO」に進もうとする日本の防衛政策。

 2060年には人口が半減し、税収も大幅に落ち込む見通しが明らかになっていても、110兆円を超える大盤振る舞いの予算編成に走る日本の省庁や国会。このままでは「未来から取り残される」という運命になりかねない。

 今こそ、我が国のみならず世界全体として「未来の衝撃」に直面しているとの危機感を共有し、新たな社会的価値観と秩序の創造に立ちあがる時であろう。未来学の真髄とは「目標とする未来を具体的に想像でき、そこから今何をなすべきかを決断すること」。そんな未来学的発想の指導者が求められている。

 「アメリカ第一主義」をいまだに標榜しつつ、軍事産業第一主義に走るアメリカとの同盟関係に固執するのか。あるいは、そのアメリカを追い抜き、「一帯一路」計画という巨大な経済圏を生み出そうとする中国と連携するのか。日本の未来をどこに委ねるのか。

 大事なことは、そんな他力本願の選択ではなく、両者の強みや弱みを冷静に把握したうえで、地球規模での資源と人材の開発戦略を独自に打ち出すことであろう。「燃える氷」と呼ばれ、燃やしてもCO2の排出量が極端に少ないクリーンエネルギーであるメタンハイドレート1つをとっても、開発技術に関しては日本が世界の先頭を走っている。

 しかし、既存のエネルギー源に固執する業界の抵抗もあり、その実用化のめどは立たない。実にもったいない話だ。アメリカも中国も、そしてロシアや韓国も熱い関心を寄せている「未来のエネルギー」なのである。領土問題や利権争いを乗り越え、国際的な共同開発への道筋を日本が示せる、またとないチャンスのはず。頻発する自然災害の嵐やテロ攻撃に原発が飲み込まれる前に、新たな自然エネルギーへの移行を図るべきではなかろうか。残された時間は少ない。未来は自ら創造し、つかみ取るものである。畏友アルビン・トフラーの遺言を噛みしめる今日この頃。

 次号「第310回」もどうぞお楽しみに!


著者:浜田和幸
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