岸田流弔問外交の可能性と限界
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NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
今回は、9月16日付の記事を紹介する。吉田茂元総理の国葬以来55年ぶりとなり、9月27日に武道館で開催される予定の安倍元総理の国葬ですが、世論は反対意見が過半数となっています。政府は海外を含め、6,000人の弔問参加者を想定していますが、かなり厳しいとの見通しです。
実は、日本政府というより岸田総理の一存で決まったような国葬です。岸田総理は「1700超の海外からの追悼メッセージが届いている。これは日本国民全体へ向けられたもの。礼節をもって応えたい」と述べたうえで、「国葬儀は立法権ではなく、行政権に属する。具体的な法律はないが、国会に諮る必要はない」と説明。
岸田総理の側には国葬を通じて「政権運営をスムーズに展開したい」、はたまた「自民党内最大派閥の安倍派を取り込みたい」との政治的計算が働いたようです。また、旧統一教会問題で自民党がメディアや世論から厳しい目を向けられているため、そうした批判から関心を反らす意図があったのではないかとの指摘も出ています。
凶弾に倒れた安倍元総理の業績は別にして、国葬にともなう費用が当初の2億5,000万円から警備費や接遇費が加わり約17億円と増額になったことも問題視されています。中曽根元総理の場合のように、「内閣・自民党合同葬」であれば、国費の負担も限られるため、今回のような批判は出なかったはずです。
とはいえ、産経新聞の官邸キャップを務めた安倍応援団でもある阿比留瑠比論説委員などは「海外のVIPが国葬に来日すれば、同行スタッフらが宿泊、移動、そして飲食や買い物もするので、その経済効果は20億円を軽く超える」と発言し、国葬賛成の論陣を張っています。
しかし、彼の見通しでは「オバマ元米大統領、マクロン仏大統領、メルケル元独首相も参加するし、参加者はさらに増えるはず」でした。実際には、彼が名前を挙げた人物は全員来日しません。
しかも、岸田総理自らも「弔問外交」を国葬の最大の理由に掲げているため、外務省に設置された「国葬儀準備事務局」は日本が国家承認をしている195カ国、承認していない4地域および80の国際機関に国葬の実施と日程を通知したわけです。
ところが、海外のトップからは「不参加」の声が次々と寄せられています。現時点で参加が確実なのはアメリカのハリス副大統領、インドのモディ首相、オーストラリアのアルバニージー首相、シンガポールのリー・シェンロン首相、ベトナムのフック国家主席といったところ。生前27回も首脳会談を行ったロシアのプーチン大統領もゴルフ仲間のトランプ前大統領も来日しません。
ところで、まったく議論されていませんが、主要国のトップの間では、外国での国葬に参列している余裕がないほど金融危機が迫っているとの認識が急速に高まっているのです。国際的な投資ファンドの間では「前代未聞の大恐慌が間近に迫っている」との見方すら出てきました。たとえば、世界最大のヘッジファンドと目される「ブラックロック」を率いてきたエドワード・ドウド氏曰く「新型コロナウイルスの拡大の陰で見えにくくなっているが、世界経済は破滅の際に追いやられている。各国の中央銀行は景気の下支えのために紙幣の増刷にまっしぐらだが、過去12年間、インフレは拡大する一方で、株価も債権も実体経済から乖離したまま膨れ上がってきている。ドルのインフレは歯止めがなく、アメリカが発行するドル紙幣の15兆ドル分は何ら価値の裏付けはない」。
同氏の見立てに依れば「これから半年ないし1年以内に世界の金融システムは間違いなく崩壊する」とのこと。そうした危機感に苛まれている世界のトップからすれば、いかに自国や自身の生き残り戦略を打ち立てるかが喫緊の課題となっているに違いありません。
日本がそうした最悪の事態を突破できるようなアイデアや具体策を提供できるのであれば、世界のトップはこぞって「国葬参列」の名目で日本に飛んでくるはずです。残念ながら、岸田内閣にはそのような魅力もなく、またそのような可能性も見出せそうにありません。
次号「第312回」もどうぞお楽しみに!
著者:浜田和幸
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