タクシー老舗の事業転換 問われる変化対応力(前)
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大稲グループ(稲員興産(株))
タクシーや不動産、建材販売などを手がける大稲グループ。60年以上の歴史を有するタクシー事業では、先進的な取り組みの導入などグループの主力事業として存在感を発揮してきた。しかしコロナ禍を経てタクシー事業会社を清算。ハイヤー会社へ事業を移管し、より付加価値の高いサービスの強化を打ち出している。ネットワーク形成や新会社設立など布石を打つが、激しく変化する外部環境のなかで対応力を発揮できるか問われる。
タクシー事業会社、70年の歴史に幕
大稲グループの創業家は江戸時代に大分・日田で庄屋を務め、林業や医家を営んでいた家系。大正に入り福岡・筑豊地区で炭鉱業を経営した後、1950年に稲員稔氏が大稲自動車(株)の前身・大丸自動車(株)を設立している。大稲自動車は、急激な業容拡大は図らなかったが、着実に地場タクシー業者としての地歩を固めていった。2代目大蔵氏を経て当代・稲員英一郎氏が入社したのは2001年。創業から50年を経てタクシー市場は成熟し差別化や人材確保が困難な業界になっていた。この時期は規制緩和もあり、既存業者の事業環境は一層厳しくなることが予想された。英一郎氏はタクシー事業の譲渡も検討したとされる。しかし「大稲」支持者の声が耳に入ったことで事業変革に舵を切る。02年にグループのコンサルなどを手がける(株)マネジメント・アイを設立。「子育て応援」「女性目線」「国内外VIP」などの方針を立て04年10月に大稲自動車の取締役会長に就任した。
07年には業界に先駆けて「こどもタクシー」を投入すると、翌年には定額制料金サービスや妊婦対象サービスを開始。09年にはVIP向け高質サービス「クラスA」を開発するなど、独自サービスを投入し差別化を図っていった。「クラスA」ドライバーは「サービス介助士」資格取得や接客研修受講など高いスキルを有するもので、後の「コンシェルジュドライバー」の前身となっていく。
そして、16年にインバウンドやVIP対応専門の別法人・(株)福岡ハイヤーサービスを設立した。行政や地域企業を巻き込んだサービスを開発し18年にはアメリカ・ロサンゼルスの日系リムジン企業との資本提携を締結。アメリカでのサービス開始の足がかりをつかんだ。ところが同年9月、危惧していた大稲自動車の人手不足やコモディティ化の課題が顕在化する。九州運輸局から10日間の事業停止処分を受けたのだ。「疾病・疲労等の恐れのある乗務」や「乗務員台帳の記載事項不備違反」など14件の違反が明るみに出た。
こうしたなかで高付加価値化による差別化を一層加速する。19年に国内主要都市のハイヤーサービス企業5社と「ハイヤー・リムジンネットワーク」を組織し福岡ハイヤーサービスの陣容も倍増させた。さらにそのネットワークにアメリカのグループ企業も加え、アメリカでハイヤーサービスも利用できる体制も同時に整備した。翌年の東京オリンピックなど予想される需要急増に万全の体制を備えた。
ところが20年3月にコロナ禍が発生。東京オリンピックは延期され、タクシー業界は甚大な被害を受けた。5月、大稲自動車が使用していた社屋・車両基地を縮小し福岡ハイヤーサービスの社屋を建設。12月に大稲自動車のサービスを福岡ハイヤーサービスに事業を移管し、今年4月に大稲自動車の会社清算を終えた。
(つづく)
【鹿島 譲二】
<COMPANY INFORMATION>
稲員興産(株)
代 表:稲員 英一郎ほか1名
所在地:福岡市中央区大手門1-9-11
設 立:1964年3月
資本金:1,000万円
売上高:(21/12)2億243万円関連記事
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