NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
今回は6月3日の記事を紹介する。
アジアの時代に躍進しつつあるASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国は、トランプ政権による高関税が発動されるなか、このほど中東・中国との初の首脳会議を5月27日にマレーシアの首都クアラルンプールで開催した。
サウジアラビアなど中東湾岸諸国で構成し、石油資源を基に発展しつつある湾岸協力会議(GCC)と中国も招待し、今後貿易や投資拡大で関係を強化するものとみられる。
トランプ米政権の高関税政策を受け、米国抜きの国際秩序の到来を見据えた動きが加速するとみられる。議長を務めたマレーシア・アンワル首相は『連携を深め、繁栄を実現する。多極化というパートナー網の再構築に成功した』と述べた由。(5月28日付『朝日新聞』)
参加国はASEAN10カ国と中国、サウジ、カタールなどGCC6カ国の有力17国が参加。将来発展するこれらアジア、中東諸国が経済連携枠組みを発足させることで同意したという。
ASEANとGCCは2023年、サウジで初の首脳会議を開催。アンワル首相はASEANとGCCの自由貿易協定を提唱した。4月には中国の習近平国家主席をクアラルンプールに迎え、地域横断の経済連携枠組みの発足につなげた。
GCCは中東湾岸諸国のサウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン、カタール、バーレーン、クウェートで構成されている。GCCと中国、ASEANを合わせると世界のGDPの4分の1、域内人口は21億人に達する巨大市場となる。
今後これらの国で「米国抜き」で連携し、貿易や投資を促進し、製品供給網の強化がさらに進むと思われる。
わが日本としても、その動向に十分留意することがトランプ高関税策対応のためのグローバルマーケティング戦略上も肝要であろう。
ASEANと中国・GCCの貿易額は対米国の2倍に達する。GCCの人口は5,760万人。GDP2.1兆ドル。中国の人口14億1,000万人。GDP17.8兆ドル、ASEANは人口6億7,000万人、GDP3.7兆ドル。
これに対し、米国は人口3億3,000万人、GDP27.7兆ドル。ASEANのGCCおよび中国向け輸出は9,439億ドル。これに対し米国向けは半分の4,727億ドルだ。
ASEAN諸国はトランプ関税緩和のために中国、中東への接近を強化しつつある。このままでは日本のASEANに対する影響力低下の恐れがある、日本の対応策が望まれる。
<プロフィール>
中川十郎(なかがわ・ じゅうろう)
鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)。