2024年12月22日( 日 )

スマート農業の発展により、100年続く持続可能な農業を実現(後)

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AGRIST(株)
代表取締役CTO 秦 裕貴 氏

 宮崎県児湯郡新富町に拠点を置き、「100年先も続く持続可能な農業を実現する」をビジョンに掲げるAGRIST(株)。農業とIoTを融合させ、農業における人材不足や高齢化などの問題を解決するために農業用ロボットを利用した研究を重ねている。同社の創業メンバーである代表取締役CTO・秦裕貴氏に話を聞いた。

農業用ロボット導入で課題解決を促進

 ──農業用ロボット「L(エル)」はどのような特徴があるのでしょうか。

 秦 このロボットは、ビニールハウスに張られているワイヤーに沿ってロープウェイのように移動し、機体に搭載された複数のカメラでピーマンを識別し収穫するという作業を行います。収穫物約2~3kg分を機体の収穫ボックスに貯めることができ、いっぱいになったら自動的に畝端にあるコンテナへ放出する仕組みです。ロボットは1分間に1個のピーマンを収穫することが可能で、1日8時間稼働させると、年間約3~4t程度のピーマンを収穫できます(※ピーマンの生育状況によって増減)。

ピーマン収穫ロボット「L」収穫の様子
ピーマン収穫ロボット「L」収穫の様子

    もし農業用ロボットが恒常的に利用されるようになれば、多くの問題が解決できます。農業における人手不足は顕著な問題です。新たに人を雇うにしても、一人前の農業従事者となるまでには期間を要します。また、農業には閑散期も存在していますが、その期間も雇用する労働者の仕事をなくすわけにはいかず、費用がかさんでしまいます。

 しかしロボットであれば、導入直後から一定のパフォーマンスが期待でき、また時間に縛られず夜間でも稼働できるため人件費の削減も可能です。さらにAIを駆使した技術により、農作物の異変にも早急に対応できるのも強みとなっています。

 現在当社で開発を行っている「L」およびロボットに最適化されたビニールハウスは、21年10月にAGRISTから立ち上げた「農業法人AGRIST FARM」で実験的に使用しています。この農場は、もともと2aの試験農地からスタートし、現在は約20aまで拡大しており、ここで実際に収穫ロボットを活用した農業に取り組んでいます。アフターサポートなどを万全にできる体制を整えるため、商品としてのリース開始時期は調整中ですが、商品化に至れば、農業への新規参入の後押しになると考えています。

 農業の世界では実績がすべてです。当社の「ロボット×農業」の技術を安心して利用してもらえるよう、ロボットを活用した農業について自ら生産者として実践し、実績をつくっていきます。

 ──農業の抱える課題を解決したいという想いを強く感じます。主な課題は何だと考えていますか。

 秦 繰り返しになりますが、やはり人材不足は喫緊の課題です。募集をかけてもなかなか採用できない。私が19年に新富町に赴いた際にも、「これから先農業を続けていきたくても人の課題があり続けることができない」といった農業従事者の悲痛な思いを耳にしていました。ほかにも肥料やビニールハウス内の温度を上げるために使用する重油の値段など諸経費が高騰していること、および農作物の値段がそれらに比例していかないことなども課題として挙げられます。

 当社の目標でもある100年先も続く持続可能な農業を実現するには、この状況に何かしらの変革をもたらさなければならないと考えています。しかし、農業は一般的に1年間を通して行う事業であり、対象が植物なのでやり直しがききません。加えて、多くの生産者が個人事業主なので、リスク許容度が低く、既存のやり方を大きく変えるようなチャレンジをしにくい構造だと思います。この構造自体も農業の抱える課題の1つだと感じています。農業における課題について把握はできても、解決に向けて挑戦するにはリスクが大きく、状況がなかなか改善されずにいるというのが現状であると思います。

アグリテックの可能性 持続可能な農業をつくる

 ──貴社の将来展望についてお聞かせください。

 秦 近年は、農業系の営農指導者やビニールハウスのメーカーの方から協業のお声がけをいただくことが増えました。農業界の方はみな、農業の将来について危機感を感じています。私たちの設立当初の目的は「農業ロボットの販売」だったのですが、現在は「農業ロボットを使用して農業の効率を上げていく」ことにシフトしています。

 前述の通り、農業は変化のアクションを起こしにくい構造なので、我々のようなスタートアップ企業がリスクを取って変化のきっかけをつくれる可能性があると感じています。農業は人が食べるものをつくる必要不可欠な仕事です。持続可能ではなくなってきている現状をそのままにして、淘汰されていいようなものではありません。ロボットを使った農業で儲かる実績をつくることで、儲からないイメージのある農業を儲かる魅力的な仕事に変えていきたいと思っています。

 そのために、まずは自社でしっかりとピーマン生産者としての実績を出し、自社農場を拡大していきます。当社では現在、農場管理者の採用に力を入れています。農場管理者といっても、ただ農場で栽培をするのではなく「半農半X(半分農業、半分別のスキル=Xをもつ)」の人材を募集しています。農業にはまだまだ改善できる余白が多く残されていると感じており、今まで別の業界で培った経験を生かせる機会が多くあります。実際に当社で今農場管理をしている社員は、もともとプラント制御のソフトウェアエンジニアでした。エンジニアの経験を基に、栽培においても栽培管理システムを自作したり、さまざまな仮説検証を行ったりとスキルを生かして活躍しています。

 当社は新富町のこゆ財団から発足した「新富アグリバレー」に拠点を置き、「100年先も続く持続可能な農業を実現する」ために多くの農業系ベンチャーや地域の生産者、行政と協力したり、自社農場でテクノロジーを活用した営農を行ったりと日々アグリテックの促進を行っています。スマート農業の発展が、地域からひいては日本全体の発展へと結びついていくことに期待しています。

(了)

【立野 夏海】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:秦  裕貴(CTO)
    齋藤 潤一(CEO)
所在地:宮崎県児湯郡新富町富田東1-47-1
設 立:2019年10月
資本金:3億円
URL:https://agrist.com


<プロフィール>
秦 裕貴
(はた・ひろき)
1993年、福岡県福津市生まれ。北九州工業高等専門学校を卒業。ロボット研究などを手がける傍ら、農業に興味をもつ。19年に「こゆ財団」の齋藤潤一氏に出会い、AGRIST(株)を設立。22年4月、代表取締役CTOに就任した。

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