日本の近未来は暗いか、明るいか?今こそ現実を見て未来へ(前)
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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏
アメリカでは未来研究が学問として定着している。ハワイ大学を筆頭に未来研究施設が歴史を重ねており、世界未来学会も活発に啓蒙活動を展開中である。国防総省やCIAなどでも専門家が集められ、「世界のトレンド分析:2030年への選択肢」と銘打った報告書もまとめられているほどだ。
加速するIT、AIの研究開発
いうまでもなく、ITやAIの研究開発のスピードは加速する一方である。ビジネス面での応用はもちろん軍事面での応用にも拍車がかかっている。アマゾンではあらゆる商品を注文から30分以内にドローンで宅配する実験を行っているが、ウクライナ戦争に直面し、こうした技術を戦場でも活用しようとする動きもあるため、Googleでは軍事応用研究に反対する社員たちが反旗を翻すことになった。
その一方で、サウジアラビアではAIロボットに世界で初めて市民権が与えられ、アメリカではロボットが正式に弁護士資格を取得し、中国ではロボット記者が活躍している。まさに人間が人工知能ロボットに凌駕される「シンギュラリティの時代」の到来を予感させるばかりだ。
アメリカから中国へ 覇権の行方
2030年まで、あと7年。どんな世界になっているのだろうか。経済力では中国がアメリカを抜き去るとの予測がもっぱらだ。そうなれば、軍事力や政治力の面でも中国が世界を牛耳ることになるかもしれない。北朝鮮の暴走を防ぐにも、アメリカは中国の力を借りざるを得ないのが現状である。アメリカの一極支配は終わりを迎えている。人口という武器は市場という最終兵器を構成するからだ。世界最大の人口大国・中国は同じく人口の大きさで肩を並べるインドとの国境紛争を乗り越え、両国は戦略的関係を強化しつつある。
「中国の夢」と称する「一帯一路」計画はインド、ロシア、中央アジアはいうにおよばず、アラブ中東からヨーロッパ、アフリカをもカバーする巨大な「中華経済圏」構想に他ならない。ロシアが進める「ユーラシア構想」と一体化すれば、アメリカ一極支配の時代はより早く終わりを迎えることになるだろう。
現在進行中の米中間の通商面での対立は台湾有事にまで発展する危険性を秘めている。どちらに軍配が上がるのか。アメリカから中国に覇権が移行することになるのか。2030年の世界を占ううえで注目すべき動きは枚挙にいとまがない。日本の近未来にとっても、こうした世界の動きを正確に把握することが欠かせない。
アルビン・トフラーのフューチャー・ショック
ところで、世界の未来研究をリードしてきた存在といえば、故アルビン・トフラー博士である。80歳を過ぎても、ロサンゼルスを本拠に地球を隈なく飛び歩く行動派であったが、16年冥界に旅立った。しかし、今でも彼と交わした未来への思いのこもった言葉の数々は忘れられない。
若いころからアメリカの自動車メーカーGMの工場でベルトコンベアーの流れ作業を体験したり、偵察衛星の盗聴器を自分で組み立てたり、崩壊直後のソ連に出かけたかと思えば、経済の改革開放に歩み出した中国に足を踏み入れるといった具合で、知的好奇心と実証的な探求心の塊であった。日本政界の奥の院にもアプローチをかけるといった裏技にも長けていた。
とくに1970年に発表された『未来の衝撃』は彼の名前を世界に知らしめるうえで最も大きな影響をもたらした作品といえよう。オリジナルのタイトルである「フューチャー・ショック」という言葉はたちまち世界的な流行語となった。異文化との出会いがもたらす「カルチャー・ショック」という言葉はそれ以前からあったが、未来との出会いを想像させる「フューチャー・ショック」という造語は、多くの読者の心を一瞬にしてわしづかみにした。今では、「個人、集団あるいは社会全体が変化の波に飲まれたときに経験する方向感覚の喪失、混乱、意思決定機能の停止」を定義する用語として広く定着している。
トフラー氏は『未来の衝撃』に次いで、『第三の波』と『パワーシフト』を相次いで世に問う。それぞれ独立した著作だが、3冊は一貫した内容をもち、トフラー氏が追求する「変化論」の三部作を形成している。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』。関連キーワード
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