日本の近未来は暗いか、明るいか?今こそ現実を見て未来へ(中)
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国際未来科学研究所代表 浜田 和幸 氏
アメリカでは未来研究が学問として定着している。ハワイ大学を筆頭に未来研究施設が歴史を重ねており、世界未来学会も活発に啓蒙活動を展開中である。国防総省やCIAなどでも専門家が集められ、「世界のトレンド分析:2030年への選択肢」と銘打った報告書もまとめられているほどだ。
変化、方向、主体 一時性の時代
アルビン・トフラー氏の言葉を借りれば、「中心テーマは変化」である。すなわち、社会が急激に予想もしなかった新しい姿に変容するときに人々に何が起きるのか。『未来の衝撃』は変化のプロセス、つまり変化が人々や組織にどのような影響を与えるかに焦点をあてたもの。『第三の波』の主題は変化の方向性であり、今日の変化が人々をどこに連れていくかにスポットをあてている。また、『パワーシフト』では、今後起こり得る変化のコントロールについて、言い換えれば、誰がどうやって変化を形成するかを扱っている。
同氏の三部作は変化そのものの実態と、変化がもたらす多くの課題や問題を綿密に分析しているだけでなく、未来への希望に満ちた内容にもなっている。トフラー氏は「核家族の崩壊、遺伝子革命、使い捨て社会、教育の重要性、社会やビジネスにおける知識の重要性拡大」を見事に予測していた。
とくに注目すべきは「一時性」という価値観である。急速に変化する情報化社会ではモノに対してのみならず人間関係においても、そうした傾向が増大するのが未来社会の特徴だと看破。「この一時性の連続によって、すべての分野において“使い捨て”傾向が加速する」との指摘にはうなずかされる。結婚しかり、家族しかり、はたまた職場や生活の場所、そして身の回りのあらゆる商品にも当てはまるというわけだ。
それらがもたらすストレスの増加は人間に肉体的、精神的苦痛をもたらし、社会の不安定化を促す。こうした変化を乗り越えるには経済的対策では不十分であり、社会学、心理学、医学、生物学など関連領域を総動員する必要があることにも言及する。さらには、政治や国家という概念でさえ、諸般の事情に精通するようになった個人の意識の高まりと、果てしないほどの情報技術の発展によってもたらされる「非大量化」の波に晒されるだろう、とトフラー氏は考えていた。
自身が確信する独創性 先の先を読む
さて、1970年代に一世を風靡した『未来の衝撃』は大ベストセラーとなり、全世界で3,000万部も売れたという。そのなかで提唱されていた「社会的未来主義」には筆者自身も大いに感銘を受けた。2023年の今、改めて読み返しても、その発想の斬新さと先見性のすばらしさには驚かされる。
彼との対話で最も印象に残っている言葉がある。「今から振り返ると、いくら当時ベストと言われていた頭脳を集めても所詮“寄せ集め”に過ぎなかった。他人の頭脳に頼るのではなく、自分が確信する独創性をもっと突き詰めて発展させていくべきだったという気がしてならない」と心情を吐露してくれた。
個人でも組織でも先を読むだけでは足らず、「先の先を読む」必要が常にあるわけだ。要は、情報といっても、「未来に生きる情報」と「過去を確認する情報」とを区別しなくてはならない。そんな時代の流れのなかで、情報の意味をチェックしなければ、21世紀の情報戦士にはなれない。そのことを改めて再確認させてくれるのが『未来の衝撃』である。
未来を想像して決断する指導者を
2011年の「3.11」東日本大震災を受け、原子力の安全神話が崩壊したにもかかわらず、脱原発に踏み出せない日本のエネルギー政策。メタンハイドレートのようなクリーンなエネルギー源が日本沿岸に大量に眠っているにもかかわらず、既存の原発や輸入天然ガスから脱却できない。
朝鮮半島の非核化や南北朝鮮の融和・統一に向けての外交的努力をせず、高額なアメリカ製のミサイル防衛システムを買い増し、アメリカの要求する「アジア版NATO」に進もうとする日本の防衛政策。
2060年には人口が半減し、税収も大幅に落ち込む見通しが明らかになっていても、大盤振る舞いの予算編成に走る日本の国会。このままでは「未来から取り残される」という運命になりかねない。
今こそ、我が国のみならず世界全体として「未来の衝撃」に直面しているとの危機感を共有し、新たな社会的価値観と秩序の創造に立ち上がる時であろう。未来学の真髄とは、「目標とする未来を具体的に想像でき、そこから今何をなすべきかを決断すること」。そんな未来学的発想をもつ指導者が求められている。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』『世界のトップを操る“ディープレディ”たち!』。関連キーワード
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