2024年12月22日( 日 )

千年を超えて継承されてきた筥崎宮放生会

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生き物を野に放ち、殺生を戒める

 猛暑の日々が終わりを告げ、ようやく心地良い風の流れを感じられる気配の9月中旬、12日から18日にかけて、福岡市東区の筥崎宮で毎年開催されるのが、筥崎宮放生会(ほうじょうや)だ。放生会という祭り自体は全国各地で行われているもので、日本の伝統行事の1つに数えられる。

 始まったのは西暦677年といわれており、日本書紀に天武天皇が諸国へ詔を下して放生を行わせたと記録されている。そして、その源流は遠くインドへとつながる。釈迦の前世といわれる流水長者(るすいちょうじゃ)が、干上がった池で苦しむ多くの魚を助けたことが起源とされている。その後、中国天台宗の開祖が魚を池に放したことが放生会の原形となり、やがて我が国に伝わったという。

 これらの話からわかる通り、放生とは生き物を野に放すことを指す。ゆえに放生会は捕らえられた魚や鳥などを野に放し、殺生を戒めるための行事とされ、期間中に行われる供養祈願祭では、やむを得ず殺生した生き物や死んでしまったペットなどの供養と、商売繁盛、家内安全が祈願される。

福岡都市圏全体、活況を反映する祭り

 筥崎宮放生会もその歴史は長く、始まりは919年だというから、すでに千年を超えて続いてきたことになる。祭りではさまざまな神事や神賑わい行事が行われるほか、2年に一度は御神幸が行われる。境内の広さも手伝ってその規模は西日本一を誇り、春の博多どんたく、夏の博多祇園山笠と並ぶ、博多三大祭りの1つだ。筥崎宮にとって最も重要な神事であることはもちろん、その盛り上がりは筥崎宮のみならず博多の街、いや福岡都市圏全体の活況を反映している。

3年ぶりに参道に露店が並んだ22年の放生会

    参道にずらりと並ぶ露店は圧巻で、老若男女、誰もがこの光景に胸踊らせることだろう。まさに日本の原風景だといえる。2020年と21年はコロナ禍のため取り止めとなっていたが、22年は待ちに待った再開をはたし、例年の1.5倍の人出があったという。参拝者は、あの長い参道を埋め尽くす人波に圧倒されたと同時に、筥崎宮放生会がいかに多くの人々に愛されてきた祭りであるかを、改めて実感したことだろう。

筥崎宮境内には、国指定重要文化財が4つ

 さて、ここで筥崎宮そのものについて少し紹介しておこう。放生会で境内を訪れるなら、豆知識として仕入れておけば、さらに筥崎宮を楽しめるだろう。

 筥崎宮は筥崎八幡宮とも称し、宇佐(大分)、石清水(京都)両宮とともに日本三大八幡宮に数えられ、境内には4つの国指定重要文化財がある。

 まずは本殿と拝殿。境内で最も存在感があり、悠久の歴史を彷彿させる佇まいが美しい。921年に大宰少弐藤原真材朝臣が神殿を造営し、995年に大宰大弐藤原有国が回廊を造営したという。残念なことに元寇の戦火、兵乱などにより幾度かの興廃を経て、現存する建物は1546年に大宰大弐大内義隆によって再建されたものだ。

国指定重要文化財楼門
国指定重要文化財楼門

    そして楼門であるが、1594年に筑前領主小早川隆景が建立し、「敵国降伏」の扁額を掲げていることから「伏敵門」とも呼ばれる。注目すべきは扉の太閤桐の紋様彫刻。江戸時代に活躍した伝説の名匠、左甚五郎の手によるものだというから、これは一見に値する。

一之鳥居 奧は楼門
一之鳥居 奧は楼門

    本殿から数えて一之鳥居、二之鳥居と呼ばれる本宮の鳥居も筥崎宮を象徴する建造物だが、これも歴史を感じさせる存在だ。一之鳥居は1609年に筑前国福岡藩初代藩主の黒田長政が建立したことから、特別に筥崎鳥居という名でも呼ばれている。

 最後に、千利休奉納石灯篭。1587年に太閤秀吉が九州平定した後、ここに滞陣して博多町割りを行ったことはよく知られる史実だが、その際に催された箱崎茶会に随行した千利休が奉納したと伝えられている。

 九州において、このように歴史の偉人たちの遺産を身近に感じられる場所は、そう多くない。筥崎宮放生会の期間中は祭りを楽しむだけでも十分だが、こうした重要文化財を間近に触れることも楽しみ方の1つだ。なお余談だが、ほかの地域では放生会は「ほうじょうえ」と呼ばれる。しかし、なぜか博多では「ほうじょうや」と呼ばれ、人々に秋の風物詩として親しまれてきた。これも筥崎宮放生会の特色の1つと言っていいだろう。

【天野 祐次】

筥崎宮露店保存会 ≫

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