2024年12月23日( 月 )

カジノ賭博で大散財した井川大王製紙元会長 YouTubeで活動再開(中)

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 カジノ賭博で106億8,000万円を熔かした大王製紙元会長・井川意高氏が2023年7月からYouTubeチャンネルを開始した。タイトルは「井川意高が熔ける日本を斬る」。政治経済、経営、グルメ、恋愛などについて独自の視点で語っている。有料メンバーになると、月2回のニコ生(有料チャンネル)ライブ配信の有料部分をすべて見られる。登録者数は約13万7,000人。

麻布・六本木の魔窟に入り浸る

 専制君主である父とは対照的に、プリンスは物腰柔らかく、部下の意見にも耳を傾けると評されていた。だが、役員も幹部も顔色をうかがうのは高雄氏であって、井川氏は社長の肩書きがついてもボンボンの御曹司でしかなかった。中興の祖と畏怖されてきた父親の影響力から抜け出せるのは夜の世界である。東京・八重洲の東京本社と目と鼻の先にある銀座を避け、気楽に遊べる六本木や麻布に足を運んだ。

 麻布の深夜の高級クラブ。シャンパンがなみなみと注がれたグラスの下にはコースター代わりに1万円が10枚置かれる。ホステスが飲み干せば、全額が懐に入る。「意高コースター」と呼ばれる余興だ。ホステスが目の色を変えてグラスを空にする光景を井川は笑みをたやさず楽しんでいたという。

 麻布・六本木は、日本で最も蠱惑的な魔窟である。芸能界の美女たちが蝟集する桃源郷だ。大物女性タレントや女性モデル、グラビアアイドルとの親密交際が芸能週刊誌を賑わした。クラブには会員制のくつろげる空間があり、VIPルームでは優越感を味わえる。裏カジノやクスリという刺激もあった。井川氏は、魔窟に迷い込み溺れていった。

マカオ、シンガポールのカジノにはまる

バカラ イメージ    井川氏をカジノ遊びに導いたのは、六本木でクラブを経営している元俳優とされる。井川氏はその世界で「カネ払いのいい客」として知られるようになる。それでも、国内でのカジノ遊びはほどほどだったが、裏カジノ人脈の誘いもあって、海外カジノで派手に遊ぶようになった。当初は米ラスベガスに顔を出していたが、子会社からの借り入れが始まるころにマカオによく行くようになった。11年に入ってからは、マカオより高額レートで勝負ができるシンガポールに足を延ばした。

 大金が動くカジノのギャンブルといえばバカラだ。バカラはトランプを使ってバンカー(店側)とプレーヤー(客側)のどちらかが勝利するかに賭けるゲーム。配られた2枚または30枚のカードの合計点の1桁目の数が9に最も近い者を勝ちとする。

 カジノ側は大金を投じる客をハイローラーと呼び、1回の勝負で数千万円をつぎ込む客に専用のVIP(重要人物)ルームを用意している。井川氏は、一晩で5億円も消費したこともあったという。カジノとは「買って1億円、負けて1億円」の世界なのだ。

売り家と唐様で書く三代目

 創業家御曹司のバカラ賭博事件以降、創業家の影響力排除を目指す経営陣と創業家の井川一族との対立が続いていたが、12年に事態が一気に動いた。

 創業家と経営陣の間に入って、仲介の労を取ったのが、北越紀州製紙(現・北越コーポレーション)社長・岸本哲夫氏である。王子製紙による株式公開買い付けの際に安定株主となってくれた大王製紙には恩義を感じていたことを語っている。

 北越製紙(当時)は06年8月、業界首位の王子製紙から敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けられた際、創業家が支配していた大王製紙がホワイトナイトとして救いの手を差し延べた。大王と北越が2~3%ずつ株式を持ち合う資本提携を結んで「反王子」の立場で支援した。このときの恩義に報いるために仲介を買って出た。

 当事者同士の交渉は、感情的対立からまとまる話もまとまらない。そこで第三者の北越が入り、創業家がもつ大王本体とグループ企業の株式を買い取る。大王本体の株式は北越が保有し、グループ企業の株式は大王に譲渡することで交渉をまとめた。

 創業家側は、株式の売却代金(100億円)を原資に、大王子会社からの借金とカジノの未清算金の弁済に充てた。父親である高雄氏が、不肖の息子がつくった莫大な借金を尻拭いしたわけだ。その結果、すべての株式を処分して、創業家は3代にわたり支配してきた大王製紙を失った。

 井川氏はまさに「売り家と唐様で書く三代目」、そのままであった。

出所後、まずやったことは韓国カジノでのバカラ賭博

 井川氏は、あれほど世間の批判にさらされ、痛い目にあったのに、“ギャンブル狂”が治ったわけではない。
 井川氏が著した『熔ける 再び』によると、刑期満了から8カ月後の18年6月、井川氏はすぐに韓国・ソウルのカジノホテル「パラダイスカジノ・ウォーカーヒル」に繰り出す。現金3,000万円をカバンに詰め込み、東京からソウルへ持ち出した。

 〈一張りの金額を上限ギリギリまで設定してバカラで戦い続けた。3,000万円の種銭は1億円を超え、2億円を超え、10倍に膨らんで3億円を超えた。4日間にわたる攻防戦を終えたとき、目の前のチップは9億円分積み上がっていた〉

 ボロ儲けしたから、これで手仕舞いにしようとは考えないのが、バクチ打ちの業だ。果てしなき刺激とスリルを求め、破滅願望に突き動かされながらひたすらバカラを続けた。

 〈運の揺らぎは、テーブルの上をビー玉がスーツと転がるように、右へ左へたゆたっていた。そして破滅の時は来た。9億円まで増殖したチップは、とうとうゼロになってしまったのだ〉

 井川氏は、とびきりのギャンブラーなのだ。

(つづく)

【森村 和男】

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