母親たちの苦悩と存在しない子供たち
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※この記事は映画「市子」のネタバレにつながってしまう内容ですので、同映画を鑑賞予定のかたはご注意ください。
子どもの父親は誰なのか。現行民法772条では、婚姻中、または婚姻の成立から200日後に妻が妊娠した場合、胎内に宿った子どもの父親は現夫。離婚後300日以内であれば、前夫の子どもと推定する。いわゆる嫡出推定制度だ。
DV(家庭内暴力)やモラハラ(精神的DV)を理由に離婚した女性が、新しいパートナーとの間に子どもを授かった場合、それが離婚後300日以内であれば、出生届の父の欄には前夫の名前を記載することになる。この子を前夫の子どもにしたくない。その思いが母親たちに出生届をためらわせる。
結果として、法的に存在しない無戸籍の子どもたちが誕生してしまう。法務省によれば、2020年9月末時点で同省が把握できていた無戸籍者の合計人数は3,235人。この数字はあくまで国が把握できた人数であり、一部では1万人は下らないという声もある。“存在しない子どもたち”は、戸籍謄本がないため銀行口座やマイナンバーカードといった、就業、通院など日常生活を送るうえで必要なものをつくれない。確かにここで生きているのに、自分はここにいるという存在証明ができないのだ。
こうした状況を受け、22年12月、嫡出推定制度を見直す民法改正案が参院本会議で可決・成立した。これまで女性は離婚後100日間再婚禁止とされていたが(それ以前は半年間再婚禁止だった)、これも廃止される。施行は24年4月1日から。DNA検査も、女性のセカンドチャンス拡大という理念も、現行民法の前では意味をなさず、母親たちの取れる選択肢は限定的だった。改正民法の施行が、そんな母親たちやこれから生まれてくる子どもたちにとって、福音となることを期待したい。
今回この件について触れようと思い立ったのは、映画「市子」を鑑賞し、少なからず心を動かされからだ。同棲中の彼に婚姻届とともにプロポーズの言葉をもらった市子は、大粒の涙を流す。しかし、市子はその翌日彼の前から姿を消してしまう。市子の行方を彼と一緒に追うなかで、観客も市子の生い立ちを知ることになり、市子が彼からのプロポーズを受けて涙を流した意味を理解する。
無戸籍という、法的に存在しない人(市子)は、気付いていないだけで、わたしたちの側に存在しているのだ。
【代 源太朗】
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