「課題先進国ニホン」が今考える2030年のビジネス(前)
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技術経営コンサルタント
亀井 淳史 氏日本のデジタル赤字が拡大しているが、これは海外のITベンダーへの依存度が高いためであり、これからさらに増大していく。今後一層拡大するデジタル市場で日本はどう活路を見出すのか。一方、地方バス事業など公益事業のほとんどは人口減少化で採算が取れず存続すら危ぶまれ、「課題先進国ニホン」はいよいよ現実化してきた。だが、ここにきて公益事業など社会システムをITでプラットフォーム化する動きも現れており、この動きは国内のみならず新興アジア圏でも大きなニーズを生むと見込まれる。日本発のプラットフォームビジネスの創出が期待される。
拡大するデジタル赤字
日本のデジタル赤字が拡大している。
これは我々が日常的にiPhoneやAndroid携帯で電話し、WindowsやMacのPCを使い、Googleの検索やマップを仕事や生活の必需品としている当然の結果であるが、ここ最近は多くの企業が海外ITベンダーのクラウドサービスの利用を拡大させていることが大きく寄与している。さらに皆さんのマイナンバーを預かる政府のガバメントクラウドまで海外ベンダーに依存しており、さすがにそれはまずいのではないかと2021年11月10日の衆議院でも事態を問題視する質問がなされたものの、他に為す術がなく、すでに日本は官民あげて米IT企業頼みになってしまった。
筆者は今からでも日本のIT基幹となるネットワーク・サーバーを構築し、政府から独立した公共事業体としてデータを厳格に管理、運用していく組織体制をつくるべきだと考えている。データは資源であり資産であるからだ。海外のIT企業に過度に依存し過ぎていることをリスクだと考えている国も少なくない。
残念ながら日本のデジタル赤字はまだまだ拡大していく。経産省はコンピュータサービスの貿易赤字が30年には8兆円に拡大すると予測している。
これからもデジタル赤字が兆円単位で拡大していくことは由々しき重大問題であるが、この急拡大するIT市場で日本が新たなデジタル産業を創出できなかった損失こそがより重篤である。
思い起こせば政府は01年、e-Japanという戦略を掲げ、5年以内に世界最先端のIT立国を目指すこと、また電子政府の実現も計画していた。さらにその12年後の13年のアベノミクス第三の矢“成長戦略”でも「世界最高水準のIT社会の実現」が掲げられていたが、10年経過した現在では、米IT大手にあっさり席巻されてしまっている。
このようにビジネスモデルがいったん社会に定着し、産業構造が巨大なものになってしまうと、それを覆すことはほぼ不可能に近い。しかも先頭集団にはアメリカだけではなく、中国や新興インドのIT頭脳集団も加わる。このままでは日本発グローバルIT企業の創出は厳しい。
これから考えるべきこと
ではどうするのか。矛盾するようだが、これからの日本がやるべきことはデジタル化(DX)だけでは解決できないことを解決することではないかと考えている。そして、その解決策が新たな事業を生み、産業化できるのではないかと期待している。
地方のバス事業を例にして考えてみたい。
(公社)日本バス協会発行の「2022年度版日本のバス事業」によると、乗合バス事業者は全国に2,337社あり、20年度の営業収入は5,759億円で、ほぼ全事業者が赤字であった。20年はコロナ禍の最中であり特異値としても、それ以前の18年は71.2%、19年は72.3%が赤字であり、人口減により営業収入は減少し、赤字事業者は増加の一途をたどっていた。
コロナ明けの移動増やインバウンドによる増客の期待もあるが、コロナ以前の状況に戻ることは難しく、収入の減少傾向は続くと考えられる。事業収入が2~3億円規模まで小さくなっては、個社単位での経営効率化に関してできることは限られてくる。
バス事業者が全国で2,000社を超え地域ごとに細分化されているというのは、事業者の収益面だけではなくユーザーにとっても不都合なことも多い。乗り方・降り方から運賃の支払い方法、地域ICカードまで事業者ごとに違う。この違いはバス車体の仕様にも現れており、ボディカラーはもちろん、行先表示や車内の案内表示、シートの柄まで多様であり、バスメーカーは納入先に応じて個別に対応し、バス事業者のなかには購入車両を自社の仕様に改造するところもある。全体として考えてみれば不合理なことだらけだ。
しかしここにきて変化の兆しもある。クレジットカードのタッチ決済での運賃支払いである。交通系ICカードはすでに多くの人が使用しているが、発行開始から20年経過してもなおICカードが利用できない、いわゆる「空白地域」も依然として多い。しかも事業者ごとに清算できるエリアが限られていて、全国につながっているわけではない。
これに対し、クレジットカードのタッチ決済は一昨年の各地での実証実験を経て昨年から利用可能エリアが広がっている【図2】。
料金支払いが共通化されれば地域外からの来訪者やインバウンドの訪日外国人にとって利便性は大きく向上する。さらに将来高速バスにも波及すれば全国がつながることになる。これは事業者が料金システムをアウトソーシングできるプラットフォームに発展する可能性は大きい。
さらにこれをきっかけに、経営の効率化を図る事業者が事業地域を越えて共通のプラットフォームで連携できる仕組みに発展することも考えられる。バス事業のためのプラットフォームである。料金の課金集計業務に始まり、今後必須となるバスロケーションサービス、バス停の表示システム、さらにバス事業者の経営情報システムとなるERPなど、かなりのデータシステムの共通化とそのクラウド化によるプラットフォーム構築が実現できる。
このように同業者が地域を越えて共通のデータプラットフォームを構築することで経営効率を高め、新たな付加価値を創出していく動きは他業種ではすでに始まっている。地方都市ガスの中堅会社がサービス地域を越えて集まり、共通のデータプラットフォームを運営する会社を立ち上げているのだ【図3】。プラットフォームでビッグデータを効率的に利活用できるようにし、各社は独自の新しいサービスの開発や営業改革に経営資源を投入することができる。新たな競争力と付加価値を生み出すプラットフォームである。
バス事業も同じだ。データをクラウド化するだけではなく、そのプラットフォームに乗るサービスも共有化でき経営効率と利用者の利便性を同時に向上されることができるだろう。
(つづく)
<プロフィール>
亀井 淳史(かめい・あつし)
1955年生、愛知県出身。技術経営コンサルタント。80年千葉大学大学院工学研究科修了。アイシン精機(株)(現・(株)アイシン)にて先端技術企画に従事。(株)テクノバにて新エネルギー国家プロジェクトに参画((株)テクノバは78年設立のエネルギー・先端技術を専門とする技術系シンクタンク)。2011年より(株)テクノバ代表取締役社長。20年より技術経営コンサルタント、名古屋市交通問題調査会委員などを務める。関連記事
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