ローランドDGへの「同意なき買収」 ブラザー工業が断念(前)
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「桃栗三年、柿八年」ということわざがある。芽が出て実がなるまでに、桃と栗は三年、柿は八年かかる。何事も成し遂げるまでには、相応の年月が必要だということ。M&A(企業の合併・買収)にも、これが当てはまる。「急いては、事を仕損じる」ことになる。
ローランドDGのMBOが成立、上場廃止へ
業務用プリンター市場で世界1位、ローランド ディー.ジー.(以下、ローランドDG、静岡県浜松市、田部耕平代表、東証プライム)は5月16日、大株主の米ファンド、タイヨウ・パシフィック・パートナーズ(以下、タイヨウ)の支援により実施したTOB(株式公開買い付け)を通じたMBO(経営陣も参加する買収)が成立したと発表した。臨時株主総会などを経て、上場廃止となる見込み。
15日の買い付け期間中に、発行済み株式総数のうち75%の応募があった。2月にMBOを発表した際の買い付け価格は1株5,035円だったが、3月にプリンターやファックスなど情報通信機器を手がけるブラザー工業(以下、ブラザー、名古屋市、佐々木一郎代表、東証プライム)が5,200円での買収方針を表明。対抗して5,370円に引き上げた結果、取得総額は660億円と当初想定に比べて約40億円増えた。
ローランドDG=タイヨウ連合は、ブラザーの攻撃を退け勝利した。その攻防劇を振り返ってみよう。
ローランドDGのMBOにブラザーが横やりを入れる
ローランドDGは2月9日、大株主の米ファンド、タイヨウの支援によるMBOを公表した。TOB価格は一株あたり5,035円で買収総額は620億円程度になる。タイヨウは20年からローランドDGの経営にも参画し、現在約19%を保有する筆頭株主だ。
ローランドDGの2023年12月期の連結売上高は前期比7%増の540億円、純利益は1%減の43億円だった。売上高のおよそ4割を占める低溶剤プリンターは市場シェア5割を握る優良企業だ。新たな需要開拓を目指して非公開化するというのが表向きの理由。後述するが、狙いは別にある。
その両者による友好的M&Aに大手を広げて「待った」をかけたのが、ミシンやプリンター製造大手のブラザーだ。3月13日、ブラザーは突如としてMBOの価格を上回る一株5,200円でローランドDGにTOBをかけることを公表した。ブラザーはローランドDGの同意を得ておらず、MBOに対抗するかたちで買収に乗り出す。「同意なき買収」。報道各社は一斉に異例なM&Aを報じた。
ブラザーは稼ぎ頭のプリンターの成長が見込めない
ブラザーが「同意なき買収」に踏み切った背景には、ペーパーレス化で、稼ぎ頭のプリンター製品の成長が見込めない危機感がある。祖業のミシン、プリンターに続く、産業用印刷で生き残りをかける狙いだ。
ブラザーの2024年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高にあたる売上収益は前期比0.9%増の約8,229億円、儲けを示す事業セグメント利益は25.1%増の755億円だった。世界的なミシンメーカーとして知られるブラザーだが、事業領域は幅広い。売上の過半を占めるのは家庭用インクジェットプリンターを中心とするプリンター関連で、24年3月期の売上収益は5,149億円で、全社の62%を占める。
(つづく)
【森村和男】
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