ローランドDGへの「同意なき買収」 ブラザー工業が断念(後)
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「桃栗三年、柿八年」ということわざがある。芽が出て実がなるまでに、桃と栗は三年、柿は八年かかる。何事も成し遂げるまでには、相応の年月が必要だということ。M&A(企業の合併・買収)にも、これが当てはまる。「急いては、事を仕損じる」ことになる。
タイヨウは
ローランドDGを手に入れる三木社長が代表取締役を務める特別目的会社が実施したTOBは成立。ローランドは14年10月に上場廃止となった。それから6年、不採算事業の整理を進め、ローランドは20年12月、東証一部に再上場をはたした。再上場した際の時価総額は798億円と上場廃止直前の1.8倍に増加。足元では1,100億円前後で推移している。出口戦略が効を奏し、タイヨウはぼろ儲けした。
ローランドはMBOに先立ち、ローランドDG株の一部をDGに売却。DGはローランドの連結決算の対象から外れた。ローランドDGの筆頭株主はタイヨウで、グループで約19%保有し、社外取締役やアドバイザーを送ってきた。
YFO=タイヨウがブラザーからの乗っ取りを防ぐ方策として仕掛けたのが、MBOによっていったん非公開化して再上場させるシナリオだ。タイヨウは、ローランドと同じ手法を駆使し、ローランドDGで二匹目のどじょうを狙った。
ローランドDG=タイヨウの
反撃の切り札は「ディスシナジー」ローランドDGのMBO、ブラザーの対抗TOBの攻防では、投資ファンドのタイヨウが前面に出てきた。タイヨウはローランドDGの助っ人で、MBOを仕掛けた指南役だ。ブラザーとの攻防では用心棒として大立ち回りを演じた。
タイヨウのブライアン・ヘイウッドCEO(最高経営責任者)は、日経ビジネス、東洋経済など経済メディアに積極的に登場した。4月26日、タイヨウがTOB価格を5,370円に引き上げることを公表。ローランドDGはMBOに賛同・応募推奨を行うことを改めて表明し、同時に記者会見を開き、「ディスシナジー」の詳細を公表した。ディスシナジーとは、2つの会社が合わさることで、マイナスの効果が生じてしまうことをいう。反撃のカードを切ったのは、いうまでもなく指南役のタイヨウだ。
ローランドDGの反撃に
ブラザーは買収を断念ローランドDGの発表によると、ブラザーが買収した場合、26年12月期の営業利益ベースで50億円もの価値棄毀が生じる。このような損失が発生すれば、100%親会社となるブラザー自身に跳ね返ってくる。どういう意味か。
「東洋経済オンライン」(5月26日付)を引用する。
〈ローランドDGが訴えたディスシナジーとは、印刷機の中核部品に当たるインクジェットへッドの供給に関することだった。同社は使用するヘッドの8割をサプライヤー1社から調達。残りはブラザーと別のサプライヤーからそれぞれ1割ずつ仕入れている。ヘッドの8割を供給しているサプライヤーとブラザーは競合に当たる。ブラザーの傘下に入れば、新製品の開発状況を共有してくれるような現在の関係を維持してもらえず、業績に大きな影響を及ぼす〉
「ディスシナジー」効果でブラザーは一転、窮地に陥った。ディスシナジーが指摘されるなか、TOB価格を引き上げて買収後に減損損失を出せば、自社の株主から取締役の責任を問われかねない。ブラザーは5月9日、TOB価格を上げないと表明し、ローランドDGの買収を断念した。ローランドDGの指南役タイヨウが、ディスシナジーの主張を出し、「自分たちの価格のほうが高い」という価格の戦いにしなかったことが勝因だ。
ブラザーはどうして、ディスシナジーがもたらす深刻なリスクについてさほど問題はないとみなしていたのだろうか。TOB合戦は価格競争で決まると考えて突っ走った。「急いては、事を仕損じる」だ。百戦錬磨のタイヨウ、役者が一枚上だった。
(了)
【森村和男】
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