2024年08月19日( 月 )

【越中国(富山)巡り(2)】能登半島の今昔~青木レポート

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 かつて北陸地方は「越の国」(高志・古志の国)と呼ばれていた。「越の国」は現在の福井県・石川県・富山県・新潟県あたりまでを指す。飛鳥時代から奈良時代にかけて越前、越中、越後、能登に分けられ、平安時代初期にさらに越前から加賀が分割されたようである。そのため富山県は「越中国」と呼ばれるようになった。この「越中国」巡りについて1つの提案を行う(8月の視察を参考にしてまとめた)。

今回の地震で過疎化に拍車?

 能登半島地震が及ぼした被災地への影響に関しては別のレポートにて詳細にお伝えする。半島を一回りしたうえでの「わびしい結論」は、輪島市より北部においては今後、人が住む集落が成立するかどうか怪しいというものである。厳しい表現ではあるが、今回の地震によって過疎化が急激に進むということである。まず何よりも人影がない。残念ながら盆休みによる観光客もまばらなのである。

被災した珠洲の港の様子
被災した珠洲の港の様子

 輪島市、珠洲市の観光案内所と道の駅が併設されているスポットに立ち寄った。昼間の話である。輪島市で昼食をとったのだが、延べ10人のお客さんがいたであろうか?食堂メニューもスタッフも素人の域を脱していない。営業時間は午前10時から午後4時までで、休みの日も多く、週4日の営業だったと記憶する。驚いたのは道の駅と銘打っていながら、商品が皆無なのである。これなら道の駅の看板を閉じたほうが賢明だと思う。

道の駅 すずなり
道の駅 すずなり

    珠洲市は一層ひどかった。人通り・観光客を目にしなかったのである。ちなみに輪島市の人口は震災前の2023年4月時点で約2万3,000人、珠洲市は22年末時点で約1万3,000人だったが、震災後の人口(住民基本台帳月報:24年6月末)は、輪島市が2万1,572人、珠洲市は1万1,763人にまで減少している。

 今回の地震で気がかりなのが若者たちの流出である。能登半島突端にある珠洲岬から周囲を見渡すと海ばかり。南側には富山・新潟両県境にある魚津市らしき場所が展望される。ただただ、荒涼として、寒々しく、虚無感に襲われそうになった。

七尾市の地の利

 能登半島全体が沈滞しているわけではない。地域活性化の最大の要因は何よりも「地の利」であろう。能登半島の玄関口における最大の都市は七尾市で、金沢市、富山市いずれも60km超の距離である。交通の要所であるがゆえに往来が活発となれば、その都市には勢いが生じて人が集まる。若者が集まれば華やいでくる。

 七尾市の人口は震災前の23年末時点で約4万9,000人、本年6月末時点で約4万7,000人で、能登半島における主要都市として中核的な位置を占めている。七尾市の向かいには能登島がある。この島には水族館などの観光インフラが整備されている。交通の便が良いことから観光客の数が多い。対岸には有名な和倉温泉もある。従って(1)観光サービス産業、(2)農林水産業、(3)港湾機能を担う物流産業など多様な産業があることで地場の交易が活発になる。この勢いを能登半島一体に連動させる経済戦略が必要であろう。

昔の能登半島は豊かであった

 能登半島は突出した面積が大きな半島である。この地区は昔から能登国と呼ばれていた。4~5世紀の遺跡から、当時の進んだ生活ぶりがうかがえる品々がたくさん発掘されており、古代から豊かな暮らしを続けてきたことが想像できる。

 鎌倉時代から室町時代には日本国内、とくに日本海側で海運による物流が活発になっていく。古代から中世にかけて日本の中心であった京阪地区へ、各地から物産品が運搬されるルートがひらかれていた。この物流は当然、船便でなされていた。この能登半島には当時をしのぶ無数の港が乱立している。

 荷下ろし・荷詰めが活発で、港を中心とした地域で経済発展がなされてきた。室町時代の能登半島港湾地区でも活気があった港に隣接して集落があったようである。そして江戸時代になって運搬量が格段に増加した。北前船航路が確立されたことで能登半島にある港湾はどこも活況を呈したに違いない。資料を参照されたし。北前船寄港地が9カ所ある。

出所:能登半島 北前船ものがたり

    北海道の名産と酒田(山形県)のコメ運搬からスタートした北前船物流であった。ところが各地区における渡航先の港周辺では地元の名産が多様に生産されるようになった。当然のごとく9カ所の港周辺では、競うかのように名産づくりが活発化した。その面影は半島内の至るところに残されている。江戸時代の能登半島は、北前船効果で意外と豊かな生活を送っていたのではないだろうか!

(つづく)

【青木義彦】

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