東京都知事選小池氏勝利と民主主義の行方 現職知事の公選法違反と無批判なジャーナリズム(後)
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弁護士 小島敏郎 氏
2024年7月に行われた東京都知事選挙は「カイロ大学卒業」の経歴詐称、自作自演の「都内首長による都知事立候補要請劇」、都知事会見の選挙利用、視察名目の選挙活動など、「知事としての地位利用」の数々の公職選挙法違反に加え、マスメディアのジャーナリズム崩壊、政党への信頼喪失などを露呈した選挙であった。強権と「パンとサーカス」の都政を支える法人二税の偏在も含めて、今こそ都政の改革と民主主義の復権が必要である。
※本稿は、24年8月末脱稿の『夏期特集号』の転載記事です。小池百合子氏が東京都知事に初当選したのは2016年7月。小島敏郎氏は翌8月~17年9月まで東京都特別顧問を務め、小池氏の側近として知られた。しかし、24年4月、小島氏は文藝春秋に小池氏を告発する記事を掲載、そして6月には小池氏を公職選挙法違反容疑で東京地検に告発した。
ジャーナリズムの崩壊
ジャーナリズムは、民主主義に不可欠な情報の伝達と、社会正義を実現するための役割を担っている。だが、日本のマスメディアから「社会の木鐸」という言葉が消滅して久しい。今や、新聞社やテレビ局の経営は、明治神宮外苑の新秩父宮ラグビー場建設への読売新聞や日本テレビの参入、築地市場跡地の再開発事業への読売新聞や朝日新聞の参入など不動産業やイベント業で支えられ、不動産屋やイベント会社が新聞を発行し、放送をしている有り様である。
とくに、2024都知事選挙では都庁記者クラブの退廃ぶりを示した。現役知事候補に立ち向かう人々は、自らの情報メディアをつくり出さなければならなかった。
筆者が文藝春秋に掲載したカイロ大学声明疑惑や、カイロでの小池氏のルームメイトの証言も、雑誌ごときの後追いはできないという歪んだ空虚なプライドのためか、ほとんどの大手メディアは無視を決め込み、多くの有権者は「カイロ大学声明」の顛末も、「カイロ大学疑惑」も知らされない状態にあった。
とくに、前述の島田記者は、6月12日の小池知事出馬のぶら下がり会見で、フリーランスの佐藤章氏(朝日新聞OB)が「朝堂院大覚さん・・」と「カイロ大学卒業」の疑惑について質問を投げかけたのに対して小池知事が困惑の表情を見せると、間髪をいれずに島田記者が「どうして勝負服の緑ではないのですか」と割込んで間をつくり、知事をその場から立ち去らせてもいる。
小池都政の強権政治
小池都政の本質は、「カイロ大学卒、それも首席で」という嘘を大手メディアにもてはやされた成功体験にある。それが「パフォーマンスの達人」「ポピュリスト」としての小池百合子氏をつくり出し、他方で、いかなる手段を弄しても「その嘘を暴かれないようにする権力志向」をもたらした。だから先立つ20年の都知事選挙にカイロ大学やエジプト政府という外国勢力を自ら引き込むという「日本の主権侵害」を引き起こし、「排除」「粛清」「首都防衛」という軍事用語、独裁用語が口を突いて出てもくる。
小池氏は、初当選の16年の都知事選挙では挑戦者として、都庁記者クラブのフリーランス記者への開放、都議会のドンによる利権の撤廃などを訴えたが、17年秋の「希望の党」で失速する。これを機に、旧来の都議会のドンと都庁官僚の上に立って都政運営をする旧来の政治に回帰し、税金を食いつぶすタックス・イーターである都の外郭団体の維持・増加、外郭団体や三井不動産らの企業への都庁官僚の天下り、住民への情報公開や説明・対話の拒否など強権政治の度を強めていった。
「パンとサーカス」の小池都政
誰が知事になろうと、東京都では「パンとサーカス」の都政が可能である。これは本社機能が東京に一極集中しているため、法人事業税・法人住民税の地方税税収の4割が東京都の収入となる地方税の仕組みによる。潤沢な財政で、なんでも無償化政策も、世界陸上も、48億円を指名停止の電通の子会社に発注してプロジェクションマッピングもできる。
また、明治天皇と皇太后を偲ぶ神宮外苑を三井不動産のなすがままにさせ、日本を俯瞰した計画もなく高層ビル建設ラッシュを放置してさらに東京一極集中の弊害を拡大しようとする。日本人の心はどこに行ってしまったのか。「東京だけ良ければいい」という都政を改め、日本を浮揚させる「大きな政治」が不可欠である。
改革は「政治の仕組み」の民主主義化である
政治改革、行財政改革などは政策立案・遂行の仕組みを民主主義的にすることである。情報公開、都民参加、都民との対話、タックス・イーターの外郭団体の整理・天下りの厳格な規制などは民主主義の基本である。
改革は官僚主導の政治では実現できない。とくに東京都は、職員が3万人、学校職員や警視庁などを入れると16万人、予算は一般会計8兆円、特別会計などを入れると16兆円という、1つの国家並みの自治体である。知事1人では改革できない。知事を支える政治的任命の局長級職員やスタッフとなる知事補佐官が不可欠である。
国政においては先んじて、「試験で選抜された官僚が国を導く」のではなく、「国民が選んだ政治家が国を導く」ために、官僚主導から政治主導への改革が行われた。だが、肝心の政治家が国民の信を失い、霞が関(官僚)と永田町(政治家)の共倒れ状態になっている。まさに日本国の危機である。これは、国民に選ばれた政治家が、政治ではなく、政治家であり続けるために選挙を第一に考え、さらに政治を家業として継承するようになっているからである。
民主主義は手続きの正当性を付与するが、結果の妥当性を意味しない。だが、有権者が選んだ選択なら、悲惨な結果をもたらすものであったとしても、有権者は受け入れられるし、その修正もできる。そのためには、「街頭演説による熱狂」でなく、情報公開と熟慮の民主主義が必要である。
(了)
<プロフィール>
小島敏郎(こじま・としろう)
1949年生まれ。愛知県立旭丘高校、東京大学法学部卒業。73年環境庁入庁、水俣病の政治解決、環境基本法の立法、気候変動対策などに携わり、地球環境局長、地球環境審議官を経て、2008年環境省退官。09~17年まで青山学院大学国際政治経済学部教授。現在、弁護士の他、名古屋市経営アドバイザー、愛知県政策顧問。著書に「これだけは知っておきたい日本の政治」(ウエイツ、2019)など。関連記事
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