2024年11月21日( 木 )

3D都市モデル・不動産査定や税評価を3Dで

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

(株)パスコ

 国土交通省が主導して全国の都市のデジタルツインを実現するプロジェクト「PLATEAU」。不動産分野における新サービス創出を目指し、PLATEAUで整備された3Dモデルを活用したビジネス・ソリューションを公募したところ、6事業が選定された。選定事業は約半年で、実装に向けた検討・開発を進める。選定事業の1つである(株)パスコの「『不動産鑑定・固定資産税・相続税』評価における3D都市モデル」の活用について取材した。

PLATEAUの特設サイトを設けて3D都市モデルでできることなどの情報を発信
PLATEAUの特設サイトを設けて3D都市モデルでできることなどの情報を発信

高低差や傾斜地を3D地図上で測定

 (株)パスコが応募した背景には、一括査定サイトを経由した不動産査定が増えており、こうした査定を行う不動産仲介会社は迅速かつ根拠のある査定を行うことが求められていると判断したことがある。また、行政機関が行う固定資産税や相続税の評価において、宅地とその前面道路に高低差がある場合や傾斜がある場合に、土地の評価額が変動するということがある。現状は、二次元(平面)地図を用いて現地調査も行い評価しているが、高低差や傾斜の把握に苦慮しているという現状がある。そのことが査定や評価が異なる一因となっており、結果として取引でトラブルが生じたり、評価結果に誤差が生じたりすることがあった。

 今回選定された「『不動産鑑定・固定資産税・相続税』評価における3D都市モデルの活用」においては、3D都市モデルをベースに各種地図、たとえば地番図や国土地理院の基盤地図情報などを重ねて、宅地と道路の高低差や道路の傾斜を地図上で計測できるようにしていくことを考えている。併せて、土地の価格を求めるために必要な公示地価、基準地価(都道府県地価)、取引事例、相続税の路線価、土砂災害の警戒区域など査定や評価を行ううえで必要な情報を3D地図で表現できるようにしていきたいとしている。

 3Dモデル活用のメリットとしては、2つのことが考えられる。1つ目は、宅地と道路の高低差を3Dで地図上に表現できるようになるので、不動産査定や土地の評価で迅速化、効率化がなされ、ひいては省人化につながること。2つ目は、取引などの相手側にとって納得感がある資料を作成できることだ。査定・評価結果を売主と買主、納税者に示すことが可能となり、当事者間の合意形成に寄与できる。不動産の査定においても同様のメリットが期待できる。

 今回の事業においては、GISのソフトを使用する。具体的にはArcGISを使い、3D都市モデルのデータや国土地理院の数値標高モデルをベースマップとして、地番図や固定資産税、相続税の路線価図などを重ねて表示していく。そのうえで、高低差や傾斜を地図上で把握して計測を実施。3D地図上での高低差や傾斜の計測の結果については、別のデータを比較・検証を行っていく予定だ。検証に使うデータは、航空機や車両にカメラやレーザー計測装置を搭載し、実際に測定した3Dの座標情報などを点で表現した3D点群データを使用し、3D地図上の高低差や傾斜の計測が、実際に実務で使えるものなのかを検証する。ArcGISを使用するのは、すでに普及していることに加え、3Dデータの処理が迅速である点などを評価したためだ。

クラウドサービスも将来的な視野に

(左)東日本事業部資産情報部副部長  藤山聖 氏 (右)事業統括本部G空間DX推進部部長  岩崎秀司 氏
(左)東日本事業部資産情報部副部長  藤山聖 氏
(右)事業統括本部G空間DX推進部部長  岩崎秀司 氏

 今回採択された事業の利用者としては、不動産仲介会社や行政機関の職員が想定されるが、これらの想定利用者に対しては、ヒアリングを実施していく予定。ヒアリングにおいては、実務で使えるデータの精度となっているかの確認も行う。また、不動産鑑定士へのヒアリングも予定している。さらに、今回集めた地図データを使い続けるうえで、データの更新時期や頻度、更新の手法としてどのようなものが考えられるのかを、業務のなかで検討していく方針だ。

 固定資産税評価において高低差や傾斜は補正の対象となるが、補正を行うための現地調査にも人手やコスト、時間がかかるため、今回のサービスにより省人化が図れる。さらに、3D地図上において定量的なデータを使った査定・評価が可能となる。

 今回の事業がうまく進めば、不動産仲介会社や固定資産税評価を行う行政機関などといった想定利用者に加え、不動産鑑定評価、行政による用地買収や土地区画整理事業など、官民を問わず、迅速かつ公平な土地の評価ができるようになると期待している。精度の検証やニーズの確認など、今回の検証を踏まえ、セキュリティを考慮したうえで、将来的にはクラウドによるウェブサービスでの展開も視野に入れている。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事