2024年11月21日( 木 )

住宅の設計者とは?(後)知られざる施主と住まいへの愛(1)

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そこに愛はあるのか?設計者の愛情はどこまで知られているのか… pixabay
そこに愛はあるのか?設計者の愛情はどこまで知られているのか… pixabay

 設計の楽しさだけにとらわれてしまうと、本当は住宅を設計するのが大切なのに、図面を描くという手段が目的になり始める。次第にやらなくていいことまで、そうするのが当たり前のような顔をしてやるようになっていく。“これは本当に住み手が望んでいることなのか…”─その設計が本当に「住むための設計」になっているかどうかは、常に自問自答していかなければならない。自分でも気づかないうちに、自己満足に陥っている恐れもある。
 もしかすると住宅の設計はもっとおおらかで、「いいかげん」なものであっていいのかもしれない。「なぜだかわからないけど、ここにいると落ち着く…」──そんな心の動きに、建築家はもっと敏感になるべきだ。施主のことを思ってあれこれと苦心する設計者の愛情は、どこまで深いものなのか、建築家の“慈悲”について触れてみたい。

①寝室
②収納
③玄関

④子ども部屋
⑤目に見えないデザイン
⑥目に見える心地良さ
⑦家との長い付き合い方

④-1
子ども部屋は3畳弱

スタディコーナーはもう一つの子どもの居場所 出典:KOIZUMI onlineshop
スタディコーナーはもう一つの子どもの居場所
出典:KOIZUMI onlineshop

    スタディコーナーとは、子どもが教科書やノートを広げて勉強に勤しむスペースのことを指す。多くはリビング、ダイニング、キッチンといったパブリックなスペースの近くに、2人以上が並んで座れるカウンター状の机として、つくりつけられる。かつては同じ目的でダイニングテーブルが多用されていたが、食事のたびにテーブルの上を片づける手間を考えると、「専用のスペースを設けたほうが使い勝手が良い」との流れから、次第に「スタディコーナー」として独立させる家が増えていった。今では「スタディルーム」のような半個室として、リビングと隣接させて設置するお宅も多い。

 机に2人以上の横幅を確保するのは、子どもの隣で親が勉強を見てやるのに都合が良い。真面目に学問を探究する場というよりも、子どもと一緒に興味あることに打ち込み、互いにコミュニケーションを深める場、といったほうが適切かもしれない。スタディコーナーを設置する間取りは、今後ますます「子ども部屋」の一種として存在感を高めていくだろう。

 一方、スタディコーナーの躍進にともなって、子ども部屋全体の面積は狭くなっている。1人あたり4畳半もあれば良いほうで、3畳程度のコンパクトなものも多い。狭くなった理由は主に2つ。1つはスタディコーナーの登場により、それまで子ども部屋にあった機能が一部そちらに移行されたためだ。子ども部屋から飛び出した大物の1つが学習机。学習机と椅子のセットが丸々なくなれば、狭い子ども部屋でも機能上はさほど問題がない。もう1つは子ども部屋に収納機能を置かず、家族全員の収納部屋「ファミリーWIC(ウォークインクローゼット)」とする流れも大きい。

 勉強は子ども部屋以外の場所でするだろうから机は必要なし、洋服は家族全員分のタンスを1カ所にまとめたほうが洗濯家事に便利だから個別に設けない、3畳弱という数字を見ると狭そうだが、机もタンスも置かない子ども部屋なら、それほどでもない。シングルベッドが1つ置いてあるだけで、子ども部屋として十分に成立するのだ。

④-2
子ども部屋の配置

 子ども部屋は、できるだけ親のいるところから離れた場所に配置するのが望ましい。家族の滞在時間が長いLDK、親が寝起きする寝室など、親のいる場所からなるべく離れたところに置く。「それが生き物の本能に合致する配置だから」というのが、ある建築家の持論だ。ここでいう本能とは、“縄張り”や“テリトリー”といった動物が生きていくうえでの本能的な戦略のこと。動物というのは、自らの身の安全を守るために縄張りをつくる。人間も動物の一種と考えれば、その習性は同じと考えられる。縄張りは身体的・精神的に安心・安全を得るのが目的だから、互いに近接していては意味がない。親と子の居場所を離すというのは、生き物の本能に沿って考えれば当然のことなのだ。

 子ども部屋とは、家のなかにつくる“子どもの縄張り”。住まいは、そこに住むすべての人が安心して過ごせる場所でなければならない。安心の定義はさまざまだが、こと家族間の関係に絞っていえば、そこには2つの安心が存在する。

安心でいられる居場所を探す pixabay
安心でいられる居場所を探す pixabay

    1つは「家族と一緒にいることで育まれる安心」、もう1つは「いつでも1人になれるという保障から生まれる安心」。この2つが約束された住まいは、誰にとっても穏やかに、気楽に過ごせる楽園になる。スタディコーナーと子ども部屋は、まさにそのための必須アイテム。家族と一緒に居たいときはスタディコーナーに、1人になりたいときは子ども部屋に。役割の異なる2つの場所を与えられた子どもは、1年中安心に包まれたなかで暮らしていける。その日、そのときの気分で2カ所の居場所を使い分けられれば、「どこにも居場所がない」という状態に追い込まれることはないだろう。

 そんな思想が図面に練り込まれているだろうか?設計者は無言で、その教育観をあなたのお宅に落とし込んでいる場合がある。彼らの愛情をありがたく受け取れるか、余計なお世話だと突き返すかはあなた次第。子ども部屋をつくることはできても、教育観を実践していくのはご家庭の教育方針に準じていくしかない。そのためのアシストは、設計者が力を貸してくれるはずである。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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