2024年12月26日( 木 )

元「鉄人」衣笠祥雄氏が斬る!「野球プレミア12」の敗戦、捲土重来を期して頑張れ!

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衣笠 祥雄 氏 「名球会公式HP」より<

衣笠 祥雄 氏
「名球会公式HP」より

プレミア12が開催されると決定した時から「優勝」という十字架を背負わされての今回のイベントだった。日本の野球ファン誰もが日本チームが優勝するものだと考えていたし、その目線で予選リーグ、決勝を見ていたと思う。


 札幌で始まった予選リーグ「韓国」との第1戦、地元の大谷投手がものの見事に相手打線を抑え込み完勝。この勢いで予選は走るだろうという思いを強く持たせた勝ち方だった。そして舞台を台湾に移しての第2戦、相手はメキシコ、事前に来るのか?来ないのか?と揉めていたチームだけに簡単に勝つだろうと思っていたが、苦戦、9回サヨナラという勝ち方で少し心配した。抑えの投手の出来に注目、この試合9回に沢村投手が打たれて追いつかれ、裏に中田選手のサヨナラ打で、かろうじての勝利だった。


 そして第3戦。今回のチームはどうかな?という楽しみにしていたドミニカ共和国、先発の若い武田投手がマイペースでスイスイという感じの投球を見せていたのだが、4回終了時に足首を痛めて交代、2番手の小川投手が本塁打を打たれて2点を取られたが山崎投手、松井投手が頑張り4対2で勝利。この試合、5安打という事で少し打線の元気ないところに心配が移ったのだが、第4戦のアメリカ戦ではしっかりと頑張り10対2というスコアで完勝。


 これで一応予選通過、準々決勝進出決定で安心した訳ではないだろうが、5戦目のべネズエラ戦は先制点を奪われ、先行を許し、その後、同点に追いつけば、追加点を与えるという苦しい試合展開で、終盤8回に2点、9回に2点を取りサヨナラ試合という苦しい試合を見せてくれた。この予選5試合の感想は、日本チームが少しずつまとまりを見せてくれている感触は有るのだが、チームとしての練習不足をあらわにした場面が幾度となく見えた。先発投手は安心してみられるのだが、リリーフが慣れていない、抑えに絶対的な投手が見当たらないという弱点がしっかりと見えて来たのではないだろうか。


 点差を見ても5対0、6対5、4対2、10対2、6対5で、安心してみられる試合は2試合しか無かったと思う。後の試合はどちらに転んでも不思議ではない試合ばかりで、日本チームのメンバーからすると物足りない勝ち方の試合が多かったというところが本音だ。


 こうして迎えた準々決勝、相手はプエルトリコ、少し投手力に不安の有るチームだけにどう戦うかな?と見ていたが、順調に先制点を挙げて、3回に追加点、4回にダメ押しに近い2点を上げ、先発の前田投手が7回を4安打、7三振と押さえ込んで完勝という試合運びを見せてくれた。9回に増井投手が3ランを打たれたが、全く試合に関係ない9対3というスコアで押し切り、日本の強さをようやく見せつけた試合ではなかっただろうか。


 打線も中村選手の故障があったが、ようやく固定したメンバーで戦う姿が出来てきて、今回のメンバーは、2番打者が坂本選手、川端選手あたりが初回から「バント」という作戦は出さず、攻撃的な打線を展開したと思う。ただ、3番に入った山田選手は少し疲れが出ていたのか、四球は多く選ぶのだが、ヒットが量産というところに行かず、爆発力には繋がらなかったようだ。筒香選手、中田選手はよく働いてくれたのだが、松田選手が少し入れこみすぎて、本来の打撃が出来なかったところも、終わって見ると寂しかったか?そのぶん同じチームの中村選手が良い働きを見せてくれた。


 こうして迎えた準決勝の韓国戦、以前からお互いに切磋琢磨してアジアの野球のレベルを上げてきた両チーム、今回のメンバーを見ると投手力に少し不安が残る韓国チームに比べると、日本チームが少し有利かな?というところで始まった試合だ。先発は韓国チームが日本のロッテで頑張っているデウン投手、日本チームは札幌での試合で好投した日本ハムの大谷投手だ。大谷投手は初戦に次いで韓国チームに2度目の登板という事になり、精神的にはかなりの負担になるのではないかと心配したが、初回1番打者を三塁ゴロ、2番打者を三塁ゴロ、3番打者を得意のストレートで三振という完璧な立ち上がりを見せて好調をアピールした。


 2度目の対戦で気合いの入っている韓国打線を完璧に抑えての立ち上がりを見せ、味方の攻撃を待った。その裏の攻撃の日本打線、パリーグの打者はシーズンゲームで多く対戦している打者も多いはずだが、この日のデウン投手はシーズン中と違い、ワインドアップからの投球を見せて、シーズン中のセットからの投球とタイミングの取り方が違う投手に変身、少し打者は戸惑いがあったかもしれないが、秋山選手がショートフライ、坂本選手がショートゴロ、と簡単に2死を取られた。今年大活躍の山田選手を迎え、警戒しすぎたのか四球、4番筒香選手にも力みが見えての四球。今までの日本チームならばここで一気に行くところだが、次の中田選手が今度は力んでショートフライでアウト、絶好の先制機を逃した。


 2回が4番のイデホ選手に死球を与えたが、5番をライトフライ、6番をセカンドゴロのダブルプレーで簡単に片付けて、味方打線の攻撃に繋げた。ただ、2回の攻撃は、1死から中村選手が初ヒットとなるレフト前のヒットを記録したが、後が続かず0点。3回の大谷投手は7番、8番を連続三振、9番の打者は三振したくないと1球目を打ちファーストゴロ、全く不安の無い投球で一巡目の韓国打線を押さえ込んだ。ところが、日本打線もデウン投手の荒れ球に全くつけ込むことが出来ずに3回を終えた。


 試合が動いたのが4回の日本の攻撃。先頭の中田選手の四球が引き金になり、松田選手は三振に終わったものの、中村選手が「こうして攻略するのだ」という打ち方でレフト前に運び1、3塁とチャンスを広げた。そして、平田選手のレフト前のヒットに繋げての先制、9番嶋選手のショートゴロをショートの選手がセカンドに悪送球して2点目、秋山選手が四球でつなぎ、坂本選手のライトへの犠飛で3点目を上げた。


 よくシーズン中の試合でもいう言葉だが、先制点を上げた裏のイニングでは絶対に抑えなくてはいけない。大谷選手が2巡目の韓国打線をどう料理するか?得点をもらった次のイニングが見物だったが、全く心配要らずで、1番をライトフライ、2番を三振、3番打者を2打席連続の三振で終了。素晴らしいストレートが見られて日本のファンはノリノリだったろう。結局6回まで大谷投手は韓国打線に1本のヒットも許さず好投。7回には、1番打者にセンター前に初ヒットを打たれたが、その後の2、3番打者を連続三振、イデホ選手をサードゴロで0点に抑えて交代した。


 この交代はいろいろ考え方も有るだろうが、7回に少し手のひらを見つめる仕草が有り、指のマメが心配されての交代だったかもしれない。本来ならば85球という投球数なら当然完投も考えられるが、マメができやすいという事を考えると仕方なかったのかもしれない。


 この7回裏の攻撃で日本チームには絶好の追加点のチャンスが訪れている。2番坂本選手が四球、そして盗塁を決めて、山田選手がまた四球を得て、無死1、2塁、4番筒香選手、5番中田選手、6番松田選手で追加点を得ることが出来なかった。ここで1点でも取っていれば、韓国チームはこの試合の行方を嫌でも考えなくてはならなくなるという事を、攻撃陣がどこまで感じていただろうか?ここは経験値の必要性を感じるのだが、それぞれ、一生懸命に自分の打撃で何とかしようとしていたが、この場面は「何とかしよう」ではなく、結果がほしい場面だった。4番という役割を忘れてでも走者を送る、5番という打順をもう一度考えてみる。残された走者を何としてでも返す。これが求められる場面だった。若い中心選手たちは良い経験をした事だろう。


 普段のシーズンゲームと違い、国際試合の運び方を学んでほしい。8回にも1死、1、2塁というチャンスを得ながら1番、2番で得点に繋げられなかった事が韓国チームの9回のビッグイニングに繋がった。終盤の7回と8回に、日本チームがチャンスを潰しているのを見て、自分たちのチームにまだまだチャンスが有ると韓国チームのメンバーは確信した事だろう。試合の流れというものはそんなものである。日本チームは2番手投手に則本投手を送り出した時点でもう後の投手はいないと考えるべきであり、則本投手にすべてを託す覚悟がほしかった。


 今回の戦いを振り返るとまだチームになっていないところが随所に見られ、守備の面では練習が必要だと感じた。そして普段1塁を守らない中田選手がファーストに入ることで難しかった面も有るだろうが、普段から練習しといてほしい。何よりオフシーズンも忙しいメンバーばかりだが、集まっての練習の必要性を強く感じる今回のイベントだった。今回、他国チームのメンバーを見れば、日本がこのメンバーで負けたということは、本当に「悔しい」という思いから抜けられない。グラウンドで戦った監督・コーチ・選手は私なんかよりもっと、もっと悔しい思いをしたことだろう。


 この悔しさを忘れないで日々の練習に生かして次のWBC、そしてオリンピックに繋げてほしい。

 

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