2024年11月25日( 月 )

ハイパーインフレが待つ日本の未来(前)

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参議院議員 藤巻 健史 氏


 データ・マックスでは参議院議員の藤巻健史氏を招いて講演会を行った。藤巻氏は大学卒業後、金融畑を歩み、伝説のディーラーとまで呼ばれた金融のプロフェッショナルだ。モルガン銀行の東京支店長を務め、現在は参議院議員としてその辣腕を振るっている。講演会の後、弊社代表・児玉直が日本の将来について聞いた。(取材日:8月28日)

(聞き手:弊社代表・児玉 直)


ギリシャ財政危機と日本の現状の違い

 ――ギリシャの財政危機が欧州、世界を混乱に陥れています。日本も財政が健全とは言い難いですね。藤巻さんはどのようにご覧になりますか。


 藤巻 日本とギリシャの状況における決定的な違いは紙幣を刷ることができるかどうか、にあると思います。私は国会議員として、私の給与を国から出してもらっていますが、給与が払われなくなるといった心配をしたことはありません。なぜかというと、日本銀行がいくらでも紙幣を刷ることができるからです。一方、ギリシャはユーロを用いています。ユーロはヨーロッパ中央銀行でしか発行することができません。その差があると思います。


 ――自国通貨と共同体通貨の違いですか。


 藤巻 そうです。日本は財政ファイナンス(政府の借金を中央銀行が紙幣を刷ることによって補うこと)ができますが、ギリシャはできないということです。ただ、それは健全か?と言うことです。


 ――日本はお金がなければ刷ればいい、という状態だとおっしゃるのですね。


参議院議員 藤巻 健史 氏


 藤巻 そうです。今やっているのがまさにその状態です。今、日銀がやっているのは、毎年毎年、銀行に国債を売り、その後すぐに市場を通じて日銀が銀行にお金を渡す、というものです。これは直接フリーキックではなく、間接フリーキックのような状態ですね。今年、国は152.6兆円の国債を市場に発行しますが、日銀は市場から110兆円も購入するのです。間接フリーキックですので一見わかりにくいですが、事実上の財政ファイナンスです。


 ――政府はそれを認めているのですか。


 藤巻 私は国会でその件について質問したことがあります。麻生太郎さんは、その問いに対して、「今、日銀でやっている異次元の量的緩和はデフレから脱却するためのもの。だから財政ファイナンスではない」と答えました。これは実におかしな話です。目的によって、財政ファイナンスであるかどうかが決まるということはありません。目的がどうあれ、中央銀行が国債を大量保有したら、それは財政ファイナンスなのです。日銀が今やっている異次元の量的緩和という言葉も、実際はただの財政ファイナンスに過ぎません。

デフレ脱却の先にある混乱と負担

 ――政府の言う「デフレ脱却のため」という言葉について、お考えをうかがいます。


 藤巻 デフレの脱却のためにインフレにしたい、という考え方は、日本の借金問題の解決のためにはそれしかないからだと思います。かつて、橋本首相が財政構造改革法案を発表しました。その法案の2条に財政は危機的状況にある、と書かれています。では、その当時、日本の借金がどのくらいあったのかというと、実は369兆円なんです。今はその約3倍の1,057兆円にまで膨らんでいます。
 では、GDPも3倍になっているのか、というとそうではありません。名目GDPは1997年当時521兆円です。今は500兆円弱です。体力が落ちているのに借金は3倍という状況です。今ある借金も、毎年さらに増え続けています。平成26年度の予算で言いますと、41兆円の赤字です。これをどうすればいいかというと、解決策はあまりないのです。法人税を倍にすればいいではないか、といっても(そんなことをすると、企業は皆海外に逃げてしまうと思いますが)およそ10兆円収入が増えるだけですし、所得税を倍にしようとしても14.8兆円しか赤字を縮めることができません。それだけ大きな借金なのです。それを重ねてきたせいで、今や借金が1,057兆円にまで膨らんでしまったのです。
 予算の規模が今、約96兆円で、そのうちの税収+税外収入が約55兆円です。借金を減らすために毎年10兆円を捻出しようとしたら(それでも元本返済に100年かかります)、歳出を45兆円に抑えなければならなくなります。今の約半分です。それだけ大きな借金をどうするか、という数少ない答えがインフレにあると思うのです。ただし、これは国民に多大な混乱と負担を強いることになります。


 ――インフレの最たるものは、第一次大戦後のドイツで起こりましたね。


 藤巻 そうですね。インフレというのは、端的に言うと物価の上昇です。たとえば、タクシーの初乗り料金が1兆円になれば1,057兆円なんて取るに足らない金額と言えます。これは冗談ではなくて、実際にドイツでそれに近いインフレが起こっていたのです。インフレは債権者から債務者への富の移行と言い換えることができます。インフレによって借金を事実上減らす以外に、方法はないと思います。
 ただ、そのとき国民は地獄を見ることになります。貯蓄が無価値になりますし、明日のパンの値段も予測できない状態になります。今、政府がやっている異次元の量的緩和と呼ばれる財政ファイナンスは、消費者物価指数を2%上昇させるためのものであると公言しています。では、消費者物価指数が2%上昇したら、この財政ファイナンスをやめるのでしょうか。すると国債の購入は誰がするのでしょうか。今はお金をどんどん刷って日銀が購入(=国への貸し金)していますが、その目的が達せられた後は、地獄しか待っていないということです。禁じ手を行うと、一時的には一見、事態が好転したように見えますが、その後につけが必ずまわってくるんです。

量的緩和の正体は財政ファイナンス

 ――日銀総裁は、もちろん禁じ手を使っているとわかっているのですよね。


 藤巻 そうですね。黒田東彦日銀総裁に「いつまで量的緩和を続けるのか」と問うたことが何度もあるのですが、その都度返答は「今は時期尚早だ」というものでした。目的が消費者物価指数の2%の上昇というところにあるから、時期尚早という答えもできるのでしょうが、それが達せられたら、次はどうするのでしょうか。麻生さんは「国が信用されているから国債を買ってもらえている」と言っていますけれども、実際は、ただ日銀が(実質)引き受けているだけのことですから。私はこういった状況を非常に危惧しています。


 ――日銀が禁じ手を続けている以上、事態は悪化を続けるということですか。


 藤巻 そうですね。それをやめたときに大きな反動が出る、ということです。そもそも、市場原理が働かない組織が大きな手を打ってくると、あまり良いことはないと思います。資本主義、社会主義という言葉がありますが、日本は社会主義に極めて近い資本主義とよく言われます。私が投資銀行の日本支店長(モルガン銀行東京支店)だったとき、部下の外国人たちはすべてその認識を持っていました。社会主義や共産主義は少数の天才が多数の市民を総べ、所得の分配を行い、一方、資本主義は、1人ひとりはあまり頭が良くないかもしれないけれども、多くの人々が市場を通じて資源の分配をするものだと思います。市場に任せていると、小さなアップダウンはありますが、大きな上昇、大きな下降はありません。頭の良い少数に任せていると、膿がたまってどーんと下降してしまうことがあり得ます。日本は今、内側に膿を貯めこみ続けている状態になっています。市場原理に任せて、市場原理の働く国にしていかなくてはいけないと思います。


 ――小泉政権当時、資本主義を強めようとしていたように感じます。


 藤巻 小泉政権の経済政策は大きな批判を受けましたが、私は、あの路線をやりきれば、正常化できていたのではないかも考えています。小泉政権は格差社会を生んだ、と言われますが、今、一見穏やかに見える格差のために、国家予算は55兆円の歳入に対して97兆円をつぎ込んでいます。これで生活水準が守られ、格差がなくていいね、と言っているのです。支出が収入(税収+税外収入)の2倍もする生活がいつまでも続くとは思えません。パイをどう分割するか(=格差をなくす)よりも、パイをどう大きくするかを考えなければなりません。そうであるならば、日本を真の資本主義国家に変えなければならないのです。結果平等ではなく、機会平等の世界です。

(つづく)
【文・構成:柳 茂嘉】


<プロフィール>
藤巻 健史(ふじまき・たけし)
1950年6月3日、東京都に生まれる。一橋大学商学部卒業後、三井信託銀行に入社。トップセールスマンとして活躍し、社費でアメリカ・ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院に留学、修了しMBAを取得する。帰国後、ロンドン支店勤務を経て、退社。モルガン銀行に勤める。東京支店長を経たのち独立。フジマキ・ジャパンを設立した。著名投資家のジョージ・ソロス氏の投資アドバイザーなどを務める。2013年、参議院議員選挙に出馬、当選を果たす。

 

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