国土交通省の社会資本整備審議会住宅宅地分科会は11月4日、「住生活基本計画(全国計画)」の見直しに向けた中間とりまとめを公表した。これは、住生活基本法に基づき概ね5年ごとに改定される住宅政策の最上位指針であり、住宅行政の「羅針盤」と位置づけられるものだ。次期計画は2050年の社会像を展望しながら、35年頃までの今後10年間に重点を置く。住宅は今や「建設・供給」の段階を終え、人口減少・高齢化・気候変動など多面的な課題に直面する。中間とりまとめは、こうした現実を前に、住宅政策を「量から質」「建てるから活かす」へと根本的に転換する方向を明確にしたものである。
人口構造の激変が迫る政策の再設計
中間とりまとめの出発点は、2050年に向けた社会の構造的変化である。生産年齢人口(15~64歳)は現在の約7,400万人から約5,200万人にまで減少し、全国で約2,000万人もの働き手が失われる見通しだ。世帯構成も大きく変わる。単身高齢者世帯は現在の約800万世帯から1.5倍に増加し、反対に子育て世帯は減少を続ける。地方では空き家の増加が止まらず、全国の空き家総数はすでに900万戸を超えた。都市部では住宅価格が高止まりし、若年層の住宅取得はますます困難になっている。
これらの変化は、戦後日本が前提としてきた「家を一度取得すれば一生安心」という価値観を、根底から揺るがす。ライフステージに応じた住み替えや、住宅を資産として循環させる発想が求められているのだ。さらに、住宅を地域福祉や医療、環境対策と連携させることが、もはや不可欠となっている。このため、中間とりまとめは住宅政策を「住まうヒト」「住まうモノ」「住まいを支えるプレイヤー」の3つの視点で再整理し、これまでの「新築中心の量的拡大」から「既存ストックを生かした質的充実」へと軸足を移している。つまり、単なる住宅供給政策ではなく、人口減少社会における「暮らし方の再設計」そのものを意味する。
「住まうヒト」
孤立防止と多様な選択肢
最初の柱である「住まうヒト」では、とくに高齢者、若年・子育て世帯、住宅確保要配慮者の3層に焦点が当てられている。まず高齢者については、「孤立しない住まい」の実現が鍵だ。独居高齢者の増加と地域コミュニティの希薄化は、介護・医療の課題と直結している。計画では、医療・福祉施設が近接し、買い物・交流・見守りが一体的に機能する「コンパクト・プラス・ネットワーク型」居住モデルの整備を掲げる。これにより、在宅介護・地域包括ケアとの連携を強める。また、住宅資産を活用するリバースモーゲージや、高齢期リフォーム支援の強化、省エネ・バリアフリー改修への補助拡大など、既存住宅の活用策も盛り込まれた。
(画像はイメージ)
若年・子育て世帯については、住宅費負担の軽減と居住地の選択肢拡大が重要課題である。相続空き家や公営住宅の空室を活用した低廉な住宅供給、テレワークや二地域居住に対応する住まい方の促進、子育て世帯が職住近接で暮らせる都市構造づくりが進められる。これにより、共働き世帯が安心して子育てと仕事を両立できる環境を整備する。
さらに、住宅確保要配慮者(低所得者、高齢者、障がい者、ひとり親世帯など)への支援も強化される。各自治体で「居住支援協議会」の設置を拡充し、居住支援法人やNPOと連携した支援ネットワークを形成。公営住宅と民間賃貸住宅の双方を生かす住宅セーフティネットを再構築する。これらは、住宅政策が単なる「家を与える」ものから、「暮らしを支える社会基盤」へと進化する象徴である。
「住まうモノ」
既存住宅による循環型へ
2つ目の柱「住まうモノ」では、既存住宅の再評価と循環利用が中心テーマとなる。日本の住宅総数は6,200万戸を超え、今や世帯数よりも多い。しかし、耐震性や断熱性能、省エネ性能を満たさない住宅は全体の約4割に上るとされ、質の面では大きな課題が残る。中間とりまとめでは、まず「既存住宅の性能向上」と「市場評価の適正化」を明確に打ち出した。2030年までに新築住宅の省エネ基準をZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準へ全面引き上げ、既存住宅にも断熱リフォームや省エネ改修の支援を拡充する。これにともない、改修による住宅の資産価値向上を税制や金融支援で後押しし、住宅を使い捨てではなく、“再生する資産”へと転換する。
また、住宅履歴情報(住宅版カルテ)の整備、インスペクション(住宅診断)の普及、瑕疵保険制度の拡充などを通じて、既存住宅市場の透明性と信頼性を高める。これにより、リフォームや性能向上により価値が上がる「循環型住宅市場」の確立を目指していく。空き家対策についても、これまでの「放置防止」から「活用・終活」へと方針を転換する。住宅の誕生から除却まで切れ目のない管理体制を構築し、老朽化マンションの建替え支援や公営住宅団地の再生なども進める。地域単位での空き家バンク活用や、若者・移住者へのマッチング制度の整備も重要な要素だ。これらの施策は、老朽住宅が地域の景観や防災力を損なうリスクを低減し、住宅ストックの循環利用による持続可能な社会を目指すものである。
これからはさらに受け入れられそうだ
次に焦点となるのが、住宅地の「立地」と「地域再生」である。全国636市町村で策定が進む「立地適正化計画」を軸に、災害リスクの高い地域からの居住誘導や、公共交通・商業・医療などが集約されたエリアへの居住促進を進める。とくに重視されているのが、「防災と居住の一体化」だ。近年、豪雨災害や地震被害が相次ぐなかで、住宅の立地そのものが生命と財産を左右する要因となっている。中間とりまとめでは、耐震化率の向上、密集市街地の解消、災害ハザードエリアからの移転支援を推進するほか、災害時の応急住宅供給体制を官民連携で整備する方針を示した。
さらに、地域コミュニティの再生や地方移住促進にも踏み込む。相続住宅の早期活用や生活拠点の整備、二地域居住、リモートワーク拠点の設置などを通じて、地方での暮らしを選択しやすくする。これは単なる「地方創生」の枠を超え、地域の持続可能性を左右する住宅政策として位置づけられている。
「プレイヤー」
担い手不足への対応
第3の柱では、住宅産業・行政双方の「担い手不足」に焦点が当てられた。大工・左官・電気工事など技能職の就業者数は過去20年で約半減していることなどを背景に、建設現場の生産性向上を目指し、DXやBIM(Building Information Modeling)の導入、建設キャリアアップシステムの活用が推進される。また、女性や外国人の参入を促進し、多様な人材が住宅産業を支える構造へと転換を図る。木造中大規模建築の拡大も注目される。国産木材の利用拡大やCLT建築の普及が進み、地域林業の活性化と合わせて循環型経済の構築が期待されている。
一方、行政側の課題も深刻だ。住宅行政を担う地方自治体職員はこの30年間で15%減少しており、建築技師に至っては4割の自治体で不在という。中間とりまとめでは、国が市場整備を主導しつつ、地方が民間やNPOと協働して住宅政策を展開できる体制を整えるよう求めている。分野横断的な相談窓口の設置、地域データベースの統合、PPP・PFIによる住宅団地再生など、官民連携による新たなモデルづくりが期待される。
「ウェルビーイング」
重視の時代
これまでの住宅政策は、住宅の性能や供給量を中心に据えた「モノ」志向だった。しかし、中間とりまとめでは明確に、「国民1人ひとりの暮らしと住まいのウェルビーイング(幸福)」を政策目的に掲げている。住宅を“買う・借りる”という経済活動にとどめず、人生100年時代における生き方・働き方・地域とのつながりまでを含めて支える政策へと進化しようとしている。これからの住宅政策は、建てることよりも“住み続けられる社会”の構築に重心を置くものとなる。
空き家を再生し、地域で活かし、住まい手の多様なライフステージに応じて住み替えを支援する──。そうした循環型の住宅社会が、目指すべき姿だ。2050年に向けて、住宅は単なる「箱」ではなく、人と地域、産業と環境をつなぐ「社会のプラットフォーム」へと変えられるか、今後の行方が注目される。
当時からは住まいの内容が大きく変化したが、
これからもさらに変化しそうだ
今回の「中間とりまとめ」は、2050年を見据えた住生活の姿と、そこから逆算して得られる今後10年間の施策の方向性、施策のイメージなどについて整理したものだが、一方で資材価格の高騰などによる住宅価格の上昇や、自然災害の頻発・激甚化、脱炭素化に向けた国際的な動きなど、住生活を取り巻く環境は日々変化している。こうした社会環境の変化も加味しながら、26年3月をメドに策定が予定されている新たな「住生活基本計画(全国計画)」に向けて、住宅宅地分科会において具体的な検討を進められることとなっている。
【田中直輝】

月刊まちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)
ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)









